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第ニ話 “無型流”参る


3人は、訓練場までの道中で様々な事を話した。

佐々島自身がここに来る前の経緯や自身の国の事、刀と言う武器に至るまでを二人に身振り手振りで話した。

しかしながら、佐々島は文学に長けているわけではない為詳しい所までは話せなかった。


「それでは、ササジマさんの国では“サムライ”と言う剣士は皆それぞれ剣術があり競い合っていたのですね。」

「競い合っていたのは、吾ぐらいかもしれぬが…剣士や武士、侍にとって、“剣に生き、剣に死すことを本望とし己が剣術を磨くべし”と教わる事が多い。無論、流派によっては思想等が組み込まれる事も少なからず存在する。」

「なるほど、では訓練場に着きましたら一手お手合わせ願いましょうかね?」

「ん?吾と手合わせか?無論、断る理由は無し!騎士団長と言う職につく者の実力を見てみたいと思っておった!」


佐々島の話に少し興味があったのか、或いは佐々島の力量を測りたかったのかリックは佐々島に試合を申し込んだ。

一方の佐々島は、リックの突然の申し込みをすんなり承諾し期待を寄せていた。


(なんじゃ、また妾だけ蚊帳の外ではないか。まぁ、よい。こやつの実力は妾も気になるところじゃ。)


ルヴィーは、少し不満そうな顔をするもどこかしら期待した表情をみせる。

3人は、長い廊下を進み続けると騎士団の訓練場に到着する。

そこには、数十人の騎士団員が各々稽古に励んでいた。

その中でもひときは目立つ2人の男女が刀侍郎の目に入った。


(西洋の武術を一度見たことはあれど、似て非なるものかもしれんが…なかなかの遣い手である事に間違いは無い…)


その男は、年齢は40を超えているががっしりとした体格で力強く、鍔迫り合いで他の団員を次々と押し倒していた。

一方の女は、陽の光を美しく写したような金色をしたポニーテールのロール髪が目立ち、軽やかなステップと素早い剣さばきで他の団員に反撃する暇を与えず倒していた。


「ここが、焰帝騎士団員の訓練場になります。」


団員が次々とリックがいる事に気付くと稽古を中断し集合し始める。

すると、先程の彼女が号令を掛ける。


「騎士団長に礼!」

「「お疲れ様です!」」


号令と共に団員が一礼し、発声する。


「訓練御苦労!いついかなる時も、気を緩めることなく訓練に励むように!では、引き続き訓練開始!あと、アリスとコルトさんは残って下さい。」

「「はい!」」


リックの指示に答え団員達は、一斉に散らばり各々素振りや打ち合いを再開した。

残った2人は、佐々島達の前に待機した。


「お疲れ様です!リック騎士団長!そして、ルヴィー魔術師団長。それと…」

「アリス、紹介するよ。昨日、彼を保護した話はしたと思うが…」

「名を佐々島刀侍郎と申す。ここへは、吾の刀もとい脇差があると聞いてリック殿に案内してもらった次第!何卒、よしなに御頼み申す。」


佐々島は、自己紹介をし軽く会釈をする。


「ササジマさん、こちらの女性が焰帝騎士団副団長を勤めているアリス・アーカードです。」

「こちらこそ、宜しく御願いします。」

「そしてこちらが…」

「コルト・ダルトンだ。同じく副団長だ、宜しくな。」

「すまないがアリス、昨日渡した剣を彼に渡してくれないか」


軽く自己紹介を済ませるとアリスに佐々島のもう一本の刀を持ってきてもらう。

一方、リックは訓練場に立て掛けてある木剣を2本を取りその内の一本を佐々島に渡そうとする。


「こちらが、貴方の所持品の物です。ところで団長、剣を取り出して何をするおつもりで?」

「先程、ササジマさんに一手お手合わせを頼みました。カタナと似た形状のはありませんがこちらで大丈夫ですか?」

「あぁ、済まぬのう。だが両刃の剣は、扱ったことが無いので果たして吾におあつらえ向きかどうか…出来る事なら木刀を使いたいのだが…」


佐々島は、困った顔で後頭部を書き出すと後ろにいたルヴィーが溜息をつきながらリックの持つ木製の剣に手をかざす。


「わがままな男よのう。物質形状変化魔法でカタナとやらと同じ形にすれば文句は言えまい。」


物質形状変化魔法(リ・クリー)


