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193. あんまりだよな

 アークたちが地上で戦っている頃。


「地下にある財宝を探せ」


 アークの指示によってカミュラは地下を探っていた。


 ちなみに以前もカミュラはアークからこういった依頼を受けたことがある。


 それは学園での出来事。


 クリスタル・エーテルを学園から奪ったときと、今回の状況は似ている。


 その出来事から、カミュラはすでに察していた。


 この地下にはクリスタル・エーテルに匹敵する、あるいはそれ以上の古代遺物(アーティファクト)がある。


 つまり、それを探し出せということだろう。


 重要な任務である。


 カミュラはティガー、フント、エヴァ、そしてシャーフとともに行動していた。


 シャーフを除けば、干支の中でも比較的戦闘力の高いメンバーが揃っている。


 とくにティガーはジークに続いて強く、強さだけで言えばナンバー2である。


 代わりに頭はからっぽが――。


「にしてもよっ。なんでアーク様はあんなに王女様を信頼してんだ?」


 フントが普段から思っている不満を口にする。


 こんなときに……と思うかもしれないが、こんなときだからこそできる会話だ。


 緊張を紛らわすためにも雑談が必要だ。


 シャーフの魔法によって彼女らは気配を消しており、相手に気づかれる危険性は低い。


「あいつはオレにないものを持っている。最後にオレを助けてくれる。

かつてアーク様がおっしゃっていたことです」


 カミュラが答える。


 アークが王女という地位(・・・)に対して媚びるために言った言葉であるが、カミュラはそうは思わなかった。


「なるほど。私達にはわからない何かがあるということですね」


 エヴァが頷く。


「あの方は先の先の先まで見据えて動かれている。

私達の理解を超えたところにいらっしゃいます」


 カミュラは今まで何度もアークの偉業を見てきた。


 先見の明に驚かされたことは一度や二度じゃない。


「そりゃアーク様はすげぇが……なんつーか、こう」


 フントがうまく言葉に表せず、悶々とした感情を抱く。


 カミュラはフントの言いたいことをなんとなく理解していた。


 彼女は第二王女のことをよく知っている。


 マギサは神級魔法を使えるし、第二王女という立場そのものにも魅力がある。


 しかし、アークが表面的なモノにとらわれるような矮小な人間ではないと、カミュラは考えていた。


 カミュラの目は正常に(・・・・)曇っていた。


 そうこう話をしているうちに、地下深くに到達する。


 そしてようやくそれ(・・・)を探し当てた。


 認識阻害の結界には魔力供給源が必要だ。


 だが、並の魔石ではすぐに供給が尽きてしまい、あのレベルの結界を維持できない。


 クリスタル・エーテルのような古代遺物(アーティファクト)級の魔力供給源が必要になる。


 いや古代遺物(アーティファクト)でも難しいかもしれない。


 そもそも古代遺物(アーティファクト)とは、アース神族によって作り出された魔道具を模倣したものである。


 当然、本物と比べると質が劣る。


 それでも十分なレベルの魔道具だが、神の作り出した魔道具――神の遺物ヴェスティージには遠く及ばない。


 と、それはさておき。


 カミュラは結界の魔力供給源を見つけ出した。


 しかし、


「ん? 君たちは……」


 黒いローブを着た男――闇の手の者がいた。


「お前は……ッ」


 男の顔をみた瞬間、フントが殺意を覚えた。


 彼女らをキメラにした張本人。


 主導していたのはイカロスだが、実際に現場で手を動かしていたのはイカロスではない。


 この男は原作ではちょろっとだけ登場した人物。


 決して主要キャラではない。


 だが、彼女らにとってそんなことはない。


 原作ではただのモブキャラであったとしても、彼女らによっては人生を狂わされた男である。


 殺意を抱かないわけがない。


 男はハゲノー子爵が摘発されたときにうまく逃げ、今まで古城に匿ってもらっていた。


「おお、おおお! なんという幸運! 私は歓喜する! 私の成功作たちよ!」


 男は喜びを顕にした。


 干支とは、何十回、何百回の失敗の果てに得られた成功なのだ。


