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第八話 譲れぬ願い

呼吸を落ち着かせようとする二人は、ゆっくりと立ち上がり構えを取る。

互いに覚悟を決め、自身の数ある技から最適である最後の一手を選択していた。

滴る汗すら蒸発しそうな程の熱気と緊張感に包まれた中で佐々島が口を開く。

「これで…終いと致そうか…。もう、出し惜しみは無しだ。」

「そのようですね…」

リックは剣を強く握りしめ、佐々島は極限まで脱力をしていく。

既に、双方が疲弊している中で互いの気の衝突は、空間に歪みが生じはじめる。

それを目の当たりしていた者達は、次の一撃で決着がつく事を感じ取っていた。

剣を握る手にも汗が滴り落ち、二人は大きく深呼吸をする。

緊迫する空気の中で、先に動きを見せたのは佐々島の方であった。

身体のゆっくりと後方へ倒した後、体勢を立て直すように今度は前方に倒していき重心を出来る限り下にする。

すると、佐々島の身体が消え直後に地面がいくつも抉れ始める。

抉れた跡が急速にリックに迫っていく。

それに対しリックも同じく踏み込み、突進を絡め二刀を振りかぶる。

獅子奮迅ししふんじん

“無型流 奥義 枯風からかぜ

彼は目に映る佐々島の首を捉える様に剣を振り下ろした。

たが、佐々島はリックの間合いに入った瞬間、更に踏み込んでリックの左後方へと身をかわすように進んだのだ。

それによりリックの振り下ろした剣は、虚しく空を切り体勢を崩す。

佐々島は腰を一気に捻り脱力によって肩から手首までを、鞭の様にしならせ遠心力を生んだ。

しなりと遠心力を持った刀で振るうその奥義は、相手の首や胴体を斬るには十分過ぎるほどの切れ味を持っていた。

佐々島の木刀が、後方からリックの首元目掛けて炸裂しようとしていた。

しかし、当たる寸前でピタリと腕を止める。

剣速から出る勢いによりリックの髪がなびく。

すると、佐々島がリックに対し言い放つ。

「勝負有りだ。意義はないか?」

「はい、勿論です。」

そう答えるとリックは、体中からの汗が止まらなくなっていた。

明らかな実力差を見せられたリックは、膝から崩れ落ち四つ這いになる。

誰もがその結果を前に拍手が送られることはなく、沈黙と静寂が訪れる。

「勝負有り!そこまで!」

その空気を断つようにアリスの声が響き渡る。

「くっ…クソッ…勝てなかった…」

小声で悔しがりながらリックは地面に何度も拳を叩きつけた。

己の未熟さ、こうすれば良かったと思う後悔、そして騎士団長としての誇りが失われる恐怖が、リックの胸を強く締め付ける。

一方の佐々島は、木刀を腰に納めリックの前に立つ。

すると、リックに手を差し伸べ笑みを浮かべる。

「いい立合いであった!」

差し出された手を見るも情けをかけられたと思うリックであったが。

「指南役の件受けるとしよう!これからも互いに剣を磨き続けようではないか!」

佐々島のその言葉に、リックやアリスは驚きを隠せなかった。

ましてやリックは、その言葉の真意すら理解できていなかった。

「言ったはずです。私が勝てば貴方を指南役に。貴方が勝てば…。」

「吾の好きな様にと言う事であろう?だから、指南役になると言っておる!」

一同がその言動に鳩が豆鉄砲を食らったような顔を見せる。

それを見ていたルヴィーは高笑いをし二人に近寄る。

「お疲れじゃったのう!これで騎士団も安泰ではないか?」

何も理解が出来ないリックは、キョロキョロと佐々島やアリス、コルト、ルヴィーを見る。

その姿に佐々島は、頭を掻きながら改めて説明をする。

「仕方無い。リック殿騙して済まなかった。吾は指南役を受けるつもりでいた。だが、御主の力量を知りたかった。故にこの様な形になってしもうた。」

それを聞いたリックは、空気が抜けたかの様に地面に横たわる。

先程までの緊張と重圧、責任感が一気に抜けたリックは安心した顔を見せる。

「はぁ…はぁ…、つまりササジマさんは指南役になるという事でいいんですね。」

「うむ、構わぬ。改めてよしなに御頼み申す!」

佐々島はリックに深々と頭を下げる。

アリスが団員達を集めはじめる。

リックの体力がある程度回復したところで、団員達を整列させ副団長と団長、佐々島が団員達の前に並ぶ。

すると、リックが一歩前に出て深呼吸をすると。

「改めて、この焔亭騎士団の指南役としてササジマトージローさんを推薦する事にした!見知らぬ地でありながら受諾してくれた事!この機会を逃すことなく私を含め団員一同更なる成長が出来る様これまで以上に訓練に励むように!」

「「はい!」」

リックの言葉に続き返事を返す団員一同。

誰一人としてそれに対し意義を唱える者は居なかった。

それどころが、先の決闘で団長よりも実力のある男に誰もが釘付けになっていたのだ。

「それでは、ササジマさん。一言御願いします!」

リックの急なふりに少しばかり驚くも冷静さを欠かずに一歩前に出る。

佐々島は、一通り団員達の顔を見ると深々と頭を下げる。

「此度、この騎士団の指南役を任された佐々島刀侍郎と申す。前日と今日の立合いを見ている者なら薄々気付いておるかもしれぬが、吾と御主等では使う剣術も違えば武具も異なる。教えられる事は限られると思うがそれでも、共に剣を高め合えるよう精進致す所存!何卒、よしなに御頼み申す!」

言い終えると再び深々と頭を下げ団員達を見る。

すると、団員達は佐々島を歓迎するかのように拍手をもって迎え入れた。

団長達は互いに目を合わせホッとする。

それもそのはず、得体の知れない男が急に自分達の指南役になると言うのは簡単には納得できなかったからである。

それでも、団員達がこうして迎え入れたのは彼の実力なのだと理解したのだ。

リックは、佐々島の挨拶が終わると再び一歩前に出て話す。

「今日の訓練は以前と同様のメニューで行う!明日からは指南役の支持の元訓練を行う!それでは解散!」

「「はい!」」

団員達は返事の後にそれぞれ訓練を行っていった。

団員達が訓練する中で、少しでもそれぞれの力量を把握したいのか佐々島は次々と声を掛けていった。

その様子を見ていたリックは、アリス達にその場を任せると佐々島の指南役の手続きの為、訓練場を後にする。

リックは団長室へ向かう途中でとある事を考えていた。

(佐々島の実力なら指南役でも十分過ぎるが、騎士団員としての採用が可能であれば戦場に出てもらう事も考えて貰えると良いんだが…)

佐々島の実力を見込んでの考えたのだろう。

大きな戦力として佐々島を起用する考えでいた。

だが、その考えが後に大きな事件になる事は誰も知る由もなかった。

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