116. 頂上
オレは100階に到着した。
なんか何もない部屋だった。
真っ白で四角い部屋だ。
つまらん部屋だな。
部屋の真ん中では、ぽつんと女性が佇んでいた。
この顔……どっかで見たことが……。
あ、そうだ。
なんかシャーフとプフェーアトに似てるな。
真っ白な髪と真っ白な肌。
髪の長い女だ。
二人の親戚か?
いや、そんなわけはないよな。
さすがに世間はそれほど狭くないはずだ。
「ようこそ、アーク・ノーヤダーマ様。お待ちしておりました」
女がうやうやしく頭を下げてくる。
まあオレはガルム伯爵だからな。
オレを敬うのは当然のことだ!
ところで、
「貴様は誰だ?」
「私はバベルの塔の管理者、ラプンツェルです」
へー、なるほどなー。
まあ、どうでもいいけど。
オレは窓から外を眺める。
ふははははっ。
頂上から見る景色は良いな!
絶景かな!
「一つ質問よろしいですか?」
「なんだ?」
「アーク様はどこまで見えているのでしょう?」
「それなりに遠くまでは見えますよ」
オレは視力が良いほうだからな。
ここからなら随分遠くまで見ることができる。
「ふふっ、そうでしょうね。アーク様の目には、まるで未来がうつっているようです」
いやいや、話が飛びすぎてない?
ちょっと意味わからん。
まあでも、今のオレは気分が良い。
ちゃんと応えてやろう。
「オレの目に未来がうつっているのはではない。オレが未来を創っているのだ」
なんたってオレは伯爵だからな!
やりたいように未来を創っていけるのだ!
ふははははっ。
「ではアーク様が望む未来とは、どんな未来なのでしょう?」
オレが望む未来か。
そんなの決まってる。
「明日も楽しく笑える未来だ」
前世では、明日に希望を抱けなかった。
笑えない、希望のない最期だった。
そんな未来、糞食らえだ。
オレはもう二度とあんな惨めな思いはしたくない。
いまを守るためならなんだってする。
この伯爵という地位を守るためなら、どんなことでもやってやろう!
オレの未来のため領民どもを酷使し続けてやろう。
ふははははははは!
オレは悪徳貴族だからな!
「笑える未来、ですか。素敵ですね」
「そうだろう?」
「私には未来を創ることはできません。今をみるのに精一杯です。
傍観者でしかない私には、アーク様が眩しく映ります」
まあオレのような地位は、他人から見たらさぞ眩しかろう?
なんたって伯爵だからな!
ふははははっ!
「アーク様の目的は、グングニルの発動でしょう?」
グングニルってなんだ?
よくわからんが、頷いておく。
すると突如、部屋の中にオレの身長くらいある槍が現れた。
槍が宙に浮いているのは、さすが魔法世界だ。
今までに槍などなかった……いや、違う。
あることを認識できなかっただけだろう。
つまり、この真っ白で何もないように見える空間も、本来の姿が見えていない可能性もある。
認知できていないだけで、実はそこにある。
まあ、そんなことはどうでもいい。
よくわからんが、この槍を投げればいいってことか?
「未来あるアーク様に、その槍を使わせる私をお許しください」
ん?
どういうことだ?
このグングニルってやつを発動させのが、そんなにまずいことなのか?
やばいやつなら使わないけど。
「どういう意味だ?」
「グングニルを創ったのは、オーディンです。
オーディンが創り出したものを扱う意味、アーク様ならご存知でしょう。
あなたにグングニルを扱う覚悟はございますか?」
ふむふむ、なるほど。
つまり、オレに神の魔法を扱い切れないといいたいのか?
「舐めてもらっては困るな。オーディンの力くらい使えなくてどうする?
オレはアーク・ノーヤダーマだぞ?」
「ふふっ、そうでしたね。それは失礼いたしました」
オレはグングニルを握った。