ヴァンパイアウイルスがばら撒かれた日本で主人公がハッピーエンドになるまで(ルートA)
※ルートAはバッドエンドルートになります。
※ルートA以外のルートは執筆未定です。
連日の猛暑日だった三年前の8月8日。
この日、日本の4つの都市で、つまり、東京、大阪、福岡、札幌で季節外れの雪が降った。
SNSで摩訶不思議な現象として拡散されたが、世間はすぐに阿鼻叫喚に陥った。
東都感染症センターの若手研究員「伊藤優」が犯行声明を発表したのだ。
曰く、新型のウイルス「Vampウイルス」を4つの都市にばら撒いた。
曰く、Vampウイルスに感染すると、ヴァンパイアのごとく人の血を欲するようになる。
曰く、その代わりに並外れた身体能力を持つようになる。
曰く、これは人類の進化を促す自分からのプレゼントである。
後に「真夏のクリスマス」と呼ばれることになる事件の発生だった。
◇◆◇◆◇◆
三年後の8月8日。
防疫局特殊防疫部隊が屯する陣地の一つの天幕において。
特務捜査官の伊藤遥は、防疫局局長の戸部明彦と向かい合っていた。
「局長、只今より『赤月』へ行って参ります」
「局長はやめたまえ。私は君の親代わりなのだぞ?」
「しかし、今は任務前ですので」
「任務、ね。デートの間違いじゃないかい?」
明彦がニヤリとすると、遥が頬を指で掻く。
「それは……否定できませんが、任務ですので、一応」
「ははは、楽しんでくるといい。君はデミとの――おっと、デミは差別用語か――罹患者たちとの友好の架け橋なのだから」
「はっ。では、俺はこれで」
遥は天幕を出る。
外は物々しい雰囲気に包まれている。
防護マスクをし小銃を構えた隊員が警戒にあたり、砲台や戦車が所々に配置されている。
遥は特に呼び止められることなく陣地を進み、最前線のバリケードを越え、緩衝地帯に入る。
灰色のビル群が建ち並ぶ廃墟の大通りを500メートルほど進む。
正面に見えていた向かい側のバリケード、その入口。
そこには一人の少女が夕焼けとともに待っていた。
濡れ羽色の髪を一つにまとめ肩にかけ、たおやかという言葉がぴったりの立ち姿であった。
「鈴白!」
遥が片手を上げると、少女――美波鈴白の顔が一気に華やぐ。
「遥!遅い!」
「悪い悪い。って、俺は時間通りだぞ」
「こういうのは男が早く来るものだろう。私なんか30分も前から待っているのに」
「それは早く来すぎだ。それにしても――」
遥は鈴白の格好を上から下へと眺める。
彼女は浴衣を着ており、竜胆の花が涼し気に咲いている。
化粧も頑張ったようで有り体に言ってお洒落であった。
腰に佩いた日本刀がなければ。
遥は呆れ顔で刀を指さしながら、
「それ、今日も持っていくのか?」
「当たり前だろう。常在戦場の心がけは基本だ。……だが、遥が似合わないというなら置いていくが」
「いや、似合っているよ。それ込みで今日の鈴白は綺麗だ」
「そ、そうか!よし!私たちも祭りに行こう!」
鈴白は照れた顔を見られまいと先に進む。
遥の手をしっかり握って。
遥かも笑みをこぼしながら手を離すことなく付いて行く。
今日この日、Vampウイルスの罹患者が集う自治組織の一つ「赤月」のベースキャンプでは夏祭りが行われることになっていた。
◇◆◇◆◇◆
伊藤遥は「真夏のクリスマス」事件を引き起こした伊藤優の弟である。
事件発生直後、遥はすぐに事情聴取を受けた。
伊藤優が大学進学後、音信不通だったこともあり遥への疑いはすぐに解けた。
しかし、遥は証人保護プログラムによって軟禁されることになった。
理由の一つは両親が亡くなっており、唯一の肉親である遥に事件の非難が集中しかねないため。
もう一つは遥の持つ生体情報――つまり、遺伝子にあった。
