第四十一章 白虎の再会
夜が明けきらないうちに、レイウォールの街は静かに動き始めていた。
国王の正規兵が教会派の貴族たちを次々と拘束していく声が、石畳の路地の向こうから届いてくる。ミカたちが戻った倉庫の中では、ヴェロニカが手早く情報を整理し、ゾラが無言でエリカに毛布をかけ直していた。
エリカはまだ眠っていた。
小さな体を丸めて、何かを握るように手を閉じたまま。その寝顔を見ていると、昨夜のことが嘘みたいに思えた。
「ミカ」
カリナが静かに呼んだ。
「外に誰かおる」
ミカは立ち上がった。トフィーがぴくりと耳を動かす。
『知ってる子だよ』
念話の声は、どこか楽しそうだった。
扉を開けると、夜明けの薄い光の中に、白い影が立っていた。
白髪が、風に少し揺れている。頭の上には虎耳。背後には長い虎尾がゆっくりと左右に揺れていた。
ミカは、しばらく動けなかった。
「……パラン?」
「久しぶりだな、ミカ」
その声は、記憶の中より少し低くなっていた。でも笑い方は変わっていない。まっすぐで、隠し事のない笑顔だ。
「でかくなったな」
「パランの方がでかいよ」
「それはそうだ」
パランは屈託なく笑った。四年前、ルクスの元で泥だらけになって一緒に倒れていた少年が、今は近衛の装束を身に着けて立っている。
「リセイゴスに行ってから、どうしてたの?」
「色々あったけど……今は近衛見習いやってる」
パランが身に着けた装束に目をやって、ミカは少し納得した。
「だから今回の騒ぎも、内側から少し動けた」
パランの表情が、少し引き締まった。
「国王陛下は無事か」
「うん。さっき正規兵に引き渡した」
「そうか」
短く息をついて、それから改めてミカを見る。
「実は、お前たちを探してた。教会の正規軍が動いてる。ただの鎮圧じゃない。大陸全土に向けて、何かを仕掛けようとしてる」
ミカの背筋が冷えた。
「……詳しく聞かせてくれる?」
「そのために来た」
パランはそう言って、倉庫の中をちらりと覗いた。見慣れない顔がいくつも並んでいる。バナージュの薄紫の瞳と目が合って、パランは少し目を見開いた。
「……随分と、賑やかになってるんだな」
「色々あったから」
「そうだろうな」
それから、小さな声が聞こえた。
「……しろい、みみ」
エリカがいつの間にか目を覚まして、倉庫の入り口からパランを見上げていた。眠そうに目をこすりながら、でも興味津々の顔で。
パランは一瞬きょとんとして、それからしゃがんだ。エリカの目線に合わせて。
「触ってもいいぞ」
エリカは少し考えてから、ちょこちょこと近づいて、おそるおそる虎耳に手を伸ばした。ふわ、と触れた瞬間、エリカの顔がほころんだ。
「やわらかい」
「だろ」
パランは笑った。ミカは、その横顔を見ながら思った。
四年、経ったんだな。
でも、変わってないところの方が多い。
「上がって。みんなに紹介するよ」
ミカがそう言うと、パランは立ち上がって頷いた。
「ああ。それと、ミカ」
「うん?」
「お前、強くなったな。街の中の動きを聞いてた。あれ、お前たちがやったんだろ」
ミカは少し照れて、視線を逸らした。
「……みんなでやったから」
「そうか」
パランはそれ以上何も言わなかった。でも、その笑顔がすべてを言っていた気がした。
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