07. パーティー説明!
私を乗せた馬車がエスタ高原に降り立った後、同じようにパーティー参加者が続々とペガサスに乗ってやってきた。
「ペガサスがこんなに……。すごい光景ね」
広い高原に次々と舞い降りるペガサスの群れ。
何と言うか……圧巻だわ。
「希少種のペガサスをこんなに集められるなんて、婚活ギルドの長は何者なの?」
客車から降りる際、私の手を取る御者へと訊ねてみた。
「私どもも、詳しくは聞かされておりません」
「あなたも婚活ギルドの職員でしょう? 会ったことがあるんじゃないの」
「あります。が、常にあの方は仮面をつけておりまして、その正体は職員の誰も存じません。国王陛下の古い友人ということですが、それ以上のことは……」
「ふぅん。……送ってくれて、ありがと」
御者は深々と頭を下げた後、御者席に戻ってペガサスと共に空へと消えていった。
他の馬車も同様に、参加者だけを置いて、次々とペガサスが空へと帰っていくのが見える。
それがまた美しい光景だった。
『空を見るのもいいスけど、地上もなかなか面白い光景が広がってるっスよ』
マフに言われて周囲を見渡してみると、たしかに面白い光景だった。
一面青草に包まれた高原に、まばらに置かれたテーブル席。
そこには古今東西の美味しそうな料理がズラリと並べられている。
さらにテーブル脇のワゴンには、お酒の入ったグラスや、湯気の立つ飲み物、極めつけは皿に盛られたフルーツの山が乗せられている。
……どうやって用意したのかしら。
「よくぞいらっしゃいました! 冒険者の紳士淑女の皆様!!」
その声は空から聞こえてきた。
私を含めたその場の全員が上を見上げると、なんと一人の男が空中からひらりと地面へと舞い降りてくる。
彼の姿を視界に入れた途端、私は全身の毛が逆立ったように感じた。
『あの男、すごい魔力を持っているわ。あれがきっと婚活ギルドの長よ』
『何者なんスかね?』
『ペガサスをたくさん飼っている上、国王とのコネもある。何もないはずのエスタ高原に豪華な食卓まで用意できる手並みといい、簡単な相手じゃないことはたしかね』
その男は仮面で顔を隠していた。
しかも、真っ白いシルクハットにホワイトスーツ姿の出で立ち……。
さらには白いステッキを持っている。
よく見れば、髪の毛まで白いわね……いえ、銀色かしら?
全身白ずくめだなんて、私とは真逆だわ。
「今回は当ギルド初の婚活パーティーゆえ、参加者の選抜基準をやや厳しく設けておりました。ご不快に思った方がいたならば、この場を借りてお詫び申し上げます」
ギルド長は、ステッキをくるくると回しながら続ける。
「この場に集いし26名。種族性別問わず、参加希望者の中から世界に名だたる冒険者を選抜いたしました! ぜひともこの中から相思相愛が成立することを望みます!!」
……種族性別問わずですって?
周りの参加者を見てみると、なんとまぁ。
人間やエルフだけでなく、獣人や魔族、闇の眷属まで揃っているわ。
たしかに参加資格は冒険者であることだったけど、まさか人間以外の種族がこんなに参加しているとはねぇ。
「種族を選ばぬ公平性! 素晴らしいですね!!」
例の聖騎士が、ギルド長を誉めそやしてるわ。
「ありがとう。この場に集まった皆さんには、何に遠慮することもなく将来の伴侶を探してほしい。愛があれば、種族も性別も、思想も格差も関係ない! 愛が世界を結ぶのです!!」
ギルド長の演説に、参加者達が拍手を送り始めた。
何もしないのは角が立ちそうなので、私も周りに倣うことにする。
「では、本パーティーの説明をさせていただきます! パーティーは二部制で、第一部がフリートークタイム、第二部が全力アピールタイムとなります!!」
フリートークタイム……。
魔女の里に引きこもっていた私が、外の人と話を合わせられるかしら。
全力アピールタイム……?
全力でアピールって……何をどうするんだろう。
「そして、第一部の後には〈好印象投票〉を、第二部の後には〈告白投票〉を、それぞれ行います! これらは気に入った相手に投票することで、意中の相手に見込みがあるかどうかを確認できるシステムです。〈告白投票〉にて双方の希望が一致した暁には、晴れてカップル成立となります!!」
ふぅん、なるほどね。
〈好印象投票〉で意中の相手が脈アリかわかれば、後半戦での立ち回りを工夫できるわけか。
好印象なら強気で攻めればいいし、そうでないなら相手を変える手もある。
逆に、全力アピールタイムで挽回することも可能なわけだ。
これはどうやら最初のフリートークが勝負ね!
「まずは各自にプロフィールカードをお配りします! 私の開幕宣言後、さっそくフリートークタイムに移らせていただきますので、気に入った相手を見つけ次第、各々カードを交換して親睦を深め合っていただきたい!!」
ギルド長が天に向かってステッキを振り上げると、先端から花火が撃ち上がった。
青空に咲いた花火は、案外よく見えるものね。
ギルド長は再び空へと浮き上がると――
「婚活パーティー、スタートッ!!」
――草原を吹きつける風と共に、声高にパーティーの開幕を宣言した。