Vampウイルスに感染すると、罹患者は血を欲するようになると同時に並外れた身体能力を獲得するのだが、その要因となるのがVamp因子。VampウイルスはVamp因子を人体の細胞に注入する役割を担っている。
このVamp因子が遥の持つ遺伝子と完全に一致したのだ。
確かに遥は元々、常人を遥かに超える身体能力を持っていた。が、血を欲することもなく、身体能力もあらゆる面で罹患者の数値を大きく上回っていた。
よって、遥をVamp因子の完全適合者と定義して、一般の罹患者を半ヴァンパイアの意味で「デミ」と呼ぶようになった。
今ではデミは差別用語とされるが。
当初、遥は事件解明の研究に大人しく協力していたが、一年も軟禁されればさすがに憔悴してくる。
それを救ったのが亡き両親の友人だった戸部明彦だ。
明彦が後見人となり、遥は彼が局長を務める防疫局に特務捜査官として所属することになる。
防疫局とはVampウイルス及びその罹患者に対する包括的な国家対策組織だ。
遥自身から所属を望んだ。
理由としてはやはり罪悪感がある。事件を起こしたのは兄だから非はないのだが、いまだ逃亡中であるし、何かしなければ気が済まなかった。
ちょうどその折、日本は混沌と化していた。
「デミ」が引き起こす暴力事件。血を求めるがゆえの連れ去り事件。
「デミ」の排除を叫ぶ市民団体のデモ。
遥は罹患者よりも優れる身体能力を武器に特務捜査官として最前線で治安の回復に奔走した。
そんな時に出会ったのが美波鈴白だった。
鈴白は罹患者の自治組織「赤月」の代表であり、もう一人のVamp因子の完全適合者であった――。
◇◆◇◆◇◆
防疫局特殊防疫部隊が屯する陣地の天幕において。
局長の戸部明彦は書類仕事をしていた。
すでに遥が出て行ってから一時間以上が経過している。
明彦は不意に書類から顔を上げた。
「遥くんは今頃、夏祭りを楽しんでいるだろうか」
後見人として労る言葉とは裏腹に、その声音は酷く冷めていた。
「デミと友好を築くか――虫唾が走る。馬鹿な考えを持ったものだ」
明彦は吐き捨てるように言うと、懐からスマホを取り出す。
待ち受けには三人の親子が仲良さげに笑っていた。
一人が明彦であった。
「静江、由紀……私は何としてもお前たちの仇を……」
ちょうどスマホが鳴った。
ディスプレイに映る名前はつい最近、調略に成功した「裏切り者」からだった。
「私だ。……そうか。『アンプル』の奪取に成功したか。気をつけて運んでくれたまえ。特に伊藤遥と『赤月』の代表には悟られないようにな。……ああ。分かっている。約束は守ろう」
電話を切った明彦は仄暗い笑みをこぼしながら天幕の外に出る。
通りかかった隊員に声をかける。
「緊急作戦会議を開く。部隊長以上を至急、集めろ」
◇◆◇◆◇◆
夜空の星々が輝く中、遥と鈴白は屋台を回っていた。
場所は「赤月」のベースキャンプをまっすぐ突っ切る道路沿いである。
ベースキャンプと言っても、廃墟と化した街を勝手に占有しているだけだが。
今日はそこで暮らしている住人総出で屋台を持ち回りでやっている。
遥と鈴白は定番の焼きそばやたこ焼きを食べ、射的や型抜きで手作りの商品をゲットして、今はりんご飴を食べながらだらだらと歩いていた。
勿論、二人の手は繋がったままだ。
遥は辺りを見回し楽しんでいる彼らを見て思う。
「当たり前だけど、人間なんだよ、みんな」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でもない。あ、俺のなくなったから、ちょっとくれ」
「あーっ、私のりんご飴ーっ」
世間は今も彼ら罹患者を排除しようとしている。
その根本は恐怖だ。遥にもそれは理解できる。
「真夏のクリスマス」に使われた高濃度のVampウイルスほどではないが、空気感染や接触感染により、自分も罹患者になってしまう恐怖。
