08. 婚活パーティー開幕!
草原に吹く風は、最初は穏やかなものだった。
でも、それはすぐに旋風となって草原を一様に薙いだ。
「何よ、この風!?」
『これも演出なんスかね』
薙がれた草が宙に舞ったと思うと、それらはまるで意思を持ったかのように、私の周りを回転し始めた。
……いいえ。違うわ!
私だけじゃなく、他の参加者達も同じように宙を舞う草に囲われている。
これは魔法で操られているんだわ。
「あら?」
動き回る草を目で追っていると、いつの間にかその草は緑色のカードに変化して、私の手元へと飛んできた。
そして、あっという間にカードの束ができあがった。
「……これ、プロフィールカードだわ」
『本当っス! ずいぶん粋な演出っスねぇ~』
見れば、他の人達も同じように手元へとカードの束が集まっている。
いつプロフィールカードを配るのかと思ったら、こんな形でよこすとはね。
あのギルド長の仕業でしょうけど、なかなかやるじゃない。
「プロフィールカードは、皆様の手元に行き渡ったでしょうか!」
ギルド長の声が空から聞こえてくる。
「それでは、第一部フリートークタイムへと移ります! 制限時間は、今より二時間! なお、フリートークタイム中の言動には縛りを設けません。各々の自主性にお任せしますので、ご自由にご活動ください!!」
えっ。そんなのありなの?
好き勝手やれって言っているのと同じじゃない。
その時、空がまばゆく輝き出した。
何が起こったのかと思って見上げると、空に巨大な時計の文字盤が現れた。
長針も単身も、本物の時計のようにチクタクと音を立てて動いている。
こんな魔法、初めて見るわ!
『……パーティーが始まりましたけど、どうするんスか、お嬢?』
『とりあえずは、どんな殿方がいるか確認ね。相手の手札もわからずに仕掛けるのはクレバーじゃないわ』
そう考えたのは、私だけでなく他の人達も同じようで。
『う、動かないわね……』
『みんな、自分以外の人達の出方を見ているみたいっスね』
『こんなんじゃ、時間が無駄に過ぎていくだけよ!』
『なら、お嬢が率先して動けば……』
『魔法使いは、クールに戦況を分析するところから戦いが始まるのよっ』
このまま参加者同士のけん制が続くかと思った時――
「みんなして黙っているのもなんだ、とりあえず意気投合から始めよう!」
――よりにもよって、聖騎士が最初に動いた。
「俺は聖騎士一族パラディナイト家の当主ディラン・マグナという! 当家は晩婚が続いていて、前当主――つまりは俺の父に、婚活でもして早くに妻を娶れと言われて、この場にいると言うわけだ!!」
……呆れた。
初めて顔を会わせる連中ばかりの会場で、よく一族事情を赤裸々に話せるわね。
『びっくりっスね! お嬢と同じ理由じゃないっスか』
『うるさいっ』
「ありがたいことに、この場には酒が用意されている! 俺はさっそく一杯やるつもりだが、付き合ってくれる人はいるか? まずは挨拶代わりだ、性別も種族も問わないぞ!」
聖騎士――ディランが言うや、何人かが彼のもとへと歩きだした。
『聖騎士さん、なかなかやるっスね! 会場の気まずい雰囲気を吹っ飛ばしたっス』
『はいはい。さすが聖騎士様、陽キャでございますこと』
……ディランの周りに集まったのは、まさに男女種族問わずだった。
すっかり意気投合して談笑の輪を作る人間の男女数名。
その輪に加わるワーウルフにワータイガー、そしてコボルトとリザードマン。
さらに、色目を使って媚びを売り始めるサキュバス。
『何これ。いきなり一ヵ所で歓談が始まったわよ!』
『しかも、みんなでお互いのプロフィールカードを交換し合ってるっスよ』
『どういうこと! 気になる者同士で親睦を深めるトークタイムじゃなかったの!?』
『フリートークっスからね……』
後れを取ってなるものかと、私は周囲を見渡した。
私と同じく孤立した者がいる一方で、一対一で会話を交わす男女がチラホラ現れ始めたわね。
と思ったら、女達に囲まれている男がいるじゃない。
まさか、あれは……!
『あの男の人が、噂の皇太子じゃないっスかね』
『ずいぶん良い衣装を着ているわね。しかも胸には勲章がいくつも!』
『皇太子は超ハイスペらしいっスから、親の七光りじゃないと思うっスよ』
『ライバルが多いわね。どうやって攻めようかしら』
『お嬢、皇太子狙いっスか? 聖騎士さんは?』
『黙れっ!』
居ても立っても居られなくなってきたわ。
孤立してるのも印象悪そうだし、私も皇太子のもとへ行きましょう!
覚悟を決めて足を踏み出した時――
「お嬢さん。一緒に一杯いかがですかな?」
――オークが私に話しかけてきた。(泣)