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第五話 騎士と侍

「さて、着いたぞ!妾の家だ。流石に、野宿をさせる訳にはいかんからのう。」

「すまんのう。恩に着る。」


家の中には壁一面に本棚が並んでいるが、一部屋に収まりきらないのか奥の部屋にも本棚が見える。

しかし、散らかっている様子はなく綺麗に整頓されていた。

佐々島は、見た事のない内装に興味があるのか周りを見渡す。


「今お主用のベッドを準備するから、そこら辺に座っておれ。」


ルヴィーは、ベッドを準備する為に奥の部屋へと向かった。

一方の佐々島は、家の扉の前で草履を脱ぎ本棚の無い壁に持たれるように座る。


(他の屋敷とはまた違った形ではあれどこれも家と言うものなのか…やけに本が多いが一体なんの本なのか…)


見渡す限りの本棚には、各属性魔法の本や回復魔法、付与魔法、拘束魔法の他様々な本が置かれていた。その全ては、初心者向けの教本から上級者や熟練者用の物まで存在し、何度も読み直した形跡があった。しかし、埃が被っているせいかその殆どがここ最近使われなくなっている。


「出来たぞ!ちと狭いが野宿よりはましじゃろう!って…何をしておる!地べたに座りおって!?」


佐々島用のベッドの準備をし終えたルヴィーが戻ってくると彼の行動に疑問を投げかけた。


「何をと言われても、ルヴィー殿が座って色と申すから座っておったのだが?」


佐々島は、彼女が質問した内容に首を傾げるも素直に答えた。

しかし、ルヴィーはそれを聞いたのではなかった。

部屋の中央には、当然テーブルも椅子も置いてあり座れない様な状態では決してなかったのだ。

にも関わらず、佐々島は当然のように草履を脱ぎ地べたに座っていたのだから驚く他無かった。


「靴は脱がんでよい!それに、座れと言ったら普通はこの椅子に座るんじゃ!地べたに座る奴がおるか!」


流石にまずいと思ったのか、佐々島は急いで草履を履き椅子に座る。

佐々島の行動に、毎度の如く驚くのも疲れたのかルヴィーは溜め息をついて椅子に座る。

すると、別の部屋から20歳前後だろうか、長い黒髪の女の子が現れ飲み物の入ったティーカップを持ってきた。

眼帯と黒いマスクで顔の殆どが見えないが唯一、朱い宝石の様な右目だけが見える。

彼女は、客人である佐々島に軽く会釈をしテーブルに飲み物を置き始める。

一方の佐々島は、彼女の吸い込まれるような朱い瞳をマジマジと眺める。


「な、何か顔に付いていますでしょうか?」


ただならぬ視線に彼女は、佐々島に質問をする。


「いや、済まぬ!余りにも美しい瞳の色をしておったのでな!つい、見惚れてしまった!吾の居た国は、皆黒い瞳だった故、珍しく思った次第!」

「そ、そうですか。」


佐々島の返答に彼女は、どこか悲しげな表情を浮かべる。


「本当に済まぬ!事情を知らず、何か気に触る様な発言をしたかもしれぬ。申し訳ない!」


それを察したのか、佐々島は頭を下げ彼女に謝る。


「い、いえ!そんな事はありません。大丈夫ですから…。」


佐々島の対応に、慌てだすと少女はそそくさと奥の部屋へと戻っていった。

そんなやり取りを前にしても、何食わぬ顔で出された飲み物を飲んでいた。


「気にするなササジマ、弟子のサラは少し人と関わるのが苦手でのう。それより妾は、明日の決闘を気にしておるのだが?」


ルヴィーは、そっとティーカップを置くと佐々島の身を案じていた。

アリスとの試合で実力を見せつけた佐々島だが、副団長と団長では明らかに差がある事をルヴィーは知っていたのだ。

それもそのはず、リックの家系は代々団長を務めている。

幼少期時代より剣術を学び、20歳の節目で騎士団に入団。

団員達と幾度も立ち合わせ、その実力と名誉をものにしてきたのだ。

そんな英才教育をした現騎士団長のリックに、一介の剣士が敵うのかとルヴィーは心配したのだ。


「何を心配しておるのかは分からぬが、吾はただリック殿と“本気で立ち合いたいだけ”だが?」


それを聞いた彼女は、目の前の男が何を言っているのかが理解しようにも出来なかった。


(こやつ、今何を?ただ“本気で立ち合いたいだけ”じゃと?)

