133. ロット侯爵
うっ……。
竜を倒しまくってたら急に腹が痛くなってきた。
腹の痛みって波があるんだよな。
だからオレはいったん戦線を離脱することにした。
まあ竜の数も相当減ってきてたし、オレがいなくても問題ないだろ。
だが、なぜかシャーフとアッフェがついてきた。
なんでついてくるんだよ。
くそっ。
こっちは腹が限界なんだよ。
思わず睨みつけちまったじゃねーか。
あ、でも良いこと思いついた。
オレはシャーフに姿を見えにくくする魔法をかけてもらった。
これで誰にもバレずにうんこできる。
最高だ。
ついでにアッフェにも指示を出しておいた。
「オレは少し離れる。オレの代わりとしてしばらく動いてくれ」
うんこに言ったと言われるのも心外だからな。
「私は何をやれば良いのでしょう?」
「オレらしく振る舞え。それだけだ」
「かしこまりました」
これでオレがうんこに言ってたり、迷子になっていたりしても誰も気づかない。
ふははははっ。
やはりオレは頭が良いようだ。
「それと王女とルインだが、オレが戻るまでは城でゆっくりさせといてくれ。
あいつらにはあとでしっかり戦ってもらわなければならんしな」
一応、王女と公爵令嬢を無下にはできんからな。
適当にもてなしといてもらおう。
それにあいつらには重大な責務が残っている。
オレの代わりに学園に謝るという重大な役目がな!
ふはははは!
さすがに王女と公爵令嬢の話には学園長も耳を傾けざるを得ないだろう!
オレはいい友を持ったぜ!
シャーフとアッフェに命じたあと、オレはすぐ茂みに潜った。
そろそろ腹も限界に近かった。
「……はあ」
そして解放。
大自然に包まれている気分だった。
最高だ。
ふぅ……。
たくさん出たぜ。
ところで……今からどうしようか?
まあいいか。
好きなように動くとしよう!
サボりを十分楽しもうではないか!
ふははははははははっ!
◇ ◇ ◇
ロット侯爵軍。
1万を超える軍勢は壮観な眺めと言える。
「ハッハッハッハッ! これで憎きガルム伯爵を消せるぞ!」
ロット侯爵は立ち並ぶ軍勢を見て、感動を覚えた。
これで憎き隣人、アーク・ノーヤダーマを倒せる。
ここ数年、ロット侯爵はずっとアークの後塵を拝し、苦汁をなめさせられてきた。
ガルム領の発展は逆に言えばロット領の衰退を意味していた。
相対的な意味ではなく、絶対的な意味で衰退を意味しているからたちが悪い。
「ようやくだ。ようやく、このときがきた」
ロット侯爵は喜色を浮かべながら軍勢を眺めていた。
「はい! 父上!」
ロット侯爵の隣にいた彼の息子も、侯爵同様、喜びを隠しきれない表情をみせる。
ロット侯爵令息も、バベルの塔でアークにやられたことに恨みを抱いていた。
親子揃ってアークに対して敵意を持っていた。
「グリューン侯爵も少しは役に立つようだ」
ロット侯爵が嘲笑う。
ロットとグリューンは同じ侯爵という地位であるが、ロット侯爵のほうが格上である。
そうロット侯爵は考えているし、事実としてグリューン侯爵は名ばかりの侯爵家となっていた。
「ものは使いようだな」
グリューン領は南側に位置しており、ロット領とグリューン領でガルム領を挟む形になる。
手を組んでも無駄だと思っていた相手が、多少は使い物になると知り、ロット公爵は気分を良くしていた。
「目障りな犬がようやく私の前から消えてくれる」
「やつの領地をものにすれば、我が領も安泰ですね。父上」
「ふんっ。せいぜい搾り取ってやるわい。たまたま魔鉱山があっただけの若造に、格の違いを思い知らせてやる」
ガルム領は魔鉱山を見つけたことで、偶然領地が発展した。
そう、彼は思っていた。
そのため戦力が十分揃えば負ける要素がないと考えていた。
そもそも四大侯爵のうちの一つであるロット侯爵に、たかが一伯爵が楯突くこと自体、分不相応なことだ。
この機会に改めて権力というものが何かを思い知らせてやろうと、ロット侯爵は考えていた。
尤も、アークがこの戦を知った頃には勝負はついている。
なぜならアークはいま学園にいるのだから。
「敗戦を知ったとき、ヤツはどういう表情をするだろうか」
ロット公爵はニヤリと笑みを浮かべる。
そうしてロット侯爵の軍勢がガルム領の向け軍を進めるのだった。