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002 生マレ代ワリ

 「この死体どうしよう・・・とりあえず凍らせとくか。」


 遺体は重かった。死ぬと重くなるというウワサを聞いたことがある。何故か僕は冷静だった。


 トーマはスラッシュとサンダーの身体に触れ、《氷帝》で凍らせた。腐らさせず、悪臭の発生を防ぐためだろう。


 「ま、このまま放置すればいっか。ん?」


 奥の方から物音がした。


 集中して聞くと、微かに荒い息が聴こえてくる。人だ。


 人を監禁していたんだな。


 「何者だ・・・?」


 「・・・さないでください。」


 奥の部屋から人が手を挙げて姿を露にした。


 「あ?」


 「殺さ・・・ないでくだ・・・さい。」


 それは裸足だった。雲のように白い肌に、多数の切り傷。脛には少し桃色の何かが傷から見える。ヒーローやっていれば飽きる程見るものだ、骨だ。


 「酷いね。殺す価値もないよ。」


 汚れたワンピースに、股と胸を隠すようにやせ細った手を置いている。腕には銀色に煌めく長い髪がかかっている。


 こういうテンプレはヒーロー時代で山ほど目にしたつもりだ。性的暴力を受けていたのだろう。


 「ありがとうございます・・・」


 腕に雫が落ちた。ふと顔を見上げるとそれはエメラルドだった。とても綺麗な緑な瞳だった。


 「ソフィア・・・?」


 顔も瞳も、声でさえもソフィアそっくりだ。でもそんははずは無いことくらい理解している。世界には同じ顔の人は3人存在するとされている。


 ただの偶然だ。


 「ソ、ソフィア?」


 「あぁ、ごめん。こっちの話だよ。お姉さん、名前はなんて言うの?」


 彼女はただ、首を横に振った。


 「そっか。じゃあね!自由になったことだし、いい人生を歩みたまえ!ハッハッハ!」


 流石に殺せない・・・殺したくない。


 「待って・・・」


 こういうのに弱いんだよなぁ・・・ソフィアそっくりなことも相まって・・・


 トーマは彼女の方に再び振り向き、胡座をかいた。


 「い・・・一緒に連れ・・・一緒に連れてって!」


 「はぁ。名前も年齢も知らない人に、あ、そうですか!ぜひ!だなんて言える訳ないよ。」


 「名前は・・・無い。年齢は2歳。」


 彼女は初めてトーマの目を見た。


 「名前が無い?尚更信用きついなぁ。ってか2歳ってあんた、どう見ても僕より年上だろ!サバ読みすぎの程度を軽く超えてるよ?」


 「2歳・・・本当。エルフだから・・・。」


 「エルフ?ほんとだ!初めて見た!」


 彼女は髪をかきあげて耳をみせた。それは予想通り尖っていた。


 エルフは成長が特殊で、生後1年で、人に当てはめると10代後半、2年で20代前半から半ばの身体と精神。それ以降100年は20代半ばのままなのだ。


 「一緒に来てどうする?」


 「この世界・・・可笑しい・・・憎い・・・壊したい。」


 生まれて2年で酷い目に合わされてもエメラルドみたく光が絶えないその瞳の奥には狂気に満ちたモノとは別の何かがあった。


 僕と似た思想のその奥に、僕とは路線が違うような何かが。


 まぁ、最終地点が違えど分岐点までは大丈夫か。噂が本当なら、エルフは頭がいい。きっとこの先役に立つ。


 「うーん、わかった。タイプだから許可するよ。名前が無いとどうも不便だから、お姉さんは今日から01(ゼロワン)ね。」


 「01(ゼロワン)・・・」


 戸惑いながらも、01(ゼロワン)は薄らと笑顔を浮かべていた。口角が下がったままのその笑顔は少々切ないものだった。


 流石に適当過ぎたかな?でもなんかすごいニヤニヤしてるし、多分オーライ。


 「冷たいのは平気?」


 「平気・・・ウッ。」


 トーマは彼女の切り傷を全て凍らせた。


 それを彼女は少し痛がっている様子を見せるが少しづつ表現が元に戻る。


 「とりあえずこれで菌と腐敗は止まった。」


 「・・・うん。」


 僕らはひとまずこの花屋さんで月が昇るまで過した。その過程で、世間知らず過ぎたこのお姉さんを僕はひたすらに学を与えた。


 その学習能力は異常で、僕を遥かに上回る知識を自らの思考で生み出していった。僕の能力に対しても新たな可能性を広げてくれた。


 そこで01(ゼロワン)は、自分の能力を推測で当ててみせた。それは伝説の能力の1つ、《智天使》だと言うのだ。


 《智天使》を合わせて8つの天使の能力が存在する。その中でも《智天使》はかなり上の階級で、アカシックレコードにアクセスが可能だと云う、チート能力だ。


 『オベリスク』だっけ?闇ヒーローに狙われているのも納得が行く。


 それがエルフのような超高度知的生命体と掛け合わさると化け物の誕生と言っても過言では無い。


 そして・・・


 「トーマ、右がジョーカーだね?馬鹿馬鹿しいね、このゲーム。」


 数時間しか経っていないのにも関わらず、もうこの有様である。生意気なお姉さんへと変貌している。


 人格が構築されたのだろう。お姉さん気質・・・素晴らしい。


 彼らはトーマの《氷帝》で創ったトランプでババ抜きをしている模様。


 01(ゼロワン)の知能の前ではまるで神と対戦しているかのようだ。


 「あぁ、もぉ!辞めだ辞め!」


 「私と同じ歳になったらまた挑んできな、坊や。」


 「うるっせぇ!あと4年すれば俺も24やし変わらんやろ!」


 「人間時間では正確には23歳と6ヶ月だよ。」


 「だからうるせぇって・・・ババァ!」


 「んぁ!言ったわね!?」


 「あぁ、言ったよ!?」


 2人はじゃれ合いながら笑顔を撒き散らしていた。


 何故だろう、この人といると心做しか僕が僕じゃないみたいだ。正確には僕だけど、僕が狂う以前のオレだ・・・


 「私たちが死んだらどうする?」


 「何を急に改まって?」


 「いいから教えてよ。」


 「えぇ、死後だろ・・・?じゃぁソフィは逆にどうするのさ。」


 「フフッ、私はね。何回死んだとしてもね、何度でも生まれ代わって王子様を待つの。」


 「ハハッ、なにそれ。」


 「真剣よ?だからトーマが見つけてね・・・」


 あれ・・・夢か・・・


 恋人ソフィアとの思い出の夢。


 いつの間にかトーマと01(ゼロワン)は寝落ちについていた。


 ソフィ、いや、01(ゼロワン)の寝顔、ほんとソフィアにそっくり。


 見つけたってことでいいのかな。

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