表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/28

09. 運命の出会い!?

 肩幅がやたら広くて、筋肉質な緑色の巨躯。

 背中にはドラゴンですら斬り伏せられそうな巨大な剣を背負い、とても高価そうな鎧を装備している。

 顔には傷痕がいくつも残っていて、いかにも歴戦の強者と言う風情ね。

 ……まぁ、ぜんっぜん好みじゃないんだけど。


「……」

お嬢さん(フロイライン)?」


 うわっ。

 周囲を見渡すふりをして無視しようとしたら、オークが正面に回り込んできた!


「エスタ高原は初めてで? 拙者もですぞ!」


 拙者ってどこの国の言葉よ。

 ……オークの国か。


「よもやよもやですな。エスタ高原とやらが、こんな美しい場所だとは思いもしませんでしたぞ。しかも、こんな見目麗しい乙女との運命の出会いがあるとは、拙者、感動を禁じ得ませんぞ!」


 ウザッ!

 セリフもそうだけど、さりげなく距離を詰めてくる姿勢がキモイ!

 悪いんだけど、オークの無骨なお顔は好みじゃないの。

 イケメン目当てだってのに、マンティコア並みのオッサン顔に迫られるなんて、どんな罰ゲームよ!


お嬢さん(フロイライン)。この出会いを祝して、あちらで一緒に飲みましょうぞ!」

「……」

「ふっ。かような場所は初めてとお見受けしますぞ! 拙者がリードいたしましょう!!」

「!?」


 オークが唐突に私の腰へと腕を回してきた。

 しかも、いやらしい手つきで脇腹を撫でてくる。


 ああ、殺意が……溢れる……。


『お嬢! お気をたしかにっ』

『もう我慢の限界だわ! こいつ、ぶち殺すっ!!』

『我慢の限界って、会話を始めてから一分も経ってないっスけど』

『オークなんて一瞬でも無理よっ!』

『嫌なら離れればいいじゃないっスか。婚活の席で、いきなり全力魔法ぶっぱはまずいですって!』

『うぐぐっ。わ、わかったわよ……』


 マフがいなかったら、本気の大魔法でオークを吹っ飛ばしていたところだわ。

 とりあえず冷静に。

 気を落ち着かせて対応しないと。


「会って間もない女の体に触れるなんて、失礼ではなくて?」


 不快な気持ちを精一杯押し殺しながら、私は口を動かした。

 もちろんオークに視線など向けない。

 こんな奴、私の視界に入れたくないもの。


「おや、申し訳ない。お嬢さん(フロイライン)と拙者の国では、アプローチの作法が異なるようですな!」

「どういった作法なのかしら?」

「オーク社会では強きオスが美しいメスを総取りする一夫多妻制ゆえ、普段はこのくらい強引に行くのが習わしですからな!」

「……目が曇っているようだから教えてあげますけど、私は人間です。オークのメスにするようなやり方が合うか合わないか、考えてから話しかけてほしかったわ」


 そう言う間も、オークは無遠慮に私の体を撫でている。


「はっはっは。可愛いお方ですな。オークのメスならば、お断りは言葉ではなく暴力でしたぞ!」

「……っ」


 私がその気なら、あんたとっくにこの世から消滅してるのよ!?

 それを、薄ら笑い浮かべながら人の体をまさぐって……!


『オークのメスは気性が荒いから、オス側もそれを御せるくらい強引で豪快なパワー系じゃないと返り討ちにされるらしいっスよ』

『こんな時にオーク族の講釈なんていらないから! どうすりゃいいのよ!?』

『彼らの習わしに従うなら、実力行使で拒絶するのが妥当っスけど』

『婚活パーティーの最中よ!? 力ずくってありなの!?』

『さっき殺そうとしてたじゃないっスか……』


 冷静になれば、この会場で力ずく(それ)はまずいと私にだってわかるわ。

 でも、こいつ人の話は聞かないし……!


「ぐへへへへ。人間もなかなか肉付きの良い体型の女性がいるのですなぁ!」

「……っ!!」


 あー。

 殺したい。今すぐぶち殺したい。

 骨まで残さずに焼き尽くしたい。


『お嬢、顔が引きつってるっス! せめてクールに澄まし顔で!』

『無茶言うなっ』


 気安く体に触れられて、今にもブチ切れそうなのを理性で抑え込んでるのよ。

 澄まし顔する余裕なんてないわ!


「はっはっは。これは失礼! 拙者、希代の勇者と呼ばれながらもオーク社会しかよう知らず、人間社会には疎いもので。とりあえず、あちらのテーブルに参りましょうぞ! ああ、これは拙者のプロフィールカードですぞ!」


 この状況で、よくもまぁそんなものを私に渡せたものね?

 何々? そんなに死にたいの?


『マフ、残念だけど私の婚活はもうお終いだわ』

『ちょちょちょ、お嬢!?』


 正体がバレても知ったことか。

 高潔なるグランヴァージュ魔侯爵家の当主に汚らわしい手で触れた大罪、その身に刻んで来世へ旅立て!

 私が魔力を集中し始めた矢先――


「やめないかっ!」


 ――まさかの助け船があった。


「ぐわっ! な、何をするのですかな!?」

「嫌がる女性に無理強いするなど、恥を知れ!!」


 私とオークの間に割り込み、その腕を捻り上げた男がいた。

 ……それは、聖騎士ディランだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

執筆の励みになりますので、【☆☆☆☆☆】より評価、
ブックマークや感想などをぜひお願いします!


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