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銀鞭の魔術師 〜最強魔術士かく戦えり〜  作者: ide


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第二十三章 森の封印

エルフ直轄領に入ると、クレアマシスが森の入口で待っていた。

深緑の瞳が、ミカを見てわずかに細くなった。

「戻ってきましたね」

「急に来てすみません」

「構いません。事情は聞いています」クレアマシスがバナージュを見た。「クリスタルマウンテンの守護者が直接動いているとは、事態は私が思っていたより深刻なようですね」

「そうだ」バナージュが答えた。「封印の場所に心当たりはあるか」

「あります。里から東に半日ほど歩いた場所に、古い遺跡があります。以前から不思議な力を感じていましたが、封印だったとは」クレアマシスが静かに言った。「最近その場所の気配が変わっています。澱んだ感じが混じり始めた」

「呪具が置かれている可能性が高い」

「案内します」

クレアマシスが先頭に立って歩き始めた。

森の中に入ると、エルフの里の澄んだ空気から、少しずつ違う空気に変わっていった。木々の葉が大きくて、光が緑色に染まって差し込んでくる。足元は苔で柔らかくて、歩くたびに静かな音がした。

「クレアマシス、ここ最近この森で変わったことはありましたか」

「魔物の気配が増しています」クレアマシスが歩きながら答えた。「通常この森に魔物はほとんど出ないのですが、一月ほど前から黒い靄を纏った個体が現れるようになりました。里の警備を強化していましたが、出所が分からずにいました」

「呪具が原因だったんですね」

「そう考えると辻褄が合います」

半日ほど歩いて、木々が開けた。

小さな空き地に、石でできた台座があった。高さは膝ほどで、表面に紋様が刻まれている。台座の周囲の地面にも紋様が広がっていて、クリスタルマウンテンで見た封印と同じ構造をしていた。

ただ、光が弱かった。

クリスタルマウンテンの封印は薄く光っていたのに、ここの台座はほとんど光っていない。紋様が曇っていて、所々にひびが入っている。

「ひどい状態だ」

バナージュが台座に近づいて、手を当てた。

「呪具はどこだ」

全員が周囲を見回した。

ミカは銀白の鞭を取り出して、聖魔術を薄く乗せた。光が鞭をつたって、ゆっくりと空気に広がる。

すると、台座の裏側の地面が、かすかに黒く反応した。

「ここ」

台座の裏に回ると、地面に埋められた何かが黒く光っていた。呪具だ。ガンドランドの村で見つけた金属片より、一回り大きい。紋様も複雑だった。

「埋めてある」

「掘り出せますか」カリナが聞いた。

「やってみます」

ミカは銀白の鞭に聖魔術をしっかり乗せた。光が強くなる。鞭の先端を呪具に向けて、ゆっくりと触れさせた。

呪具が黒く反発した。

弾き返される感触があった。

「手強い」

「力が強い分、抵抗も大きい」クレアマシスが言った。「私が補助します」

クレアマシスが手をかざした。銀白とも違う、深い緑がかった光が溢れてくる。エルフの魔術だ。

「私の魔術でこの場の邪気を抑えます。その間に引き出してください」

「分かりました」

クレアマシスの光が周囲に広がった。黒い反発が、少し弱まった。

ミカは鞭に更に聖魔術を乗せた。

体の奥から力を引き上げる。クレアマシスに習った感覚を辿って、深く、深く。

鞭の光が一段強くなった。

先端を呪具に押し当てて、引き抜くイメージで動かした。

呪具が震えた。

黒い光が抵抗する。でもクレアマシスの補助があって、少しずつ押し負けていく。

ぶつりと、何かが切れる感触があった。

呪具が地面から浮いた。

ミカは鞭で呪具を絡め取って、地面から引き剥がした。黒い靄がその場に広がって、すぐに散った。

「取れた」

呪具が地面に転がった。クレアマシスがすかさず結界を張って、呪具を封じた。光の膜が呪具を包んで、黒い反応が止まった。

「さすがじゃ」カリナが言った。

「ミカさんの聖魔術があってこそです」クレアマシスが答えた。「一人では難しかった」

バナージュが台座に手を当てたまま、静かに言った。

「封印への負荷が止まった。しかしここまで弱まっていると、呪具を除去しただけでは封印は戻らない」

「強化が必要ですか」

「そうだ。本来であれば守護者が行うべきことだが……」

バナージュがミカを見た。

「聖魔術師の力で、封印を補強できる可能性がある」

「私が?」

「試してみる価値はある。封印の紋様に聖魔術の光を流し込んでみろ。拒絶されなければ、馴染むはずだ」

ミカは台座の前に立った。

手のひらを台座の紋様に当てる。冷たい石の感触がある。そしてその奥に、弱くなった光の感触がある。かすかだが、確かにある。

目を閉じた。

体の奥から聖魔術の光を引き上げる。鞭に乗せる時より、もっと穏やかに。流れ込ませるイメージで、台座の紋様に向けて送り込む。

最初は何も起きなかった。

でも少しずつ、台座が温かくなってきた。

拒絶はなかった。ミカの光が、台座の紋様に染み込んでいく感覚がある。弱まった光が、少しずつ強くなっていく。

どのくらい経ったか分からない。

気づいた時には、台座の紋様が前より明るく輝いていた。ひびが塞がっているわけではないが、光の強さが戻ってきていた。

「……できた?」

バナージュが台座を確かめた。

「完全ではないが、かなり持ち直した。これなら半年以上は保つ」

「よかった」

ミカは少しふらついた。思ったより力を使っていた。カリナがさっと手を貸した。

「無理するなよ」

「大丈夫です。ちょっと疲れただけ」

クレアマシスが封じた呪具を眺めた。

「この呪具、調べさせてください。ガンドランドで見つかったものと比較できれば、製造元に近づけるかもしれません」

「お願いします」

「時間はどのくらいかかる」バナージュが聞いた。

「二日、いただけますか。急ぎます」

「構わない。その間に残りの三か所の作戦を立てる」

カリナが周囲を見回した。

黒い靄はすっかり消えていた。森の空気が、少し澄んだ気がした。

「一か所、片付けたのう」

「でもあと三か所」

「一つずつじゃよ。焦るな」

ミカは台座を見た。

さっきより確かに光が戻っている。弱々しかった紋様が、再び静かに輝いている。

まだ完全じゃない。でも確かに、前より良くなっている。

「行けそうな気がしてきた」

トフィーが念話を飛ばしてきた。

『最初からできると思ってたよ』

「根拠は?」

『勘』

「根拠になってないよ」

『幸運の神獣の勘だから、かなり信頼できるよ』

バナージュが鼻を鳴らした。

「ウサギにしては珍しく正しいことを言っている」

トフィーが振り返った。

『今日はウサギで呼んだね』

「……行くぞ」

バナージュが歩き始めた。

カリナがくすくすと笑いながらついていった。クレアマシスが封じた呪具を抱えて、静かに続く。

ミカは最後にもう一度、台座を振り返った。

光が、穏やかに輝いていた。

「また来ます」

森の木々が、風に揺れた。

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