表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/203

97. 人間ではないモノ

 ソレは人間ではない。


 ソレは精霊と呼ばれる存在。


 精霊といっても様々な種類がいる。


 人間にも色んな姿かたちがあるように、精霊も千差万別ということだ。


 ソレが生まれたのは何百年も前の話だ。


 最初は自身を認知することはなかった。


 ただそこにある存在として生まれ落ちた。


 自分を認知し、自我が目覚めるまでに百年以上もかかった。


 自分以外にも様々なモノが存在することを理解した。


 人間を認知するのに百年以上がかかった。


 言葉を理解するのに、さらに百年以上がかかった。


 精霊は純粋な存在だ。


 純粋ということはつまり、何にでも染まるということ。


 ソレが言葉を理解したときは、人間たちが戦争をしているときだった。


 悪意がばらまく時代。


 古代文明人と現代文明人が戦争をしている時代。


 そこでソレは悪意を知った。


 悪意を知ったが、悪意がどういう感情かまでは理解できなかった。


 だから、人間が嫌がることをしてみた。


 子供をさらい、湖に沈めてみた。


 すると人間たちが泣いた。


 しかし、それでも悪意というのがどういうものか理解できなかった。


 だからソレは悪意を理解できるよう、人間たちが嫌がることを繰り返し行った。


 死と悪意が密接な関係があることを知った。


 最後まで悪意を理解できなかったが、代わりにヘルという存在から死の力を授かった。


 ソレは人間には悪意以外の感情があることを理解した。


 愛というものだ。


 人間には悪意と同じように愛というのも存在するらしかった。


 ソレは愛を知りたいと思った。


 人間同士の交わりで愛が溢れていることを知った。


 愛が集まりやすいものは美しいものだと知った。


 美しいものには悪意も集まりやすかった。


 面白いと思った。


 ソレは美しいものを探した。


 そこには美しい少女がいた。


 美しい少女の周りには、美しい一族もいた。


 ソレは愛を求めるため、美しい少女の体を乗っ取った。


 美しい少女の体なら、たくさんの愛を受けられると思った。


 愛してもらえるよう、美しい一族を身近に置くことにした。


 それでも愛を理解できなかったから、美しいものを集めることにした。


 どんなに集めても愛を理解できなかった。


 ソレは自らの姿かたちも変えることにした。


 違う姿なら、もっと愛してもらえると思った。


 ソレは人間の社会で認められようと思った。


 そうすることで、もっと愛してもらえると思った。


 たくさんから愛してもらえば、愛を理解できると思った。


 だがソレは愛を理解できなかった。


 容姿が優れた者になっても、社会的地位を手に入れても、相変わらず愛がわからなかった。


 知りたい。


 知らなければならない。


 中途半端に人間を知ったソレは、好奇心を抑えられなくなった。


 自分を愛してくれる人間を集めた。


 自分を愛してくれるようにずっと側においた。


 それではソレは愛を理解できなかった。


 集めて、集めて、集めて、集めて、集めて、集めて、集めて、集めて、集めて、集めて、集めて……。


 求めれば求めるだけ、愛が遠ざかっていくような気がした。


 そして、


「――――」


 ある日、必死に集めたモノたちが奪われた。


 ソレは声にならない叫び声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