13. ラスト3分の驚き!
「あ、あのぅ~」
「ベルさん、すまないけど先に彼女達とお話をしたいんだ。またあとでいいかな?」
「は……い……」
「オーケイ。それじゃあ、テーブルで四人一緒にお話ししようか」
「「「「はい~♪」」」」
皇太子は私のプロフィールカードも受け取らず、四匹のゲテモノを連れて私から離れていった。
一人だけポツンと取り残された私の立場はどうなるのか……。
『……』
『……』
『お嬢、とりあえずお酒でも飲んで落ち着くっス』
『そ、そうね』
何?
この忌々しい敗北感は。
◇
私はグランヴァージュ家の後継ぎとして生まれ、家臣達の期待に応えてきた。
偉大なる魔女だった母様の魔力と美貌を受け継ぎ、さらに驕ることなくそれを磨いてきたつもりよ。
この私に比肩する女なんて、人間はおろか、魔族や亜人族にだっていやしない。
その自負と誇りがあった――
「ううっ。この私が劣ると言うの……あんなゲテモノどもに……っ!?」
――なのに今、私はその自信が崩れかけている。
まさか婚活パーティーでこんな気持ちになるなんて、思いもしなかったわ。
皇太子を落とすと意気込んださっきまでの勢いはどこへやら。
私は今、すみっこのテーブル席で葡萄酒の入ったグラスをあおいでいた。
……甘くてとても飲みやすいお酒だわ。
『お嬢! もう三杯目っスよ』
『わかってるわよ』
『ヤケクソになっちゃダメっス。まだ前半戦っス!』
『私、どうやら井の中の蛙だったみたいよ……』
『世界最強の魔女が何言ってるっスか!?』
まったく、なんてことかしら。
オークに迫られ、因縁ある聖騎士に踊らされ、挙句の果てに人外に振るい落とされる。
ここが婚活会場でなかったら、とっくにヤケ酒を起こしてるところだわ。
「……フリートークタイムは残り3分ね」
上空に現れた時計の文字盤が、前半戦があとわずかだと示している。
中央にあるテーブル席では、ゲテモノ皇太子と四匹の人外が楽しそうに歓談しているわ。
どうやら私の存在はすっかり忘れ去られているようね。
「これが飲まずにいられるかってんだっ!」
『お嬢……』
三杯目の葡萄酒を一気に飲み干す。
私って酒で身を滅ぼすタイプじゃないんだけど、今日だけは悪酔いしそうだわ。
『あっ。お嬢、あっち!』
「ん?」
マフが私の首を引っ張ったので何かと思えば――
「げっ」
――私の方に向かって、あのオークが歩いてくるのが見えた。
フリートークの最後に、あんな奴と会話したくない!
私は逃げるようにテーブル席から離れて、人が集まっている辺りへと移動した。
「あっはっは」
「うふふ」
……くっ。
一人でいるからか、周りの声がガンガン耳に入ってくるわ。
みんなずいぶん楽しんでいるじゃないの。
「こ、この私を差し置いてぇぇぇぇ……!」
『絡んだ相手が悪かったっスね。トークタイムは諦めて、第二部の全力アピールタイムで挽回するっス!』
「全力アピールタイム、ね。はんっ! 一体どんなアピールをしろってのよっ」
『腐っちゃダメっすよ、お嬢』
くそぅ。
こんなはずじゃなかったのに……。
「これは驚いた」
「え?」
「こんなところでグランヴァージュの娘と会うとは」
「えぇっ!?」
突然正体を看破されて、思わず持っていたグラスを取り落としてしまった。
私に話しかけてきたのは――
「ずいぶん地味な恰好だから気づかなかったな」
――全身余すところなく真っ黒な甲冑で身を包んだ長身の男。
兜には仮面までついていて、その素顔は見えない。
私の正体を知っているなんて、何者なの……!?
「ああ、すまない。魔女のプライベートに干渉するつもりはない」
「あ、あなたは……?」
「いや。忘れてくれ。お互い、その方が良いだろう」
言うが早いか、甲冑男は血のように赤いマントをなびかせながら歩き去って行った。
中身が人間なのか亜人族なのかもわからない……不気味な奴。
『何者っスかね。お嬢の正体を見抜くなんて』
『敵じゃないようね。実家から私を連れ戻しにきた使いでもなさそうだし……』
こんな地味な服装の上、本来の魔力も抑え込んでいるのに、どうやって私が魔女だと見抜いたのだろう。
もしや、私の顔を知っている人物だったの……?
その時、エスタ高原にボーンボーンと重い音が響き始めた。
フリートークタイム終了の報せだわ。
空を見上げると、浮遊するギルド長が目に留まる。
「みなさん! 第一部フリートークタイム、お楽しみいただけましたでしょうか!?」
彼は手元のステッキをくるくると回しながら続ける。
「これより、お待ちかねの〈好印象投票〉を実施いたします!!」
いよいよ最初の投票か。
……ちょっとドキドキするわね。




