29話 母親の手記-オスカーside-
「フローラ、それはな、お腹が空いたのではなく、魔力が空になったんだ」
「魔力が……?」
フローラはキョトンとする。
「最近毎晩祈りを捧げているだろう? もしかして、昼間にも祈りを捧げているのか?」
「どうして、その事を……。はい、昼間にも同じように祈りを捧げていました」
「そんな大量の魔力を1日に2度も消費してしまっては、体内の魔力も空になる訳だ。不安か? フローラ、お前は何も心配しなくていい。お前は俺が守るし、何かあればどこにいたってすぐに駆け付けてやる」
そう言ってフローラの髪を優しく撫でる。すると、フローラはふにゃっと柔らかい表情ではにかんだ。
「オスカー様……はい、ありがとうございます……!」
「今までも、このシュナイダー領のために祈りを捧げていてくれたのだろう? ありがとう。だが、毎日ではお前が疲れてしまう。たまにで良いんだ。たまにで良いから、これからもこのシュナイダー領のために祈ってほしい」
「分かりました。お祈りは数日に一度にします。でも、何で祈っていると分かったのですか?」
「お前の不思議な魔力が風に乗ってシュナイダー領へ流れていくのを感じたからな。お前の母親もお前のような不思議な魔力をしていたのだろうか」
「不思議……でしょうか。あの、私を産んでくれたお母様は私を産んですぐに亡くなられたそうで、分かりません……」
「そう、だったのか……変なことを聞いてすまないな」
「いえ、良いんです。オスカー様に聞かれて嫌なことなんてありません」
「すまん、なら聞くが、祈ると風が起こることは自分でも気付いているな? その正体は何かは分からないか? そもそもなぜ祈ろうと思ったんだ?」
「はい、気付いてはいますが、何かは分かりません。祈ろうと思ったのは、お母様の日記の中で、お母様も祈りを捧げていることが分かったので、最初は真似しようと思って始めました」
「日記?」
俺が首を傾げると、フローラはてくてくと飾り棚へと行き、古い手帳の様なものを持ってきた。
「これです。お母様の手書きで記されているようなのです」
「これは……」
フローラから受け取って中身をペラペラと捲ってみると、彼女の母親フィオーレがアーレンスへ嫁いできてから、フローラを産むまでの事が手書きで記されていた。
それを見ると毎日の様に祈りを捧げていることが分かり、確かにフローラはこれを真似していたのだということが確認できた。
文面からは少なくともフィオーレはその力を理解して使っていたことが分かる。
そして、母親から血の繋がった女の子に継承されることも記されていた。
やはりそうだ。俺の考えは全て当たっている。となると……加護のなくなった今、あのアーレンス城が消滅するのも時間の問題だ。
アーデルハイトはこの力に気付いたようだが、あの害虫エリーゼは全く気付いておらず、改心もしていないようだった。
アーレンス城はまもなくエリーゼによって自滅を迎える。
俺は、あえて皇帝陛下にも報告せずに黙っていることにした。