「お主、知らぬようじゃが忠告しておくぞ!あやつは先祖代々騎士団長の家系じゃ!実力も十分!昼間に試合をした小娘とは話が違うのだぞ?」


余りにも無頓着な男に声を荒らげる。ルヴィーがそうなるのも無理はなかった。

佐々島は、ルヴィーの言葉を聞いても尚キョトンとした表情をしていたのだ。

普通であれば、団長の実力を聞いて本気の立合いを挑む者はいない。

ましてや、知らなければ尚更挑む者は馬鹿と言われる程だ。


「アリス殿達には迷惑を掛けたかもしれぬが…。そもそも、吾は─────」

佐々島発した言葉に、ルヴィーは驚く他なかった。

酒場での彼の言動が何を意味していたのか、それを理解するのにしばらく時間がかかってしまう程。

そして、この目の前にいる“佐々島刀侍郎”という“侍の本質”を垣間見たのだ。


「お主…、本気で言っておるのか?いや、本気なんじゃろうな。」


これ以上追求しても、自身の理解できる域を越えていると悟った彼女の頬には汗が流れ落ちていた。

落ち着く為に深呼吸をして、佐々島を見返すと腕を組み寝かけていた。

彼女は、自分がベッドを用意したのを思い出したのか慌てて奥の部屋にいるサラを呼び出す。

二人がかりでなんとか佐々島をベッドに寝かした。

ルヴィーとサラも、時間を確認するとそれぞれのベッドへ向かい眠りについた。


─────翌日、明け方。


「158…159…160…161…162…」


ルヴィー家の外で素振りをしている男が居た。

鋭い集中力とスピードのある素振りにより一振り毎に風を切る音が鳴る。

辺り一帯が、徐々に登りゆく朝日に照らされて鳥のさえずりが聞こえてきた頃、家の扉が開く。


「おい、何をしとるのじゃ。こんな朝っぱらから、忙しい奴よのう。」


欠伸をしながら寝間着姿で現れたのはルヴィーであった。

空いた扉の奥からは、良い香りが漂い出す。


「ふぅ…。済まぬ!起こしてしまったか?朝の素振りをしておった!日々の日課でな!あと10回程待ってくれ!」


そう言うと、佐々島は最後の素振りを終わらせた。

佐々島は、刀を納め家の中へと戻る。

テーブルには、食パンにベーコンと目玉焼きを乗せたトーストが準備されていた。

ルヴィーとサラは、トーストを食べると佐々島もそれを見様見真似で食べ始める。


「ん!んまいな!これは何というのだ?」

「これはトースト。お肉はベーコン、その上に乗っているのは卵焼き。」

「そうか!忝ない!日本には無い物ばかりが沢山あるのでな!」


佐々島は、サラに礼をいうとトーストをペロリとたいらげ、コップの水を飲み干し再び外に出ていった。


「あやつは本当に忙しいのう。」

「いいんですか?師匠、あの人外に出てますが…。」

「大丈夫じゃ、昨日追跡用の付与魔法をかけてある。それに、あやつはまだ家のすぐ側におる。」


その言葉通り、佐々島は家の外で座禅を組み瞑想していた。

素振りをし、瞑想を行いその日の鍛錬内容や立合いの戦術を練ることこそが、彼の日課でありルーティーンなのである。

例え、その身体に小鳥が羽を休めようと動くことはない程の集中力を彼は持っていた。

時間にして一時間程経っただろうか。瞑想を終え、ゆっくり立ち上がり、今度は各関節の柔軟を始めた。


「よし、これでいつでも立ち合いは可能だな。だが、少し汗をかいてしまった。風呂はあるのだろうか?」


佐々島は家に入ると、サラの姿は無くルヴィーは読書をしていた。

サラの事を気にしていなかった佐々島は、ルヴィーに風呂の場所を聞いた。すると、


「お主に風呂を貸してやるのは構わないが、今はサラが入っとる少し待っておれ。」


佐々島は軽く頷くと椅子に座りサラが風呂から出てくるのを待っていた。

日も高くなり始め、風呂と身支度を済ませた三人は

家を出て王都の方へと出発した。

ルヴィーの家は、街外れにある為か王都に付くまで一時間程の道のりであった。


────────一方、アルンブルク城内騎士団訓練場では…


カンッカンッコンッカンッ


木製の剣同士がぶつかり合い甲高い音が鳴り響く。

それもそのはず、騎士団長のリックは騎士団員やコルト、アリスと休憩をはさみつつ幾度も立合いをしていたのだ。


「一体、何があったんだ?団長が二刀流なんて戦場でしか見たことないぞ?」

「それが、昨日アリス副団長と戦った男と試合なんだとよ。」


団員達は、リックの様子がいつもよりおかしい事に疑問をいだいき小声で話していた。


(このままでは、恐らく勝てない。もっと、もっと素早く相手の虚をつくしかない!)


リックは汗だくになりながらも団員達との試合を続けた。

相手をしていた大半は、副団長の二人だったがそれぞれ一進一退の攻防を魅せる試合だった。


「はぁ…はぁ……はぁ…。少し、休憩しようリック。体力を温存するのも大事だ。」

「はぁ…はぁ…わかりました。」


リックは、剣を下ろしその場に座り込む。

彼自身かなりの負荷を掛けたのだろうか、息は上がり体中の汗はまるで滝のように溢れ流れていた。

アリスは、リックにタオルを数枚渡し各々水分補給をする。


「まだ、来ませんね…」

「彼の事だ、時間通りには来るはず。あとは…」


リックは拳を握りしめ険しい表情を浮かべる。

それは、彼自身の責務とこれからの未来を思い、そして佐々島という男の本気と向き合うと言う事に、覚悟を決めなければならないからだ。

しかし、刻一刻と迫る約束の時間に、リックは少し焦りをみせていた。

それからは、長いようで短い時間が過ぎていった。

約束の時間まであと30分程となったその時、訓練場に三人の人影が現れる。


「たのもー!焰帝騎士団長のリック殿は居られるか!」


大声でリックの名を呼び、まるで道場破りの様な形で入っていく佐々島に対し、団員達の間をすり抜けるように出てきたリックは鋭い眼光で佐々島を睨む。


「お待ちしておりました。ササジマさん、約束通り試合をお願いします。」

「時刻より幾分速いが始めてもよかろうな?」

「勿論です。こちらは準備できています。」


リックは、木製の剣を一本持ち立合いが出来る広いところまで歩く。

一方の佐々島は、ルヴィーに木製の剣二本を魔法で木刀に変えてもらい腰に帯刀する。

佐々島も、リックの正面に立つように移動し一礼する。

二人の間にアリスが入り、試合の合図を掛けようとしていた。


「双方、共に構え!」


佐々島は、目を瞑り大きく深呼吸をする。

先程までのざわつきは、一気に消え去り訓練場には静寂が訪れる。

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