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6話

アルファポリスサイトでこの回のR18版を掲載しています。こちらは通常版です。


 マリアとアルフォンスの挙式から一か月がたった。

 今日は私とアランの挙式の日だ。この先の人生に希望が見いだせないまま、今日この日を迎えてしまった。

 全ての支度を終えた私は鏡台の前に座っている。さっきまでバタバタと使用人達が式の準備に追われていたが、ほどなくしてそれも少しづつ落ち着き、今は静かになっていた。後は式の開始を待つだけのようだ。

 目の前にある鏡には、今日この日の為に美しく着飾られた自分の姿が映っている。それはまるで別人のように見えた。いつもとはメイクも服装も違うせいだろう。でも、あぁこれはソフィアなのだと、どこか他人事のように思っている自分もいた。


「それではソフィア様、時間になったらお迎えに上がりますのでこちらで少し休んでいてください。今日はこれから忙しくなりますので」


 小さい頃から私の傍付きをしているベルカは浮かない顔をしている私を心配そうに見ながらそっと部屋を出て行った。

 誰も居なくなった部屋で一人、窓の外を眺めていると無意識に前世の記憶が呼び起こされた。


 前世の私はいたって普通の女性で仲の良い両親とかわいい妹が一人いた。

 私は22歳で結婚後子供にも恵まれた。優しく穏やかな夫に愛されて幸せな人生を送っていたのだが、子供が2歳になったある日、不慮の事故でその生涯を終えてしまった。


 子供の成長を見続けたかった事、優しかった夫と寄り添いながら生涯を共に生きたかった事。もっと長生きをして孫やその子供達も見たかった事。

 未練は沢山あったものの、前世の私は幸せだった。

 これから先、アランとの関係がどうなるのか分からない。それでも、私は幸せだったと、この人生の終わりにそう思えるよう、精一杯生きて行こう。そう自分自身に誓った。 

 

 ノックの音がして、ドアの向こうからベルカの声が聞こえた。


「ソフィア様、時間になりました。さあ、参りますよ」


 私はしっかりした足取りで立ち上がり、深く呼吸をした。それからゆっくりと部屋を出ていった。


 侯爵家の結婚式は位が高い分、規模も大きい。かなりの人数の招待客が訪れる。

 隣にいるアランは私と目を合わす事はない。終始無表情だった。

 挨拶や賛辞などで主役の私達も忙しく晩餐会が済んだ頃にはすでにくたくたになってしまった。しかし、部屋へ戻るなりメイドに服を脱がされ、浴槽に入れられる。


「さあ、ソフィア様 磨きあげますよ」


 数人のメイドに念入りに体中を洗われた後、全裸のままベッドにうつ伏せにされ、丹念にマッサージを施される。香油の良い香りがする。ラベンターに似た香りだ。疲れていたせいかマッサージをされながら、そのまま眠ってしまったようだ。


「ソフィア様、起きてください。準備が出来ました」


 そう声が聞こえてぼんやりした意識のままゆっくり体を起こした。辺りは薄暗い。いつの間にかマッサージを受けていたベッドからふかふかで豪華なベッドの上に移動していた。

 

 ふと自分の格好が目に入る。ひどく露出度の高い服装をしているのだ。その事実に眩暈がするほどクラクラする。前世でもこんな格好はしたことがない。そもそも、なぜこの異世界にこんな過激なセクシーランジェリーがあるのだろう。

 あわてて違う服を探そうとするも、近くにいたメイドにとめられてしまう。


「ソフィア様、もう少しでアラン様が参ります。そのままの状態で少しおまちください」

 

 そういうとメイドは静かに部屋を出て行ってしまった。

 一人取り残された私はもう逃げ場がない事を悟ると、仕方なくベッドの隅にちょこんと座った。そのままの状態でアランを待つしかなかった。


 初めて着たこの過激すぎる格好が落ち着かず、妙にソワソワしてしまう。

 

 そんな様子で待っていると一つの疑問が浮かんできた。


 はたしてアランは、本当にここへ来るのだろうか。


 主人公が愛されていない設定では白い結婚のままだったりする。前世で読んだ小説がそんな内容だったのだ。

 そうだ、マリアに操をたてているであろうアランは、きっとここには来ない。頑固で堅物なあの性格なら自分で納得しない事はしないだろう。

 そう思った時、今まで緊張でガチガチだった体から急に力が抜けて行く感覚がして、徐々に気分は楽観的になっていった。

 疲れているし、もうこのまま寝てしまおう。そう開き直ってベッドに入ろうとした時だった。


 唐突にドアが開いた。


 開け放たれた空間から夜着のアランが姿を現した。

 私はしばらく放心状態で動く事が出来ない。アランが来たことに心底驚くばかりだった。


「何故そんなに驚いた顔をする?」


「えっ…!?」


『えっ!?何で!?何でここに来たの!?』


 口に出そうになったが何とかこらえた。内心、そんな言葉で頭がいっぱいになっていた。


「…いえ……」


 ようやく絞りだした声でアランにそう答える。


 忘れていた事が二つあった。

 一つはアランは律儀な性格であり、約束は必ず守る性格だった事。もう一つは婚姻条件に子作りという項目がしっかり入っていた事だ。

 やはり初夜は避けられないようだ。


 それにしても彼と会話をしたのはいつ以来だろう。記憶をたどる事も難しいくらい前だ。

 いつ振りか分からないほど久しぶりのアランとの会話は開口一番、私に衝撃を与えた。


「なぜ俺がお前などと結婚しなければならないのだ。マリアをいじめていた、浅ましく性格の悪い女などと」


 吐き捨てるような言葉に私は絶句する。


 まさに青天の霹靂とはこのことだろう、私にはマリアをいじめた記憶はない。何故そのような事になっているのか…。


「アラン、私はマリア様をいじめてなどいないわ!誰がそのような事を言ったの?」


「マリアから聞いている。おまえはあろう事かマリアを階段から突き落とそうとしたり、水を掛けたりしたそうだな。マリアが大切にしているものを壊したり隠したりしてあざ笑っていたとも聞いた」


 そういうとアランは憎しみと軽蔑の目で私を睨みつける。


 まるで悪役令嬢が婚約者に断罪され婚約破棄される時のテンプレのセリフだ。実際に、しかも初夜にそんな事を言われるなんてさすがに想像もしていなかった。


「アラン、わたしはそのような事はしてないわ!証拠はあるの?目撃者はいるの?」


「そんなものはない。お前がどうとでもしたのだろう。もういい、俺はお前をもう愛してはいないし、これから先、愛する事もない。子を産んだら愛人をつくるなり家を出るなり好きにしろ」


 こうして最悪な結婚初夜が始まる。

 


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