常人を超えた身体能力を暴力として振るわれる恐怖。
人の血を欲するという忌諱される行為のターゲットになる恐怖。
それでも同じ人間であるならば、互いに譲れる部分はある、と遥は思う。
そのためにはまずこちらから譲る必要がある。
遥と鈴白が主導となって「赤月」では血のための人攫いを徹頭徹尾、禁止している。代わりに、血液パックを確保し、それを分配している。
これが他の自治組織にも広まっていき、罹患者のイメージアップに繋がっていけば、と考えている。
まあ、イメージアップしそうにない奴も中にはいるが。
――と、遥はある男の顔を思い浮かべた。
「そういや、あいつ、今日は見ないな」
「あいつ?」
「井上だよ。いっつも何かと絡んでくるからさ」
「むぅ、デート中に他の男の話をするのは如何なものか」
「それを言うなら、他の女じゃないか?」
「どっちでもいいだろう。次はヨーヨー釣りしよう!」
井上修吾のことはどうしても好きになれない。
最初の出会いからして最悪だ。
井上が婦女暴行をしている現場に出くわし、遥が防いで未遂に終わったが、その井上が「赤月」のメンバーだったせいで、遥は当初「赤月」や代表の鈴白にも不信感を抱いていた。
鈴白や他のメンバーについては交流を深めわだかまりは一切ないが、井上は今でも事あるごとに目の敵にしてくる。
そんな彼の姿を見ないことが多少気にはなったが、鈴白に連れ回されているうちに記憶の片隅へと消えてしまった。
◇◆◇◆◇◆
遥と鈴白は歩いているうちに屋台の端までやって来ていた。
周囲には人気が僅かにしかない。
遥が踵を返そうとしたところ、鈴白が腕を引っ張って止めた。
「な、なあ。ちょっと二人だけにならないか?」
「ん?もうなっているだろ」
「そうじゃなくて……っ!その……ごにょごにょ……」
「あー」
こちらを見ようとせず口ごもる鈴白を見て、遥も察して顔を熱くする。
要は「お誘い」を受けていた。
これまでキスや軽いペッティングはあったが、それ以上はしたことはなかった。
「……まさか、外で?」
「ち、違う!何を馬鹿なことを言っているんだっ!ここなら、あそこが近いから、ちょうどいいなって思って……ちょうどいいって、何だ!?うがーーっ!」
「落ち着けって。それで、あそこってどこ?」
「がーっ……ん?うーん、まあ、遥になら言ってもいいか。――『アンプル』の保管庫だ」
「なっ!」
遥が驚愕したのも無理はなかった。
その場所は「赤月」の機密中の機密と言っていい。
「アンプル」とは高濃度のVampウイルスのことだ。それをばら撒けば再び「真夏のクリスマス」の悪夢が起きるとされている。
鈴白は遥の兄、伊藤優からそれを直接受け取ったそうだ。
おそらく鈴白がVamp因子の完全適合者であることをどこかで知ったのだろう。
そして「アンプル」の存在こそが軍事力を持つ防疫局への抑止力となっており、今の均衡状態を生み出している。
その影響は他の自治組織にも及ぶ。
つまり、「赤月」が有する「アンプル」は全罹患者の安全を保証していると言っても過言ではなかった。
「遥だから話したんだからな。他の連中には言わないでよ」
「それはいいが……『アンプル』の保管庫なのに、今、人がいないのか?無防備すぎないか?」
「今日は祭りだからな。そもそも場所のことを知っているのは少数だし、私たちの命綱なんだ、他の誰かに漏らすこともしない。今日の夜くらいは問題ないだろう。……それで……どうする?」
「さすがに初めてが『アンプル』のそばって言うのはゾッとしないんだが」
「だ、だって、あそこ、当直のためのベッドがあって、ダブルだから余裕があって、今朝、私がシーツを換えたんだ!だから、う~~っ」
さて、遥は鈴白の誘いに――、
+++++++++
+(選択肢)
+▷男なら黙ってGO!
