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131. 総員戦闘態勢

 ふははははっ。


 サボるの楽しいぜ!


 馬車で揺られながら外を見る。


 やはり、退屈な学園よりもこうして外に出てのびのびするほうが良い。


 好き勝手できるというのは最高だな。


 貴族に生まれて良かった。


 この世界に生まれて良かった。


 オレは本当に恵まれているな。


「ねえ、アーク」


 ルインが話しかけてきた。


「なんだ?」


 ルインが不安そうな顔を見せる。


「この先に何が待ち受けているの?」


 ふははははっ。


 なるほどな!


 まさかルインもサボったことを気にしてるということか。


 まあルインもなんだかんだ言って真面目だからな。


 こういうことには慣れていないのだろう。


「わからん。進んでみない限りはな」


「アークあ……その、怖くないの?」


「怖い?」


 ふっ。


 怖いわけがなかろう。


「オレはアーク・ノーヤダーマだぞ? この程度のことでビビってどうする?」


 傍若無人、悪徳貴族であるオレに怖いものなどない!


 ふははははっ。


「やっぱりアークは強いね」


 そりゃそうだろ。


 伯爵だぜ?


 まあ、ルインは公爵令嬢だけどな。


 だが、所詮は令嬢だな!


「私はこの進む先にどんな未来があるのかわからない。

アークのことは信じている。信じてるからここまでついてこられた。

でも、どれだけ信じていても、これからのことを考えると怖くて足が震える」


 ルインがぎゅっと袖を掴む。


「ならば戻るか? オレは止めん」


「……」


「この先になにがあるか?

今からオレたちがしようとしていることは間違っているのかもしれん」


 まあ十中八九間違ってるがな。


「だが、何もせずただ時が過ぎゆくのを待つのが人生か?

少なくともオレはそんな人生味わいたくもない。それはオレの運命ではない」


「運命? アークは運命を信じるの?」


「もちろん。信じてるとも」


 この世に運命があるからこそオレは伯爵になれたのだ。


 運命がオレを導いてくれた。


 こんな素晴らしい世界に。


 オレにとって都合が良い世界に。


 そして伯爵の地位を守り続けて死ぬのもオレの運命だ。


「意外。『アークは運命なんて知らん!』 って言うと思った」


「はっ。それはオレへの理解が足りんな。

何をしようがしまいが、それは結局、運命に行き着く。

努力ではどうしようもないものもある」


「それなら悲しい結果になっても、それは運命だって言えるの?」


「ふははははっ」


 それは笑えるな。


「なに? なんで笑うの?」


「悲しい運命? そういう運命はもう飽きた。オレには似つかわしくない」


 前世ではクソみたいな運命だった。


 そんな運命はもう十分、懲り懲りだ。


 ちぎってドブ川にでも投げてやろう。


 この世界では最高の運命がオレを待っている。


 そういう確信がある。


「この先に何があるかなんてオレは知らん。だが、どんな未来があろうとオレなら大丈夫だ。

なぜならオレはアーク・ノーヤダーマだからな」


「……うん。そうだね。アークが言うならきっとそう」


 ルインが決意のこもった目をして頷く。


 ふむ、いい顔をするようになった。


 これで貴様も同罪だ。


 一緒にサボった仲間だ!


 ふはははっ!


 みんなで渡れば赤信号怖くないってやつだよな!


 ぎゅるるるる~。


 ん?


 オレは強烈な違和感を覚えた。


 全身がぎゅーっとなる感覚だ。


 オレの第六感が反応している。


 これはなにかある!


 敵襲か?


「総員戦闘態勢!」


 他のメンバーの顔つきが変わった。


 ふむ、いい顔だ。


 ぎゅるるるるる。


 あ、違う。


 これは、この感覚はあれだ――。


 腹が痛いだけのやつだ。


 昼に食った魚があたったのかもしれん。


 やべっ。


 うんこ漏れそう。


◇ ◇ ◇


 突如、アークが叫ぶ。


「総員戦闘態勢!」


 それを合図に全員が動いた。


 馬車を出て周囲を警戒する。


 アークの指示に間違いなどない。


 疑いようがない。


 それが彼らに一致する考えだ。


 何かが来る。


 だがしかし、


「……」


 沈黙が場を支配する。


 不気味な静けさだ。


 緊張感が漂う。


 アークも厳しい表情をしていた。


 アークがここまで険しい顔をするのは珍しい。


 それが余計、緊張に拍車をかけた。


 もちろん、彼らはアークがただ腹を痛めてるだけというのを知らない。


 マギサ、ルイン、スルト、そして他のアークに付き従う面々。


 シャーフ、マギサ、ルインといった魔法使いたちはいつでも魔法を放てるように体内魔力を練る。


 プフェーアトやスルトは腰から剣を抜き、各々に構える。


 顔に緊張を浮かべ、来るべき何かに備える。


 いつまで立っても、何かが起こる気配がしない。


 緊張がやがて焦りへと変貌しようとしていた、そのとき――。


「――――」


 アークが無言で空を見上げた。


 そして、


「……っ」


 誰かが息を呑む音がした。


 空には巨大な影ができていた。


 空の覇者――竜がその姿を現したのだった。


 唖然とする一同。


 そんな彼らをあざ笑うかのように竜が大きく口を開けた。


「――――」


 先制とばかりに、一同に向かって竜が火炎を吐いてきた。


 竜の息吹。


 大地を焦がす一撃が地上に落ちてきた。


「ふっ」


 そんな絶望的な状況の中、アークがニヤリと笑ったのだった。

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