169. 反逆
原作では、第一軍と竜の群れが同時に攻めてきた。
主人公たちは成すすべもなく逃走を選んだ。
敵うはずもない。
辺境伯は討ち取られ、スルトたちは必死の思いで辺境伯領を脱出した。
原作にて、スルトたちに絶望を与えたテュール、ファバニール、ブリュンヒルデ。
この世界では、それに加えてロット侯爵も攻めてきた。
原作以上に厄介な状況であった。
しかし、アーク陣営は見事敵を殲滅することに成功した。
このとき彼らが取った作戦は各個撃破である。
最初に竜の群れを倒し、次にロット侯爵軍を殲滅。
ファバニールとブリュンヒルデを遠ざけている間に第一軍を退け、最後にファバニールを一対一で打ち破る。
厳しい戦いであり、何かのピースが外れていればアークたちが負けていただろう。
のちにアーク包囲網戦と呼ばれる戦いは、「アークの策によって勝利」と、歴史書で記されることになる。
もちろん、アークに策などなかった。
勘違いと偶然が重なり、たまたま勝利を収めただけである。
こうしてアークは、ロット侯爵、グリューン侯爵、第一軍の三方からの攻めを各個撃破し、歴史に名を残すような偉業を達成したのであった。
原作で主人公たちに絶望を与えた相手を見事打ち破ったアーク陣営。
こうしてまた、原作シナリオをクラッシュしていくアークであった。
むしろ、アークの歩く道がシナリオと化しているとも言えた。
今後、アークたちがどのような結末を迎えるのか。
それは誰にもわからない。
◇ ◇ ◇
ふははははっ。
でかい竜を倒したぜ!
あの戦いは最高だった。
至高だった。
死んだ相手に敬意を表すことなどほとんどないが、それでもオレはあの竜に敬意を示そう。
オレとここまでいい勝負をするとはな!
竜よ。
貴様のことはオレが覚えておこう!
その強さ、そのあり方。
オレは決して忘れまい。
まあ、名前は知らんがな。
にしても、今回はジークに助けられたな。
あいつには後でお礼をしてやろう。
どうせなら竜にちなんだものでも贈ろう。
あいつは竜だしな!
ちょうどマギサから貰ったものもある!
王女からの贈り物とは、なんて贅沢なんだ!
ふはははっ!
「アーク様。お時間です」
「ああ。わかった」
オレは軽く頷き、カミュラの後ろをついていく。
今回の戦いはさすがに死者が多すぎる。
一人ひとり埋葬していくことはできん。
つくづく、この世界は不平等だと思う。
オレのように恵まれている者は、死んだら盛大な葬式が開かれるだろう。
伯爵だからな!
だが、こいつら一般兵は死んでも、まとめて埋葬されるだけ。
これが不平等な世界の現実だ。
だからオレは絶対に伯爵という地位を譲らない。
たとえ死んだとしても、な。
第一軍が攻めてきた?
国王がオレを殺すつもり?
はっ。
いいぜ。
だったら返り討ちにしてやるよ。
不平等なんてくそくらえだ。
オレは絶対に、最後まで今の地位を守り抜いて死んでやる。
そのためには、オレ一人では無理だ。
「……」
しーんと静まり返った大庭園。
オレの目下には大勢の人がいる。
戦争だ。
オレは今から国に対し、国王に対し宣戦布告を行う。
この伯爵の地位を奪おうとするやつは、誰であろうと容赦はせん。
そのために、軍にはしっかりと働いてもらわんと困る。
最後までオレについてきてもらおう。
たとえその先に地獄が待ち受けていようとも、貴様らはオレとともにあるべきだ。
悪徳貴族のオレとともにな。
さあ、反逆の時間だ。