+▶今は夏祭りを楽しみたい
+++++++++
……やっぱり「アンプル」の保管庫はないな、と遥は結論づける。
「やめておこう。今は純粋に祭りを楽しみたい」
「そうか……」
鈴白はがくりと肩を落とす。
遥はそんな彼女の腰を引き寄せ耳元で囁く。
「今度は俺の方から誘うから。待っててくれ」
「っ!絶対、絶対だからな!」
こうして二人は屋台の喧騒の方へ戻っていった。
◇◆◇◆◇◆
<<分岐、ルートA>>
遥と鈴白が屋台巡りを再開してしばらく経った頃。
防疫局特殊防疫部隊が屯する陣地の天幕には、二人の男がいた。
一人は局長の戸部明彦である。
明彦はもう一人の男からアタッシュケースを受け取り、中を確かめる。
中には「アンプル」が複数本入っていた。
「これで全部かね?」
「ああ、間違いねえぜ。これであそこに脅威はなーんにもねえ」
「ご苦労だった」
醜悪に頬を歪める男――「赤月」のメンバーである井上修吾に対して、明彦は言葉短く言うと、アタッシュケースを閉じた。
「それでよぉ、局長さん、約束を守ってもらえるんだろうな?鈴白を俺の女にするって、やつ。あぁー、遥の野郎から寝取るって考えたら、今からビンビンに滾ってきやがる。鈴白も俺のことをいっつも見下しやがって。くくっ、アヘらせて、いい声で啼かしてやんよ」
「ああ、その約束のことなんだがね」
「あ?」
明彦がおもむろに手を挙げる。
すると、天幕の中に防護マスクを被った隊員がなだれ込んできた。
Vampウイルスの罹患者の身体能力がいくら優れているとはいえ、不意打ちで大人複数人に襲いかかられれば、為すすべなく地面に押し倒されるしかなかった。
修語は顔を上げ睨みつけながら、
「くそったれ!騙しやがったな!ごらぁ!何とか言いやがれ!」
「適当に処分しておけ」
明彦の指示を受け、いまだ騒ぎ立てる修語は拘束されると引きずられていった。
明彦は懐からスマホを取り出し待ち受け画面を見た後、能面のごとき顔つきのまま天幕を出た。
そこには特殊防疫部隊の部隊員が勢ぞろいしていた。
明彦は彼らの前で命じる。
「総理の認可はすでに降りている。諸君、我が国を脅かす毒虫どもを一掃せよ!」
「「「はっ」」」
◇◆◇◆◇◆
それはそろそろ夏祭りが終わろうとする時だった。
一人の「赤月」のメンバーが周りと談笑する遥たちの所へと大急ぎで駆けてきた。
「大変だっ!防疫局の奴らが部隊を展開してやがるっ!」
そこにいた者たちはすぐに言葉の意味を理解できなかった。
そんな中、最初に動いたのは鈴白だった。
三角跳びの要領でビルとビルの間を駆け上がり、見晴らすことのできるベランダに着地する。
その後を追った遥も横に並ぶ。
遠くを見ると、確かに、防疫局特殊防疫部隊が「赤月」のベースキャンプを包囲しており、砲台や戦車砲もこちらへ照準を向けていた。
「なぜ、こんなことになっているっ!こちらには『アンプル』があって、いつでもばら撒けると知っているはずだっ!」
「っ!鈴白!『アンプル』は無事なのか!」
「まさか――」
鈴白は顔を青くして飛び降りると、道路の奥へ駆けていった。
遥はそれを追わずにスマホで「戸部明彦」の番号に電話する。
2コールで相手は出た。
「明彦さん!どうしてこんなことになっている!」
『こんなこととは一体、何だい?』
明彦の平坦すぎる声音に、遥は声を荒げる。
「どうして部隊を展開しているのか、ってことだよ!」
『おかしなことを聞く。攻撃を加える以外に何がある?』
「『アンプル』は――」
『無論、回収した。井上という男が役立ってくれた。すでにこの世にいないがね』
「あいつかっ!」
遥は歯噛みした。「アンプル」を防疫局に渡すという愚行をしでかした井上修吾にも、彼の姿がないことに疑問を持ちながら放っておいた自分にも腹が立った。
――俺はどこかで選択肢を間違えた。
「明彦さん、部隊の攻撃命令を取りやめてくれ」
『そうする意味がない』
「意味ならある。罹患者と友好関係を築けば、きっと俺たちは共存できる。Vampウイルスの治療法が確立するその時まで。明彦さんも理解してくれたじゃないか」
『治療法、ね。それはいつだい?いつまで我々は我慢しなければならない?デミという人の血を啜る化け物から。狙われるのは無力な女子供なのだぞ?』
