107. 9つの世界
この世界には、9つの世界が存在する。
人間の世界ミズガルズ。
アース神族の世界アースガルズ。
ヴァン神族の世界ヴァナヘイム。
妖精の世界アールヴヘイム。
巨人の世界ヨトゥンヘイム。
小人の世界ニザヴェッリル。
黒い妖精の世界スヴァルトアールヴァヘイム。
霧の世界ニブルヘイム。
炎の世界ムスペルヘイム。
死者の世界ヘル。
これらの世界とは別で平行世界というものが存在する。
つまり、別の世界線が存在するというわけだ。
別の世界線で、マギはヘルに体を乗っ取られた。
ヘルとは、9つの世界の中で最も忌み嫌われている死者の世界の王――を名乗る人物。
死者の世界で生まれ落ちたヘルは、ミズガルズを侵略するためマギの体を乗っ取ったのだ。
では、なぜマギの体を乗っ取ったのか?
それはマギがアース神族の子孫であったからだ。
神を受け入れる器を持つマギサだからこそ、ヘルの力にも耐えることができた。
他の人間では、ヘルが入り込んだ瞬間に体が崩壊してしまうのだ。
マギはヘルの思うがままに操られ、そしてミズガルズを滅ぼそうとしてしまう。
ヘルは、ミズガルズを死者の国の一部にしようとした。
しかし、ヘルの企みはあと一歩のところで頓挫してしまう。
体を操られたマギだが、彼女は英雄によって討滅された。
その英雄こそが、スルトである。
スルトもまた神の子孫である。
ムスペルヘイムの力を持つスルトは、ヘルと対等にやり合うことができた。
神を倒せるのもまた神である。
神の血を引く英雄スルトが、同じく神の血を引く魔女マギサを討つ。
それがこの世界線での流れであり、実際にマギが体験した過去である。
マギの記憶の最終局面、それは英雄スルトと魔女マギサが戦う場面であった。
◇ ◇ ◇
いやー、VR体験楽しかったな。
でも、きっとこれが最後の場面なんだろうな。
魔女マギサが王座にふんぞり返っている。
その姿をスルトが睨みつけている。
え?
スルト?
なんでそこにスルトがいるんだ?
と疑問を覚えるが、まあ大した問題じゃないか。
「英雄、スルト」
マギがつぶやく。
スルトが英雄かー。
普段のあいつを知ってるから、あんまりそんなこと思わないけどなー。
まあここはVRの世界だし、細かいこと気にしてもしかたないか。
「――とうとう、ここまで来た。お前を討つ、このときをずっと待ち望んでいた」
英雄スルトがなんかかっこいいセリフを吐いた。
ありがちな英雄譚だな。
重要なはずの場面だが、ちょっと笑えてくる。
スルトが英雄って、なんかやっぱり似合わん。
「それはご苦労。人間どもは思いの外しぶといようだ」
「ああ。人間を舐めるなよ、魔女。
なぜこんな真似をした? マギサ・サクリ・オーディン。
お前は……こんなことするやつではなかった」
「なぜ、だと? 無意味な問いかけだな。
理由を知ってどうする?
その手を止めるとでも言うのか?」
「それはできない。たとえお前にどんな理由があろうと、あまりにも多くの犠牲が出ている。もう後戻りはできない」
英雄スルトが魔女マギサに剣先を向ける。
スルトの剣が炎に包まれる。
「お前を伐つ。たとえこの身が滅びようとも!」
なるほど、なるほど。
これはつまり、ロードムービーというやつだな。
……で、いつからオレはこの場面に介入できるんだ?
二人の会話を延々と見せられるだけでは面白みがない。
はやくオレに参加させてくれ!