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174. 栄光をこの手に

 王子派は王子率いる第三軍とトール率いる北神騎士団、そして最強の貴族軍である辺境伯軍がいる。


 王女派はアーク陣営が主であり、軍、干支、指が戦力として数えられる。


 さらにアークに味方するヴェニス公爵、ゴルゴン家、塔もアーク陣営といえる。


 加えて、学園は中立といいながらもアーク寄りである。


 それに対し、王派閥は旧体制の者たちで固められている。


 ロット侯爵とグリューン侯爵の2侯爵と第一軍がアークに敗れたとはいえ、未だに数の上では王派閥のほうが多い。


 第二軍、ボウレイ公爵、ピピン公爵、ゲルプ侯爵、ブラウ侯爵、近衛騎士団、魔導騎士団、宮廷魔法使いが王派閥の主な戦力だ。


 加えて周辺貴族も含めれば、王派閥の兵力数は若干、第一王子・第二王女連合軍を上回っている。


 しかし、兵の質という観点でいえば第一王子・第二王女連合のほうが高い。


 総合的にみれば第一王子・第二王女連合が戦力で勝っていた。


 今まで拮抗していた2つの勢力バランスが崩れたのは、何度もいうがアークとロット侯爵とのいざこざが原因だ。


 ロット侯爵が敗れたことで、西のピピン公爵が孤立。


 ピピン公爵の周囲は、西にヴェニス公爵、南にガルム伯爵、北にゴルゴン家とアーク陣営に囲まれてしまった。


 この状況をよしとしなかったウラノス王は第一軍を動かし、ガルム伯爵の討伐に向かわせたのだ。


 しかし、第一軍はアークに敗れ、さらに奥の手として用意していたグリューン侯爵も敗れたことで、勢力図は逆転。


 王であるウラノスもまさか、アークがこの危機を乗り越えるとは思っていなかった。


 地上の覇者と空の覇者を同時に倒されるとは、完全に予想外のことであった。


 ロット侯爵が敗北した時点で、北西のブラウ侯爵の立ち位置も危うくなっていた。


 辺境伯とゴルゴン家に囲まれ、攻め入られる可能性が出てきたからだ。


 事実、ゴルゴン家はブラウ侯爵領に向けて進軍を開始していた。


 ブラウ侯爵が身動きを取れなくなる。


 それによって第一王子と辺境伯はすんなりと南に進軍することができた。


 北東に領地をもつボウレイ公爵は辺境伯軍の動きを止めるために行動を開始。


 同時に王都の守備を任されていた第二軍も動き出した。


 結果、北の砦で辺境伯、第一王子率いる第三軍と公爵軍、第二軍が対峙することとなった。


 また東でも動きがあった。


 アーク陣営にある塔がゲルプ伯爵の動きを封じていた。


 というのも、塔にはグングニルがある。


 グングニルは牽制としての兵器となり、ゲルプ侯爵をはじめとした王派閥の諸侯の動きを封じていた。


 同様に学園もアーク寄りのため、ゲルプ侯爵は学園と塔に挟まれる形で身動きが取れなくなっていた。


 さらにグングニルの効果は王都にも波及していた。


 魔導騎士団と宮廷魔法使いは万が一に塔の攻撃を防ぐために王都の守りを余儀なくされていた。


 マーリン不在も響いており、王都の魔法使いたちは後手に回っていた。


 時系列はバラバラであるが、これがアークがロット侯爵、第一軍、グリューン侯爵率いる竜の軍勢を倒す前後で起きた動きだ。


 この戦争のど真ん中にアークがいる。


 アークを中心に盤上が動いていた。


 そしてそんな中、アーク軍が動き出した。


 アーク軍は第一軍を倒してから素早く動き出したことで、唯一どの敵とも対峙していない状況になっていた。


 つまり遊軍である。


 これが戦いでどのような影響を与えるのか。


 何も知らず適当に動いているだけのアークだが、こうして歴史を大きく動かす戦に身を投じ、そして歴史を動かしていくのであった。


 原作では起こらなかった戦。


 この先、どういう未来を描くのかは誰にもわからない。


◇ ◇ ◇


 王都まではなかなかに距離があるらしい。


 オレ一人馬車で行けるなら良いが、今回は軍勢を率いている。


 動きが遅くてかなわんな。


 そして、だるい。


 自分がいい出したのはあれなんだけど、ちょっと王都に向かうの面倒になってきた。


 いやね、さすがにこのオレでも申し訳ないって気持ちはあるよ?


