3話
アルファポリスサイトでも掲載始めました。本編4話で運営サイトさんの方からR15に該当しないとご指摘をいただき本文を大幅に変更しておりますが、アルファポリスサイトでは原文そのままを掲載予定です。したがってR18指定になっております。それ以降も少々過激にしていこうと思っておりますのでご興味がありましたらよろしくお願い致します。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/199438811/947495145
「ごきげんよう、ソフィア。久しぶりね」
そう声をかけてきたのは、妖艶でどこか儚げな印象の美女だった。彼女はアランの一つ年上の姉、ロレイン・ドリュバードだ。近い未来、私の義姉になる人だ。
「アランのあの様子…。弟がごめんなさい…」
「ロレインが謝る事じゃないわ。それよりあなたの方が…」
私の言葉にロレインは少し困ったように笑った。
今、目の前で幸せそうに手を振っている人物は彼女の元婚約者なのだ。
彼女は王家との取り決めで、生まれる前からアルフォンスの婚約者だった。
その為、早々に王妃教育が始まり、5歳からすでに王宮で暮らしていたのだ。
王宮入りしてから、毎日勉強付けの日々だった。
マナーや作法、ダンスなど王族は当たり前のように完璧を求められる。
彼女の勉強内容はそれらの習得に加え、将来、王と共に国を支える存在として他国と渡り合うべく、語学の会得、世界情勢、領地管理、経営の勉強など恐ろしいほど多岐にわたるのだ。その為、ほぼ休みがなく、学園に通う15歳まで王宮の中だけでの生活を余儀なくされていたのだ。
ロレインと初めて出会ったのは王宮主催のお茶会がきっかけだった。私が5歳の時だった。
その会場で母とはぐれてしまった私は、城内で迷子になってしまった。しかしその時、偶然出会ったロレインに助けられたのだ。
妖精の様に美しい容姿の彼女は困っている私を見つけると、やさしく声をかけてくれた。幼かった私は、しばらくの間、本当に彼女を妖精だと思っていた。
後にその話をロレインにしたところ、彼女はお腹を抱えて笑い転げてしまった。その様子がおかしくて私も笑った。
お腹が痛くなるほど笑いあったあの日からずっと、私達は親友同士だ。
聞けばあの時、退屈なレッスンに嫌気がさし、こっそり抜け出して秘密の隠れ部屋に行く途中、迷子の私を見つけたそうだ。日々のレッスンでストレスが溜まると、いつもその隠れ部屋に行くのだそうだ。
彼女が未来の王妃様という事実よりも、とても美しい姿をしている彼女が、男の子みたいに元気に走りまわったり、従者や護衛にいたずらをする姿を見て、私はひどく驚いたものだった。
弟にもよくいたずらをして両親に叱られていたのだと言っていたが、それからすぐ、彼女の弟と会う事になるとは、その時はまだ思ってもいなかった。
当時、悪戯好きで男の子のような性格だった彼女が、時がたち妖艶な美女に成長した。アランと同じ美しい濃紺の髪に完璧なボディラインを持った彼女は、今日のような控えめな装いでも見とれてしまうほど美しい。
王太子のアルフォンスも、彼女同様、過酷な教育を受けていた。政略結婚の相手ではあるが、同じ環境に身を置く同士として、ロレインとアルフォンスは幼少より励まし合い支えあって生きてきた。
そんな彼らの間には割って入る隙がないほど信頼関係があった。お互いを特別な存在として大切にしていたように思う。
しかし彼女達も私とアラン同様に、ヒロインのマリアが編入してから関係が変わってしまった。
アルフォンスもまた、マリアに惹かれ始めたのだ。
ロレインはいつも毅然とした態度を崩さない。人の目がある場所では常に平静を保たなくてはいけないし、決して取り乱してもいけない。幼い頃からそう叩き込まれた彼女は決して泣く事はなかった。辛い表情も見せない。
今もこうして平常を保っている姿に彼女がこれまで生きてきた環境の過酷さを思い知る。
「あれからフローラの行方は分かった?」
「…未だに所在が分からなのよ。どうしているのか心配で…」
「まだ居場所が分からないのね…。私も情報を集めているのだけど…。どうしてこんな事になったのかしら…」
消え入りそうな声でロレインがつぶやく。
ゲーム上のロレインは、婚約者のアルフォンスとマリアの仲に嫉妬し、ヒロインを苛め抜く悪役令嬢という設定だった。
私達が心配している人物は私達の友人であり、攻略対象者の一人、宰相の息子オズワルド・レイモンドの元婚約者で名前はフローラ・モーリガンという。
ゲーム上での彼女は、悪役令嬢ロレインの取り巻き役だ。
私達とフローラはあのお茶会の後、ある出来事がきっかけで出会った。それ以後私達3人は良い友人になった。
ロレインとフローラ、現実の二人はゲームと同じ立ち位置にはいない。
ロレインは学園での授業が終わると、立て込んだ王妃教育のスケジュールをこなすため早々に王宮へと戻っていた。
そのため、マリアと全く関わっていない。毎日非常に忙しいので、彼女の相手をしている時間などないのだ。
フローラはロレインの取り巻きではなく、互いに幼い頃から積み重ねてきた信頼関係のある良好な間柄だった。そんな理由でロレインは悪役令嬢にはならなかったし、フローラはロレインの取り巻きではない。二人は心を許せる親友同士なのだ。
そもそも二人共、悪意で人をいじめるような性格ではない。
フローラは昔から曲がった事が嫌いで、勝気な性格だった事。そんな性格の彼女はマリアが自分の婚約者のオズワルドやアラン、アルフォンスとも近しい関係になっていることをよく思っていなかった。
ある時、腹に据えかねたフローラは、意を決してマリアに注意した事があった。
その出来事をマリアがオズワルドにどう伝えたのか分からないが、オズワルドはフローラがマリアをいじめていると学園のダンスパーティの最中、大勢が見ている面前で断罪をした。そしてその場で一方的に婚約破棄を宣言したのだった。その断罪と婚約破棄の宣言を受けた彼女は、私達の抵抗も虚しく、問答無用ですぐに会場から連れ出されてしまった。その日以来彼女の姿を見ることがなかった。
しかしその出来事は、ゲームの中でロレインが受ける出来事なのだ。ゲーム上、断罪と婚約破棄を受けた悪役令嬢ロレインは、それ以降、表舞台から消えてしまう。そしてその後、悪役令嬢ロレインがどうなったのか私はどうしても思い出せない。
記憶を取り戻した今、彼女の行方が心配で仕方なかった。
あの日からずっと、フローラは消息不明のままだった。




