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103. オーディンへの願い

 目の前に神がいる。


 うん、やっぱり神だ。


 少年のような見た目だが、神だ。


 自分でもわからないが、神だというのはわかる。


 オレから高貴さがにじみ出るように、目の前の隻眼の少年からも神の存在感がにじみ出ている。


 オレは、神の存在を信じている。


 正直、前世では神など信じていなかった。


 信じれるような人生ではなかった。


 だが、今の人生はあまりにもオレは恵まれている。


 神がいなきゃおかしいだろ?


「オーディン神」


 マギがつぶやく。


「なんだい、僕のかわいい子供よ」


 子供……?


 あ、そうか。


 たしか、王族はオーディンの血を引いてるらしいからな。


 何世代前か知らんが、祖先ということだろう。


「私達が勘違いをしているとは、どういう意味でしょう?」


 マギがオーディンに尋ねる。


「そのままの意味だよ。僕はキミたち人間を管理するつもりはない。

大体、キミたち人間はどれくらいいると思ってるんだい?

どんどん増えていくし。管理などできようはずもない」


「でも、この部屋にこれだけの記憶があるのはなぜです?」


「それはキミたちの願いを叶えるためだよ。

そのためにキミたちを知る必要がある。

ああでも、そういう意味でいえば、ボクがキミたちを管理しているとも言えるのかな?」


 ふむふむ、なるほど?


 神だから願いを叶えてくれるか。


 まあオレには関係ないことだがな。


 オレの願いは常に叶っている。


 というよりも、オレは神に愛されている。


 だから、ここでわざわざ願いをいう必要もない。


 オーディンがごほんとわざとらしく咳払いをする。


「汝らに与えよう。ほら言うてみるが良い?

何がほしい? 何を望む?

アーク・ノーヤダーマ」


 口調変えて威厳出そうとしているのか?


 あまり似合ってないな。


 少年の体をしてるからか?


「願いは自分で叶えるものでしょう?」


 伯爵のオレなら、叶えようと思えば大抵のことは叶うのさ!


 ふははっ。


「ふむふむ、そうか」


 オーディンがどこからともなく、ぽんっと本を取り出した。


 そこには、オレの名前が書かれた本があった。


 さっきオレが手にした本だ。


「ほうほう、なるほど? うぬうぬ……。主は読めんのぉ」


 年寄りの口調して、ついでに目でも悪くなったのか?


 老眼にでもなったのか?


「じゃが、儂の子はわかりやすいのぉ」


 オーディンがマギサ・サクリ・オーディンというタイトルの本に目を通す。


「私の願いですか?」


「うんうん。叶えたいでしょう? 叶えたいってこの本にも書いてあるよ?」


 おいおい、神様よ。


 また口調が戻ってるぞ?


「どの願いかわかりませんが……。ええ、叶えたいです」


「そうかい。うん、やっぱり人間はこうではなくちゃ。

欲望に忠実じゃなきゃいけないよね。

そっちのほうが僕も楽だしね。

いやー、助かったよ。ほんとに」


 オーディンが上機嫌に笑い声を上げる。


 なにが楽しいのかわからんな。


「キミに僕から夢をプレゼントしてあげよう!

とっておきの夢をね。

まさに夢のような体験さ。キミの記録と、記憶をね。

今ならおまけで、そこの番犬くんもセットで付けてあげるよ?」


 おい誰が番犬だ、この野郎。


 神だからって調子に乗るなよ?


 でも、神ならいいのか。


 いやいや、良くないぞ。


 オレをモノ扱いするなんて、言語道断だ。


 神であろうと文句を言ってやる!


「私は番犬などでは――」


 最後までいい切る前に、突如、目の前がぐわんぐわんと揺れた。


 そして一気に視界が切り替わった。


「は?」


 目の前には、燃え盛る街が広がっていた。


◇ ◇ ◇


 オーディンへの願い。


 これは原作でも出てくる流れだ。


 原作の場合、スルトとマギの二人がオーディンと会うことになる。


 なんでも願いが叶う。


 しかし、その願いの分だけ絶望がついてくる。


 猿の手にも少しだけ似ている。


 猿の手が願わない形で願いが叶うのに対し、オーディンへの願いは願いの分だけ犠牲を伴う。


 そもそもこの世界は、鬱アニメの世界だ。


 鬱展開しかないのだ。


 ”なんでも願いが叶う”というのに裏がないわけがない。


 オーディンも主人公の味方というわけではないのだ。


 オーディンに願いごとをしたことで、スルトもマギも願いが叶う代わりに、それぞれ大切なものを失うことになる。


 果たして、この世界ではどうなるのだろうか?


 アークの介在がどう物語に影響を与えるのかは、誰にもわからない。


 神でさえも、わからない。

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