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06. 悪だくみ!?

 私はホテルの部屋でベッドに仰向けになったまま、ぼ~っとしていた。


『お嬢! どうかしたんスか?』

「うるさいわね! 今は話しかけないでっ」


 心配してくれるマフに、つい感情任せに怒鳴ってしまった。

 ごめんだけど、今は話しかけないで。


 ……まさか、まさかよねぇ。

 まさかギルドですれ違ったあのイケメンが、一族の宿敵・聖騎士だったなんて。


『さては、あの聖騎士のことっスね?』

「うるさいなぁ」

『……まさかお嬢、あの聖騎士に恋を!?』


 ベッドの上に脱ぎ捨てたマフが、スルスルと蛇のように私の胸の上まで這ってきた。


『さすがに聖騎士に惚れちゃまずいっスよ!』


 マフが、蛇のように鎌首をもたげて私に言ってくる。

 ちょうど白猫のワンポイントが私の顔と向かい合った。


『パラディナイト家は、聖騎士の中でもトップ・オブ・ベスト! 同じく魔女一族の頂点に君臨するグランヴァージュ家とは不倶戴天の宿敵同士!! 告白したところで、振られた上に殺しにかかってくるっスよ!?』

「わかってるわよ! ただの気の迷いだから、心配しないでっ!」


 私はマフを掴んで、ベッドの外へと放り投げた。


 わかってる。

 許されない恋……いやいや、恋なんかじゃない。


 きっと、宿敵の気配に私の魔女の血が反応したんだわ。

 本当ならば、あの場であの聖騎士をぶち殺すのが私の使命だったはず。

 でも場所が場所だけに、正常な判断ができなかったんだわ!


 ……そういうことにしよう。

 そんなことを考えているうち、私はまどろみに(いざな)われていった。





 ◇





 婚活パーティーの前日。

 マフが不必要に外に出ないようにうるさく言ってきたので、私はこの二日間、ホテルの部屋で大人しくしていた。

 でも、婚活に備えての準備は怠るつもりはないわ。


『……お嬢、何をしてるんスか?』

「婚活の切り札を作ってるのよ」

『切り札?』

「惚れ薬よ。これさえ完成すれば、意中の男を100パーセント落とすことができるわ!」

『ず、ずるい……』


 昨晩、近くにあった錬金術工房からこっそり薬の精製道具一式を借りてきた(・・・・・)私は、惚れ薬の製作を進めている。

 里のバンシーやリリムなどの魔族女子達から恋の相談をされた時、裏技で何度か作ったことがあるので、精製法は熟知したもの。

 戯れに作っていた薬がまさかこんな形で役立つなんて、世の中わからないものだわ。


「なんとか明日までには間に合いそうだわ」

『お嬢、それはちょっと婚活に臨む者としてどうかと……』

「うるさいわねっ」

『ギルドの規約にも、魅了(チャーム)の魔法の類は禁止とあるっスよ……』

「惚れ薬については書かれてなかったでしょ!? 問題ないわっ」


 首周りでやかましいマフを丸めて、ベッドへと放り投げる。


 さて。いよいよ惚れ薬も完成に近づいてきたわ。

 これで婚活に参加するどんな男も私の思うがまま!

 そう思った矢先、不意に私の脳裏にあの聖騎士の顔が思い浮かんだ。


「……っ。な、ないないっ! ないってばそれだけはっ!!」


 思わず動揺してしまい、指先が沸騰中の錬金釜に当たってしまった。

 せっかく完成間近だった惚れ薬は床へとぶちまけられ――


「あああぁぁぁあぁぁぁ~~~~っ!!」


 ――私の計画は露と消えた。


『罰っス。恋の女神の罰っス』





 ◇





 夜が明け、婚活パーティー開催当日。

 昨晩の失態に歯噛みしつつ、わずかに余った素材で作った睡眠薬でなんとか眠ることができた私は、なんとか時間までに目覚めることができた。


『惚れ薬がダメになったからって、魅了(チャーム)の魔法はご法度っスからね』

「うるさいっ! 思い出させないで!!」


 部屋の置き時計が八時を指すと、外から鐘の音が聞こえてきた。

 窓を覗くと、ホテルの前に馬車が留まっているのが見える。

 どうやらあれが婚活ギルドの迎えのようね。


 チェックアウトを済ませて外に出ると、御者らしき老紳士風の男が話しかけてくる。


「ベル・グラン様でございますね。これより目的地のエスタ高原までお送りしますので、客車にお乗りください」


 彼に促されて、通りに停まっている箱馬車へと向かう。

 見るからにお金のかかっていそうな豪勢な客車に、それを引く馬もユニコーンのように真っ白で美しいわ。


 ……でも、妙ね。

 考えてみたら、王都からエスタ高原なんて馬車でも三日はかかる距離じゃないの。

 どうしてそんな遠い場所に婚活パーティーの会場を選んだのかしら?


「では、参ります」


 私が客車に乗るや、御者の男が馬車を走らせた。

 馬車は特段速いわけでもなく、朝の街路を普通に駆けて行く。


 ……まさか三日間も馬車の中ってことはないわよね?

 そう思った時、馬車に変化が起きた。


「えっ!? ええっ!?」


 馬車が空を飛び始めたのだ。


「ご安心を。ベル・グラン様に危険はございません」


 御者席から男の声が聞こえた。

 見れば、馬にはいつの間にか大きな翼が生えていた。


「ぺ、ペガサスッ!?」

「はい。このペガサスがパーティー会場までお運びします。しばし、空の旅をお楽しみください」


 ……してやられたわ。

 まさかペガサスだなんて、思いもしなかった。

 こんな高等幻獣、魔女の里にだっていやしないもの。


『ペガサスの引く馬車かぁ。こんなもの、王族か王侯貴族くらいしか乗れないっスよ!』

『ええ。私もペガサスに乗ったのは生まれて初めて』


 それから私は三時間ほど空の旅を満喫した。

 上空から見る世界は、私が思っていたほど狭くも汚くもなかったわ。

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