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88. 講義

 オレは塔での講義を受けてみたぜ!


 講義室はまさに大学って感じの場所だった。


 広い講義室で、教壇には教授が立っている。


 シャーリックだ。


 つまり、オレの家庭教師。


 まあ今は家庭教師じゃないがな。


 シャーリックはオレの家庭教師をやったあと、宮廷魔術師に戻るのではなく、魔術の研究を極めたいとかなんとか言ってバベルの塔に行った。


 シャーリック理論の研究成果のおかげで、一気に教授まで上り詰めたんだとか。


 まあオレの家庭教師をやっていたくらいだ。


 当然、優秀である。


 これほど優秀な人材を雇えるとは、やはりオレは偉大だな!


 ふははは!


 貴族、伯爵、バンザイだぜ!


 これだから権力者はやめられん。


 こういう人材を好き勝手呼び寄せて、好き勝手に使えるとはな。


 悪徳貴族のお手本のような行いだぜ!


 シャーリックの講義は、シャーリック理論とは何か? ということから始まった。


 正直オレからしたら、つまらない講義だった。


 そんなもの知っている。


 だからオレはシャーリックに言ってやった。


「この場にシャーリック理論を知らない無知な者はいない。

シャーリックよ。貴様が発表した理論はすでに多くの者に広まっている。

オレたちは子供でもわかるようなことを聞きに来たのではない。

貴様の口からより深い講義を聞きたいのだ」


 シャーリックに上から目線で言えるオレ。


 やはり、貴族という地位は最高だな。


 そしてこの傲慢な物言いは、やはりオレは悪徳貴族の才能があるようだ。


 シャーリックはそれから理論の基礎部分をすっとばし、応用編を話し始めた。


 だが正直、途中から何言ってるのか全く理解できんかった。


 ふっ。


 理解できなくとも問題はない。


 とりあえずわかってるふうに頷いてたらシャーリックに当てられた。


 シャーリック理論を使えば万能な解呪魔法は実現するか? という質問だ。


 んなの知るわけがなかろう?


 まあ、どうせ他のやつらもわからんだろうから、適当に質問に答えておいた。


 そもそも、術をかけるよりも解呪するほうが難しい。


 解呪の場合、術をかけられた道筋を逆から追う必要がある。


 それはまるで、複雑に絡まった糸を一つ一つ丁寧に解くような作業だ。


 シャーリック理論なら、その膨大な術式にも対応可能かもしれない。


 だが、逆も言える。


 シャーリック理論によって、より複雑な術式も出来上がってしまう。


 つまり、イタチごっこだ。


 答えはノー。


 しかし、この答えだけではつまらない。


 オレは追加で答えてやった。


「だが、万能な解呪魔法はたしかに存在する。術がかけられていない箱を用意すれば良いのだろう? なあシャーリック」


 ふはははは!


 何を言ってるか、オレにもわからん!


 それっぽいことを言ってみただけだ。


 どうせ他のやつらも何言ってるかわからんだろう?


 だから問題ない。


 すると、シャーリックがオレをべた褒めしてきた。


 ふははは!


 よくわかってるじゃないか、シャーリック。


 そういうお世辞は嫌いじゃないぞ?


 シャーリックは「さすがアーク様です。よくご存じです」と持ち上げてきた。


 やはり、貴族というのは最高だな!


 フハハハッ!


◇ ◇ ◇


 講義のあとに少しだけシャーリックの研究室に寄った。


 シャーリックも教授をやるとは出世したものだな!


 この若さで教授になるのはかなりすごいことなんだとか。


 まあオレの家庭教師をやっていただけはある。


 当然だな!

 

 ふははは!


 将来有望のシャーリックをオレだけのために働かせたとは、やはり貴族は最高だ!


 シャーリックとお茶を飲みながら談笑する。


「懐かしいです。昔もこうしてアーク様と紅茶を飲んでおりましたね」


「そうだな。うちの紅茶は美味かっただろう?」


 なにせ使用人をせっせと働かせて最高級の茶葉を用意させてんだからな。


「ええ。とっても。ですが、今ここで同じものを飲んで、あのときほど美味しくは感じないのでしょう」


「なるほどな」


 何言ってるかちょっとわからんが、とりあえず頷いておく。


 オレが頷いていると、シャーリックがどんどん愚痴を言い始めた。


 なんか派閥争いで大変なだとさ。


 シャーリックは若くして成功し、教授まで上り詰めたから周りからやっかみも多いんだとか。


 勝手に派閥のトップに押し上げられて色々面倒らしい。


 まあ……それはたしかに大変だ。


 一応オレも昔はサラリーマンやってたし、気持ちはわかる。


 いや、わからんな。


 もう忘れた。


 オレはいま派閥なんて関係ない状態にいるからな!


 オレのように偉い立場なら、そんな些細なこと気にしなくて良いのだ!


 というか、面倒事は全部ランパードに任せている。


 オレは好き勝手に動くだけだ!


 王女という隠れ蓑も用意したしな!


 ふははは!


 まあ……さすがにオレでもちょっと気にするが。


 一応、貴族にも派閥ってものがある。


 まあ知らんがな。


 シャーリックは延々とオレに愚痴を吐いてきた。


 教授も大変そうだ。


 最後にシャーリックが忠告してきた。


「も、申し訳ありません。最近、色々と溜まっておりまして」


「気にするな」


 むしろ、シャーリックの大変さを知って、より一層オレが恵まれていることに気づけた。


 やはり、貴族は最高だな、と。


「フレイヤ教授にはお気をつけください」


「気をつけるとは?」


「彼女はなんというか……理解できないのです」


「理解できないのは、みんな一緒だろう? そも他人を理解するのは不可能だ」


「おっしゃるとおりです。しかし、アーク様なら理解していてもおかしくないですね」


 シャーリックが笑みを浮かべる。


「はっ。それは過大評価がすぎる。他人を理解などしていたら、オレは貴族などやってはいないだろう」


 昔、経理部のやつを信じたのに裏切られた。


 他人が何を考えているかなどわかりやしない。


 だから権力というのが大事なのだ。


 何を考えていようが構わない。


 権力で押さえつけるだけだ。


 そうすれば、否応が無しに従わざるを得ない。


 だからオレは権力者をやめられない。


「安心しろ。もとよりフレイヤのことは好かん。十分、警戒している」


 あの顔だけは許せないからな。


 この恨み晴らさでおくべきか……。


「そうですね。杞憂でしたね」


 シャーリックはそういって笑った。


 まあ、そうだろうな。


 杞憂だ。


 なんたってオレは伯爵様だからな!


 フレイヤが何を考えていようが関係ない!


 オレがやつを貶めてやるのは決定事項だからな!

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