111. ここはどこ?
ん?
ここは……どこだ?
現実?
それとも仮想現実?
目を覚ましたら白い天井でした。
ってな感じでマギの顔が見える。
あれ?
マギであってるよな?
マギサのほうじゃないよな?
顔が似すぎてるから、どっちか判断がつかん。
でも、雰囲気的にマギっぽいな。
ていうか顔が近い……。
マギがニコッと笑ってから立ち上がった。
「アーク様。ありがとうございます。
お礼に、あなたの望みを叶えて差し上げましょう」
感謝されるようなことは何もしてないがな。
というか、望みってなんだ?
オレの望みなんて確かないが……。
あれか?
ロストに頼まれたことか?
「アクセサリーの修復のことでしょうか?」
「ええ。私がもとに戻して上げましょう」
ふーむ、なるほど?
「それはありがたいです」
これでロストの頼み事もクリアだな。
余裕だったぜ!
ふははははっ。
マギが部屋を出ていく。
オレは立ち上がって周りをみた。
本棚がある。
ここはバベルの塔、99階のようだ。
「ん?」
ふと気づく。
上に続く階段があった。
ついさっきまでなかった階段だ。
どういうことだ?
これがあれか?
認知できないものが認知できるようになったってことか?
バベルの塔、最上階。
せっかくバベルの塔に遊びに来たんだから、登ってみようじゃないか!
◇ ◇ ◇
原作でのバベルの塔編、終盤。
主人公スルトが現実世界に戻ったときには、バベルの塔の敷地内に闇の手の者たちが侵入しているのだ。
さらに、魔物やキメラたちが敷地内で暴れ回っている。
ヘルとイカロスの仕業である。
ヘルは死者の世界の王。
ヘルがバベルの塔に侵入し、一時期的にバベルの塔と死の世界を繋げたのだ。
そうして魔物が出没しやすい状況となってしまう。
さらにイカロスの実験体であるキメラたちがバベルの塔に解き放たれるのだ。
これでもか、といえるほどに主人公を痛めつけるのが原作のストーリーなのである。
それに加えてフレイヤまでもが敵として登場し、自身の下僕たちを使ってバベルの塔を荒らし回る。
そもそも原作では闇の手の支配が進んでいる。
スルトの味方をしているキャラは尽く死亡している。
ルイン、学園長、メデューサ、第一王子、トール……などなどだ。
そんな状況で、スルトが闇の手を撃退できるはずがない。
主人公スルト含め、塔内の研究員たちも抵抗を試みるものの、圧倒的な多勢に無勢。
まさに絶対絶命の状況に陥る。
そこでスルトはとある決断を下す。
塔にある最強の魔法――グングニルをバベルの塔に落とすという決断だ。
これによって敵味方問わず、ほとんどのキャラが死ぬこととなる。
絶望的な状況の中で、なんとかスルトは生き伸びるのだ。
しかし、グングニルを使い、多くを殺してしまったことにスルトは罪の意識に苛まれることになる。
スルトが自分の意志で大勢を殺してしまったのだ。
これまでのスルトは、望まずして大勢を死なせてしまった。
しかしこの話では、スルトが明確な意思をもって大勢を殺した。
そこには大きな違いがある。
スルトの内面に消えぬ爪痕を残すことになるのだ。
というのが、大まかな原作の流れである。
味方キャラが多く死にスルトもトラウマを抱えるという、何も救いがない話である。
しかし、スルトにはもとから選択肢などなかった。
バベルの塔編では、他の話よりも格段に敵のレベルが上がっている。
バベルの塔を、闇の手が全力で潰しにかかってきているからだ。
そしてこの世界でも、原作と似た展開で物語が進んでいた。
つまり、闇の手が全力でバベルの塔に攻め込んできていた。
むしろアークという異分子を排除するために、闇の手は原作以上の兵力を動員していた。
しかしアークは、原作クラッシャーであると同時に、闇の手クラッシャーでもある。
そして、これまでの活躍で大勢の者たちを味方になっていた。
原作では死亡したキャラ、原作では敵になっていたキャラ、原作では存在すらしなかったキャラたちがアークの味方をしている。
原作とは状況がまったく違う。
アークに関わってきた人たちは、誰も心配をしていなかった。
なぜなら、これは”想定の範囲内”であるからだ。
この状況もアークの想定内だろう。
それがアークに関わってきた人物たちが共通認識として抱いているものだった。
そのため、魔物やキメラが暴れまわり、一見地獄絵図にも見えるような状況であっても悲観している者はいなかった。
もちろん、アークはこの状況を想定などしていないし、当然、何の準備もしていない。
誰もアークがポンコツであることを知らない事実が、おそらく最も悲観するべきことだろう。
そんなある意味絶望的な状況の中で、闇の手の者たちが攻め込んできている。
果たしてアークは、この状況を無事乗り切ることができるのだろうか?
それは誰にもわからない。