ルヴィーが手から魔法を発動させると剣の形が徐々に刀の形へと変化していく。


「おぉ!これは、見事な妖術だ!ルビイ殿(かたじけ)ない!」

「ルヴィーだ!ル・ヴ・ィ・ー。全く翻訳魔法を使っておるというのに発音が出来ないとは…」


ルヴィーに御礼を言うが、片仮名の発音が難しいのか上手く名前を呼べない佐々島に彼女は呆れた表情をする。

そんな事はお構い無しに、佐々島は魔法により木刀となった剣を手に取り何度も頷き微笑む。


「うむ!やはり木刀はしっくりくる!さて、リック殿!吾はいつでも構わぬ!」


佐々島が脇差を腰に納め、木刀を手に訓練場の真ん中へと歩き出した時だった


「お待ち下さい!」


アリスが佐々島に向かってはなった言葉は、訓練場内の団員の手を止めるほど大声だった。


「副団長の(わたくし)を差し置いて団長とお手合わせなど…私は認めませんわ!団長の前に私とお手合わせをするのが普通のはずでしてよ!」


周りの団員達は一気に青ざめた。

それもそのはず、アリスは元々は貴族の出身で普段の言葉遣いは他の団員達と変わらない。

しかし、本気で怒ったときだけ貴族特有の言葉遣いになってしまうのだ。


「まずは、私と試合をなさい!私に勝てたら団長との手合わせをする事を認めますわ!」


そう言うとアリスは、佐々島の正面3メートル程離れた場所まで歩き剣を構える。

団員達はその場から離れるように散らばり2人の立ち合いを見守ろうとする。


「別によいが、何故女子(おなご)との立ち合いは初めて故。手加減が出来るかはわからぬが…」

「舐めないでくださる!私はこれでも副団長!本気で来て頂いて構いませんわ!合図!」


佐々島の言葉は、火に油を注いでしまいアリスをさらに怒らせてしまった。

近くにいた団員が慌てて合図を掛けようとする。


「そ、双方…共に構え!」


アリスはすでに剣を構えていたが、佐々島は構えることなく明後日の方向を向いて一礼をし始めた。

続いてリックの方に向かって一礼、最後にアリスに向かって一礼をする。


「何のつもりですの?」

「済まぬが、これは吾の…否、武道を志す者にとって大事な作法故。」


アリスの問に対しそう言うと、佐々島は帯刀の姿勢から右足をわずかに出しながら、木刀を構える。

初手佐々島が選んだ構えは、剣道の五行の構えの中でも防御に適した下段の構えであった。


(相手の間合い、剣速、剣術が分からぬ以上下手げに踏み込めぬ。久方振(ひさかたぶ)りだな、剣を握り見ず知らずの者と立ち合うというのは。吾が無型流(むけいりゅう)…果たしてどこまで通用するか…)


佐々島の目は、先程までの穏やかな雰囲気から一変しまるで獲物を狙い喰らおうとする虎の様な目付きでアリスを見つめる。


「始め!」


団員の合図からほんの数秒、否秒数にして1秒にも満たない一瞬アリスが地面を蹴り、一気に距離を詰め佐々島の後方6メートル程にまで飛び込んでいった。

ノーモーションから下半身の筋肉を駆使したバネにより、一気に距離を詰めすかさず突きによる攻撃を放つ。

この技こそ、彼女の最大の技なのである。

その脚力から放たれるスピードを初見で(かわ)すのはほぼ不可能。

騎士団長であるリックですら、最初(さば)くので精一杯の技である。


「え、えげつねぇな副団長…」


団員達がざわつく中、リックとルヴィーは目の前で起きた事に度肝を抜かれる。

だが、それを一番に驚いていたのは技を繰り出したアリス自身だった。


(信じられませんわ…。今のを…躱したというの?団長でも初見で躱せなかったのよ?しかも…)


