197. 人間やめる
復活を遂げたアークは人間をやめていた。
神の遺物によって無限ともいえる魔力量があり、さらに刻印によって無詠唱魔法を放てる。
魔力制御も著しく上達しており、ニブルヘイムを自由に操ることができる。
いまのアークは間違いなく最高の状態であり、人間のレベルを越えている。
神と戦うには十分なほどの力を持っていた。
そもそも神の遺物を核としており、いまのアークは神といっても差し支えないだろう。
神同士の戦い。
アークとヘル。
原作の中ではボスとラスボスの関係。
いや、原作のアークは中ボスですらなく、ただの噛ませ犬だ。
エリザベートとともに醜いケルベロスの化け物にされ、主人公に倒される運命。
そんな原作と打って変わり、この世界のアークは正真正銘の英雄である。
スルトに代わって、原作で言う主人公の位置に立っている、勇者である。
さて話を少し戻し、ここでは原作の話をしよう。
原作でのスルトはヘルに敵わずに殺される。
当然といえば当然だ。
スルトは人間であり、ヘルは神である。
それもヘルはただの神ではない。
死の世界を統べる神なのだ。
スルトが敵う相手ではない。
しかし、スルトは最後に一矢報いることになる。
マギサの魔法でスルトがヘルの中に入り込み、一体となるのだ。
そもそもスルトとヘルは、もとは同じ体。
マギサと異なる世界線のマギサが一つになったように、スルトとヘルが結合するのもそうおかしな話ではない。
そしてスルトは自身の体をムスペルヘイムの炎で焼き焦がすのだ。
結果、スルトとヘルはともに死ぬ。
これで主人公は死んだもののヘルを倒してハッピーエンド……というわけにいかないのが、原作ストーリーである。
この後、エンディングのあとに場面転換が起こる。
荒廃した世界でマギサがぽつんと立っている。
そして暗い笑みを浮かべるのだ。
その笑みはマギサの笑みではなく……というのが原作の最後。
全編を通して批判の声が大きかった原作。
有名なゲームコンテンツのアニメということで注目を集めていた中、蓋を開けてみればただの鬱アニメだったのだ。
主人公含めたキャラ全員が死亡するという報われない終わり。
ゲームコンテンツの中でもキャラが死亡することは多々あり、当然、鬱要素もあるが、このアニメはその域を越えていた。
と、それはともかく。
原作からわかることは、ヘルを倒すのは容易ではないということ。
原作ではどうやってもヘルを倒せなかったように、この世界でもヘルを倒す術は見つかっていない。
しかし、王都が、国中が危機的状況に瀕している。
ヘルを倒すことでしかこの暴動は止まらない。
魔物暴走は止まらない。
アークがこの国を、そしてこの世界の命運を握っていた。
一方、そのアークとはいうと、
「ふははははははははっ! オレは負けんぞ!」
命運を託されていることも露知らずに高笑いをしていた。
先ほどヘルに敗北し一度死んだばかりだというのに、負けないと確信している能天気さがアークにはあった。
アークとヘルの最後の戦い。
原作とはかけ離れているようで大枠をなぞっている展開。
このまま原作通りにいけばどうなってしまうか……。
結果がどうなるかは誰にもわからない。
◇ ◇ ◇
「ふははははははははっ!」
調子が良い。
本当に調子が良い。
まったく魔力が尽きる感じがしない。
「人間をやめて私に立ち向かってくるか。そこまでして何を望む?」
「オレは強欲だからな。望むものは一つに絞れん。
が、あえていうなら……そうだな。オレはこの世界すべてが欲しい」
「くははははははっ。そうか。私を倒して世界を救うか。それは強欲だな。
ファバニールではなくお主に強欲の冠位を与えればよかったな!」
何を言ってるかわからんが、まあいい。
こいつを倒してオレは財宝を手にする!
ふははははははははっ。
「貴様から与えられるものなどいらん。オレが力づくで奪ってやる」
なぜならオレは悪徳貴族だからな!
欲しいものは自分で奪ってみせる!
ここに眠る財宝はすべてオレのものだ!
ふははははっ!