 こうしてまた出会えたことに対しての喜びは大きかった。


「お前のせいでどれだけ苦しんだと思ってる? 俺がどれだけ苦しんだと思ってる!」


「なぜ怒っている?」


 まるで意味がわからないとばかりに男は首をかしげる。


 そこに悪意はない。


 彼にとって純粋に出会えた喜びしかないようだ。


「……っ」


 フントは絶句する。


 エヴァは顔をしかめ、シャーフは瞠目する。


 事情を知っているカミュラも眉間に皺を寄せた。


 ただ一人、ティガーだけはほけーっとしている。


「異なる2つのものが一つになる。これは奇跡だ。

君たちは神に見初められた究極の生命なのだ。

私は嬉しい。もう一度君たちに出会えたことが神の思し召しということだろう」


 男が空を仰ぐ。


「狂ってやがる」


 フントがつばを吐く。


「私からするとだよ、君たちのほうが狂っている」


 男が純粋な目でフントたちを見る。


「なぜ神に認められたのに逃げ出した? まったく、さっぱり理解できない」


「もういい。お前と会話をしようとした俺が馬鹿だった」


 こいつは永遠にわかりあえない相手だと、フントは考えた。


「――――」


 一閃。


 フントが男の首を撥ねた。


「今日で終わりにしよう」


 多くの犠牲があった。


 だが、それもすべて今日ここで終わる。


 闇の手を倒し、ヘルを倒せばすべてが終わる。


 この戦いが終われば、ようやく解放される。


 憎い実験とその犠牲も今日で終わるはずだ。


「これは……っ」


 結界の魔力供給源を手にしたカミュラは目を見開く。


 予想外、いや予想以上の代物が眠っていた。


 アース神族が作り出したとされる魔道具。


 それは古代遺物(アーティファクト)とは別格の代物、神の遺物(ヴェスティージ)である。


 ひと目見てわかる。


 ”指”で各地の情報を集めていたカミュラは、古代遺物(アーティファクト)神の遺物(ヴェスティージ)の違いも文献で読んだ。


「なるほど。だから認識阻害の結界を維持できたのですね」


 カミュラは納得したように頷く。


 しかし、こんな代物を何に使うのだろうか?


 考えるまでもない。


 (減る)を倒すために神の遺物(ヴェスティージ)を使うのだ。


 神に対抗するためにはそれだけのものを用意しなければならない。


「これなんだにゃ?」


 ティガーがポチッとボタンを押した。


 するとがががーっといって壁が動いた。


 そこに広がっていたのは――


「う……」


 カミュラが口元を抑え、フントが怒りを顕にした。


 そこに広がっていたのは、凄惨な光景。


 実験に失敗し体が無惨に崩れた少女たちが転がっている。


 ここは実験場だ。


 キメラ実験がずっと続けられていたのだ。


 干支が救われたあとも被害が続いていたということ。


 はやくここにたどり着いていれば、救える命があったのかもしれない。


 いや、そんな仮定に意味はない。


 フントは憤りを抑える。


 救えなかったのだ。


 それが答えだ。


 それなら救われたフントたちは彼女らの分まで生きていかなくてはならない。


「――――」


 突如、大きな揺れが発生した。


 揺れはしばらくして止まる。


 だが、


「……ッ」


 実験室で無惨な形となっていた肉の塊が動き出していた。


 体が合体していく。


 無理矢理に体をくっつけた姿は、まさにキメラ。


 人間と動物とが歪に混じり合った醜い生き物。


 フントが成っていたかもしれない姿。


「死んだってぇのに、こんなのあんまりだよな……。あんまりだよ、ったくよぉ!」


 フントが声を荒げ、剣先を化け物たちに向けた。


 彼女の隣にはティガーとエヴァ、そしてシャーフがいる。


「ここで全部終わりにしてやる」


 彼女らにとってこれは決着をつけるべき戦い。


 悲しき過去を終わらすための戦い。


 干支として終わらさなければならない戦いだ。


 臆病なシャーフでさえも、覚悟をもった目をしていた。


「カミュラ様。貴女は行ってください。それをアーク様にお届けください」


 エヴァの言葉にカミュラは頷き、走り出した。

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