アリスが驚くのも無理はなかった。自慢の技を初見で避けられた事もそうだが、アリスの腹部の隊服が少しばかり破れかけていたのだ。


「あやつ、なかなかにやるではないか。のうリック。」

「えぇ、一見ササジマさんはアリスの長距離の突きをただ躱しただけに見えますが、すれ違いざま、躱す瞬間に合わせるように剣を振り上げアリスの腹を狙った。言葉で説明は簡単かもしれませんがそのような芸当は、私でも出来ません。」


冷静に説明していたリックは、佐々島を見つめ何かを考えていた。


「なんと見事な突き、速さ正確さ共に申し分無し。しかし、これで終いとはいかぬのだろう?」


佐々島は既に後方にいるアリスに向かって構え直したが、アリスも少し遅れて構え直した。


「当たり前です。次は、必ず仕留めます。」


そう言うと再び地面を蹴り佐々島に襲いかかる。佐々島は先程同様、難なく躱していった。

だが、アリスの攻撃はその一撃に終わらなかった。

地面に着地し体勢を変え、突進の勢いを反発力に変え再び佐々島に向かって突きを続ける。

佐々島もそれに合わせ躱し続けるが、アリスの速度は躱せば躱すほどに速度を増していった。

流石の佐々島も、速度が上がるアリスの攻撃を躱すのが精一杯になっていく。


(この速さ…長引けば流石に厳しい…なら…)


佐々島は、隙を見て高く跳躍しアリスの猛攻を躱す。

突如視界から消えた佐々島に驚き動きが止まるアリスに対し、佐々島は頭上から刀を振り下ろしアリスを狙う。


無型流 (むけいりゅう) 飛龍落牙(ひりゅうらくが)


彼の放った攻撃は、自身の体重と重力に身を任せ落下し刀を振り下ろす。

その姿は、まるで天を舞う龍が急降下し鋭い牙で相手を喰らう様な技であった。

アリスは、頭上の佐々島に気付くも判断が遅れてしまう。

間一髪剣でガードするも、振り下ろされた膂力(りょりょく)により弾き落とされ膝をついてしまう。

佐々島は、着地後すかさずアリスの首筋に刃先を向ける。


「勝負あり!」


リックが試合終了の合図をだす。時間にして5分にも満たない試合であった。

パチパチパチパチパチパチパチパチ

訓練場内に拍手が響き渡る。


「済まぬ。流石にあの速度では手を抜けんかったのでな。」


佐々島はアリスに手を伸ばし謝る。


「いえ、私もムキになってしまったので。お恥ずかしい所をお見せしてしまいました。怒鳴ってしまい申し分ありません。」


アリスは、自身の行動に後悔し佐々島の手を掴み起き上がる。


「改めて、宜しく御願いします。トージローさん。」


立ち上がったアリスは深々と礼をするとリックとルヴィーが2人に近寄る。


「ササジマさん、先程の副団長の無礼を許してください。彼女も決して悪気があった訳では無いので」

「よいじゃないかそんな事、こやつも許しておることだし!それにしても、お主の動き一体なんなんじゃ?」


リックに割って入るようにルヴィーが佐々島に話しかける。

すると佐々島は2歩ほど後方に下り足を肩幅に開く。


「吾の動きは、武術の歩法の一つ“瞬歩(しゅんぽ)”といって体の重心を利用したものだ。」


佐々島は、実演を加えてリックやルヴィー達に教え始めた。

中には聞き慣れない言葉も数多くあったが、佐々島の実演を含めた説明としては十分であった。

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