「それを防ぎ、罹患者に秩序をもたらすのが俺たちの仕事だろうが!」
『いいや、違う。デミを残らず始末し、平和な日本を取り戻すのが我々の仕事だ』
二人の間を睨み合うような沈黙が流れる。
先に声を発したのは明彦だった。細い息を吐き出しながら、
『ふーっ、とにかくだ、今から『赤月』に属するデミの駆除を開始する。遥くんは戻ってきたまえ。君はVamp因子のオリジナルであり、完全適合者だ。利用価値が高い。ただし、それは絶対的ではない。『赤月』の側につくならそれでいいが、その時は覚悟してくれたまえ』
それだけ告げると一方的に電話が切られた。
「クソがッ!」
遥は感情のままにスマホを投げつけた。地面に転がったそれはひび割れて動かなくなった。
◇◆◇◆◇◆
「結局のところ、私たちはVampウイルスに感染した時点で人ではない別な生き物になってしまったのかな」
鈴白が諦めたようにそう笑う。
遥はそんな彼女を見たくなくて前方へと目を移す。
こちら側のバリケードを越えた先――大通りを500メートル行った前方には防疫局のバリケードがあり、特殊防疫部隊が防護マスクをし小銃を構えていた。
すでに砲台や戦車による砲撃は開始されていた。
爆発音と共に、廃墟街のビルは崩れ落ち、このまま動かなければ生き埋めになるしかなかった。
ゆえに、「赤月」のメンバー全員で突撃し、一点突破をすることで、包囲網から脱出し、別の自治組織に合流しようということになった。たとえそれが「誘い」と分かっていても、それ以外の選択肢はなかった。
「遥、今ならまだ君だけでも彼らのもとに――」
遥は鈴白を抱き寄せると、唇を唇で塞いだ。
「それ以上、言うな。ずっと一緒だ、これからも。愛している、鈴白」
「私もだ。愛している、遥」
泣き笑う鈴白にもう一度、口づけをする。
数秒の後、二人は離れた。
鈴白が浴衣の懐から小刀を取り出すと、遥に差し出す。
「遥、これを使うといい。さすがに武器なしというわけにはいかないだろう」
遥は彼女のぬくもりのする小刀を受け取った。
鈴白は顔つきを凛とさせると、腰に佩いてた日本刀を抜き払った。
「赤月」のメンバーの先頭に立つ。
彼らは銘々に盾になる物を持っていた。
「さあ、行こう!私に続け!一人でも多く、生き残れ!――突貫っ!」
鈴白が矢のごとく飛び出し、遥もそれに並走する。
二人が駆け出すと、すぐに前方のバリケードの向こうから銃弾が飛んでくる。だが、遥と鈴白はVamp因子の完全適合者だ。常人ならざる身体能力は知覚にまで及ぶ。遥は小刀で、鈴白は刀で銃弾を斬って進んでいく。
しかし、バリケードとの距離が詰まるにつれ、銃弾の密度が上がった。
背後で盾を持ち走っていた「赤月」のメンバーが一人、また、一人と倒れていく。
それでも遥は突破する可能性に賭ける。灰色となった視覚の中、銃弾の嵐を小刀一本で斬り開いていく。体の至る所から流れる血潮の熱を感じながら。
視界の端で鮮血が散った――。
倒れた音がして慌てて振り返る。
竜胆の花が咲く浴衣を赤く濡らした鈴白の姿があった。
「はるか……っ!いけ……っ!」
その最期の懇願に、遥は再び前を向く。
雄叫びを上げる。
「ぉぉおおおおおおおおおおおお――」
◇◆◇◆◇◆
防疫局特殊防疫部隊が屯する陣地にて。
戦況を後方から見守っていた戸部明彦のもとに隊員が走ってくる。
彼は敬礼した後に報告する。
「『赤月』の全滅、及び、伊藤特務捜査官の死亡を確認しました」
「ご苦労。二次感染を防ぐため一帯の焼却処分を始めろ」
「伊藤特務捜査官の遺体は……」
「構わん。全て燃やせ」
「はっ」
程なくして炎が上がり、「赤月」のベースキャンプを焼いていく。
「これが始まりの狼煙だ。デミを一匹残らずこの世から駆逐する――」
明彦の冷たい目に赤い炎が照らし出されていた。
<BAD END>
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+(コンティニューしますか?)
+▶YES
+▷NO
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