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106. 存在しない存在

 マギは、なんの因果か自分が存在しない世界に渡った。


 異なる世界。


 似て非なる世界。


 そこでならマギの罪は消える。


 世界の半分を滅ぼしたという罪が消える。


 なぜなら誰も記憶していないから。


 当然、記録にも残っていない。


 そもそも、マギは自分の意志で世界を滅ぼしたわけではない。


 彼女は死の世界の神と呼ばれる存在、ヘルに体を乗っ取られていた。


 マギが世界を壊したわけではなく、ヘルがマギを使って世界を壊したのだ。


 むしろマギは被害者と言えた。


 世界の半分を滅ぼしたという汚名を着させられた被害者だ。


 マギは「自分のせいじゃない」と、そう思える性格ならどれだけ楽だっただろう。


 しかし、マギは到底そうは思えなかった。


 マギは、マギサ・サクリ・オーディンは、心優しき女性だ。


 世界線が異なろうとも、彼女が本質的に優しい人物であることは変わらない。


 とんでもなくお人好しで理想論を語る青臭い人物。


 それが彼女だ。


 記憶も記録もなくとも、マギは自分の犯した罪が消えたとは微塵も思っていなかった。


 だから彼女は自分を責められずにはいられなかった。


 マギサ・サクリ・オーディンを恨まずにはいられなかった。


 過去を忘れて生きることなどできないし、忘れてはならない。


 忘れたらな、どんなことがあっても思い出さなくてはならない。


 マギの願いは果たされた。


 オーディンがマギを記憶の世界に連れて行ってくれた。


 アークとともに……。


「私と一緒にこの世界を救っていきましょう」


 マギはアークとともに、多くの者達を救っていった。


 あくまでもここはマギの記憶の中。


 いくら多くの者を救おうと、過去は変えることはできない。


 要は自己満足だ。


 その証拠に、場面が一つ切り替わるごとに、マギたちの活躍はなかったものにされた。


 街を救ったはずなのに、次の場面では街が滅びたことになっていた。


 つまり、何をやっても無駄ということだ。


 それでも、マギは人々を救い続けた。


 無駄だとわかっていても救い続けた。


 たとえ自己満足でも構わなかった。


 これがもし一人なら、心が折れていただろう。


 しかし、マギの隣には、


「ふはははは! この程度か、魔物ども! オレをもっと愉しませろ!」


 常にアークがいた。


 アークはどんなときも明るかった。


 本当にこの世界を楽しんでいるようにみえた。


 この行為が無駄だと、そんなこと一切考えていないように見えた。


 いや、おそらくアークのことだから「救うことに意味がある」とでも考えているのだろう。


 マギはそう考えた。


 彼女は、アークのあり方に救われた。


 過去(きろく)は変えられない。


 でも感情(きおく)を変えることはできる。


 マギはアークとの旅を楽しんでいた。


 つらい過去を楽しい記憶に変えていった。


 こんなつらい状況でも、アークがこの世界を楽しんでいるから、マギも楽しいと思うようになっていた。


「楽しんでいますか?」


 アークがそうマギに問いかけてきた。


「ええ、とっても。こんなに楽しいのは、生まれて初めてかも知れません」


 マギは本心でそう言えた。


 マギはアークと出会えてよかったと思った。


 そうしてマギたちはこの物語(きおく)の最終局面に到達したのだった。


◇ ◇ ◇


 原作でも、主人公スルトはマギとともにマギの過去を巡る旅をする。


 しかし、原作では楽しい旅とは到底言えないものであった。


 マギの過去の残虐な行いをまざまざと見せつけられる旅。


 襲いかかってくる魔物たち。


 決して楽な旅でもなければ、楽しい旅でもない。


 原作でのスルトは現実でも打ちのめされており、そんな状態では楽しい旅になるわけがない。


 過去は過去であり、介入したとしても過去は変わらない。


 無駄な行為だ。


 旅を続ければ続けるほどに、スルトもマギも傷ついていくことになる。


 楽しめるはずがない。


 それが原作の流れだ。


 しかし、アークは違った。


 アークはこの世界をVRゲームだと勘違いしている。


 VRゲームのセカイだからこそ、全力でゲームを楽しもうとしている。


 そんなアークと一緒にいるマギも、少なからずこの状況を楽しめていた。


 アークの鈍感さがうまくいった、奇跡的な展開である。

 

「ふははははっ。VRゲーム最高だぜ! ヒャッハー!」


 と、考えているアークは、つくづく脳天気な男である。

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