 その場の昂揚で王都攻め入るぞー! って言ったけどさ。


 あのときはテンションが上がっていたんだ。


 だが、さすがにここで引き返すのも良くないと思う。


 そこでオレは考えたわけだ。


 ここはランスロットに任せよう!


 ランスロットは優秀だからな!


 あいつに任せれば何も問題はあるまい!


 そしてオレは城に戻って悠々自適に暮らしながら、高級なぶどうジュースを飲みながら戦果を聞くわけだ!


 なんと素晴らしいアイディーアなんだろうか!


 たまにオレはオレを天才だと思えてくる。


 いや、天才であるのは間違いない。


 天才で貴族とか最強だろ!


 他のやつに面倒なことを全部丸投げしてオレは城に戻る。


 これぞまさしく本物の悪徳貴族!


 ここまで悪いやつはなかなかいないだろう。


 ふはははっ!


 兵士ども、オレをさぞ恨むだろう。


 だが、これが身分の差というものだ。


 平民に生まれたことを恨むと良い。


 ふははははははっ!


 存分に恨むがいい!


 恨んだところで現実は変わらんがな!


 悪徳領主最高だぜ!


 ということでオレは軍議の場でランスロットに言ってやった。


 あとは貴様に任せたぞ、とな。


 しかし、さすがにこのまま軍を放置するのはまずい。


 いくらオレが悪徳貴族でも、それをやるとやばいことは理解できている。


 だから最後に、こいつらになにか言葉を送ってやろう。


 オレからの言葉だ。


 ありがたく思えよ?


「正しき戦争とはなにか? そんなものこの世に存在はしない」


 オレがオレの都合で開いた戦争だ。


 正しい戦争などでは決してない。


 上の都合でやらされるクソみたいな戦争だ。


 ああ、オレは本当に最低最悪の悪徳貴族だ。


「戦に正しさを求めるな。そこにあるのは血と肉と阿鼻叫喚。

転がってる死体が敵であろうと味方であろうと容赦なく踏みつける」


 戦争……。


 前世でのオレは戦争とは無縁だった。


 テレビの中の世界だった。


 そして戦争をしかけるやつらの気がしれんかった。


 だが、今ならわかる。


 戦争とは醜い欲望を満たすための手段だ。


 政治的思惑とかそういうのも全部、クソみたいな欲が根本にある。


 自分はこうしたい。


 でも相手は受け入れてくれない。


 だから奪い取ろうとする。


 戦争に正しさなんてない。


 オレは悪徳貴族だ。


 ほしいのは奪い取る。


 誰にも奪われないために。


 そして自分の手を汚さず、他のやつらに一番面倒なことを押し付ける。


 だが安心しろ。


 オレは最低最悪だが、一つだけ保証してやろう。


「貴様らの後ろにはオレがいる!」


 オレが城のほうで腰掛けながら、貴様らの姿を見守っていてやるよ。


 どうだ?


 嬉しかろう?


 ふははははは!


 本当に悪徳貴族が板についてきた。


「迷わず進め! 敵を散らせ!

我々の前に立ちはだかるものは何人たりとも許さん!」


 オレの前の立ちはだかるやつは全員ぶっ倒してやる!


「ただ戦え」


 そう、貴様らは戦えばいいのだ。


「それでもまだ迷うものがいるなら、こう考えよ。

敵を人間と思うな。敵は害虫だ。我々から奪おうとする魔物!

魔物なら殺しても苦悩はないだろう? むしろよくやったと称賛さえされよう!」


 我ながら暴論だ。


 だが、それでいい。


 なんたってオレは悪徳貴族だ。


 正義のヒーローではない。


 暴論だろうと暴力だろうとなんたってやってやるよ。


「敵は王都にあり! 栄光をこの手に掴み取れ!」


 オレはぐっと腕を突き上げた。


 うおおおお! という雄叫びが聞こえてくる。


 ふむふむ、ちょろい奴らだ。


 これでオレはゆっくりと家に帰れるぜ。

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