表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀鞭の魔術師 〜最強魔術士かく戦えり〜  作者: ide


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/69

第二十六章 山岳の封印

ジンジュードの街はまだ眠っていた。見張りの兵士だけが石畳の上を歩いている。その横を通り抜けて、北の城門に向かった。

門番がカリナの顔を見て、黙って通してくれた。ガルド将軍の名前が、ここでも効いているらしい。

城壁を出ると、北に向かって山岳地帯が広がっていた。

朝靄の中に、山の輪郭が浮かんでいる。ガンドランドの周囲の丘とは全然違う。岩肌が剥き出しで、木々が少なくて、道が険しい。

「あそこを登るんですか」

「そうじゃ」カリナが平然と言った。「でもバナージュがいるから楽じゃよ」

バナージュが竜の姿に戻った。

背中に乗って、山岳地帯の上空へ上がった。上から見ると、山の複雑な地形がよく分かった。切り立った崖、深い谷、岩だらけの尾根。人が歩いて入れる場所は限られている。

「気配を探る」

バナージュが低く言った。

しばらく上空を旋回した。ミカは下を見ながら、聖魔術をごく薄く外に広げた。クレアマシスに習った感覚の応用だ。邪気に反応するかもしれない。

「ミカ、何かするか?」

「少し試してみてます。邪気があれば反応するかなと思って」

「面白い発想だ」

旋回を続けながら、ミカは感覚を広げ続けた。

五分ほど経った頃、かすかな反応があった。

「あっちに何かある」

山の中腹、岩壁に囲まれた小さな窪地の方向だ。

バナージュが向きを変えた。

近づくにつれて、反応が強くなった。邪気だけでなく、別の何かも感じる。人の気配だ。

「バナージュ、人がいます」

「われも感知した。二人、岩陰に隠れておる」

「位置は」

「窪地の北側の岩壁の裏だ」

カリナが静かに言った。

「では作戦通りじゃ。少し離れた場所に降ろしてくれ、バナージュ。わしが北側に回る。ミカは封印に正面から近づいて気を引け」

「分かりました」

「バナージュは上から見ておれ。わしの合図で動いてくれ」

「了解した」

バナージュが山の陰に降りた。ミカとカリナが地面に降りる。バナージュはそのまま竜の姿で上空に戻った。

カリナが音もなく北側へ消えた。

獣のような動きだった。百年以上の経験が、こういう場面に出る。

ミカは一人になった。

銀白の鞭を握った。深呼吸を一つ。

正面から歩き始めた。

岩場を越えて、窪地に入った。

あった。

クリスタルマウンテンやエルフの里で見たものと同じ構造の台座が、岩壁を背にして立っていた。しかしここの台座は、エルフの里のものよりさらに状態が悪かった。紋様がほとんど見えないくらい黒ずんでいて、ひびが深く入っている。

そして台座のすぐ横に、呪具が置かれていた。

地面に埋めるのではなく、台座に直接触れさせる形で固定されていた。前より巧妙だ。

「やはり来たか」

声がした。

岩陰から人が出てきた。

黒いローブを纏った男だ。顔の上半分が頭巾で隠れている。腰に短剣を差していて、手には別の呪具を持っていた。

もう一人、同じ格好の男が横に出てきた。

「聖魔術師とは聞いていたが、随分と若い」最初の男が言った。声が低くて、感情が読めない。「ここで何をするつもりだ」

「呪具を回収して、封印を補強します」

「させない」

男が手の呪具を構えた。黒い靄が立ち上がった。呪具から直接靄を操っている。

ミカは銀白の鞭を構えた。

同時に、岩壁の向こうからカリナの声が飛んだ。

「そこまでじゃ」

二人の男の背後に、カリナが立っていた。いつの間に回り込んだのか、音一つしなかった。腰の鞭をすでに構えている。

男たちが振り返った。

その瞬間、ミカは動いた。

銀白の鞭に聖魔術を乗せて、手前の男が持つ呪具に向けて叩きつけた。

呪具が弾き飛んだ。男の手から離れて、岩場に落ちた。黒い靄が散る。

カリナが同時に動いた。

鞭が二本の弧を描いて、二人の男の足元を払った。男たちが体勢を崩した。

上空からバナージュが降りてきた。竜の姿のまま、窪地の入口を塞ぐ。薄紫の光が男たちを包んで、動きが止まった。

「捕縛魔術だ。しばらく動けん」

二人の男が地面に膝をついた。

あっけないほど、速かった。

カリナが男たちの前に立った。

「さて、話を聞かせてもらおうか。誰の指示で動いておる」

男たちは黙っていた。

「口を割らんかい」カリナが静かに言った。その声が、普段の飄々とした感じとは全然違った。百年以上生きてきた者の、底の見えない静けさだった。「わしは気が長い方じゃが、今は少し急いでおる」

男の一人が顔を上げた。

「……教会の名を出しても、あなた方には関係ない話だ」

「太陽神教会か」

男が黙った。それが答えだった。

「どこの支部じゃ」

「……ソロニス支部だ」

カリナとミカが視線を交わした。

ソロニス。ヴェロニカ・ソーンの本拠地でもある。

「ソロニス支部が三か国に呪具を配置しておるのか」

「それ以上は言えない」

「言えない、か」カリナが鞭をしまった。「まあいい。十分じゃ」

カリナがジルワンドへ向けた魔術連絡用の小石を取り出した。ガンドランドを出る前にジルワンドから渡されていたものだ。

「ジル坊、聞こえるかい。配置者を二名確保した。ソロニス支部の者じゃ。引き渡し先を手配してくれ」

しばらくして、小石が振動した。ジルワンドの声が小さく響いた。

『了解しました。ジンジュードの軍に連絡を取ります。ガルド将軍に話を通しておきます』

「頼むぞ」

カリナが小石をしまって、ミカを振り返った。

「封印を頼むぞ、嬢ちゃん。わしはここを見張っておく」

「はい」

ミカは台座に向かった。

呪具を固定していた金具を銀白の鞭で弾いて、呪具を引き剥がした。エルフの里より抵抗が強かったが、一人でも外せた。三週間前より、聖魔術の扱いが上手くなっている。

呪具を安全な場所に置いてから、台座に手を当てた。

ひどい状態だった。エルフの里の台座よりずっと黒ずんでいて、光がほとんど残っていない。

でも完全には消えていなかった。

奥の奥に、かすかな温もりがある。

ミカは目を閉じた。深く息を吸って、体の奥から聖魔術の光を引き上げた。エルフの里でやった時より、もっと多く、もっと深く。

台座に流し込む。

最初は何も変わらなかった。

でもじわじわと、台座が温かくなってきた。黒ずんだ紋様の奥から、光が戻ってくる感触がある。

どのくらい経ったか。

目を開けると、台座の紋様が光っていた。完全ではないが、エルフの里の時より強く光っている。ミカ自身が少し成長しているのかもしれない。

「できた」

ふらついた。バナージュがすかさず肩を支えた。

「無理をするな」

「大丈夫です。でもありがとう」

トフィーが念話を飛ばしてきた。

『お疲れ様。よくやった』

「まだ一か所残ってるよ」

『今日は休んで、明日やろう』

カリナが頷いた。

「トフィーの言う通りじゃ。今日はここまでにしな。ガルド将軍に連絡を取って、この二人を引き渡してから宿に戻ろう」

男たちはまだ地面に膝をついていた。その顔が、どこか虚ろだった。

ミカは男たちを見た。

教会の指示で動いている。でもその目に、狂信的な輝きはない。ただ仕事をしていた、という顔だ。

「一つだけ聞いていいですか」

男が顔を上げた。

「ソロニスの封印の場所を知っていますか」

男が少し迷った。それからゆっくりと口を開いた。

「……南部の、古い神殿だ。それ以上は知らない」

「ありがとうございます」

男が驚いた顔をした。礼を言われると思っていなかったらしい。

カリナが苦笑した。

「嬢ちゃんは本当に、そういうところがルクスに似ておるのう」

「師匠に似てますか」

「似ておる。敵にも礼儀正しい」

ミカは少し照れくさくなった。

山の上から風が吹いた。岩場を抜けてきた冷たい風が、汗ばんだ額に当たって気持ちよかった。

台座の光が、静かに輝いていた。

よろしければ、評価、ブックマークよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