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アルフォンスの話2

 ※胸クソ注意。必要なければ読み飛ばしてください。

 


 早朝から機嫌が悪いマリアに頭を抱えていた。

 昨晩、彼女からの唐突な申し出を聞いた私は、一晩中彼女を説得し続けた。結果、堂々巡りの会話を繰り返すうちに彼女の機嫌を壮大に損ねてしまったのだ。

 一晩経った今も、彼女の機嫌が直る事はなかった。私と目を合わせる事はないし、会話をする事もなかった。

 何とかして彼女の機嫌を取ろうと様々な方法を試みるが、一向に彼女の機嫌が良くなる事はなかった。


 、

 まさかマリアが子を産みたくないと言い出すとは思ってもいなかった。それを聞いた私はひどく落胆していた。

 自分の血を引いた子をこの手に抱いてみたい。昔からそんな願望が強くあったのだ。

 あの直前まで近い未来、彼女との間に授かるであろう我が子を想像して浮かれていた自分が酷く滑稽に思えた。言い出したら聞かない彼女は、一度決めた事を覆す事は滅多にない。このまま彼女を説得できなければ、この先、我が子を見る事は一生叶わないのだ。



 

 朝食を済ませてしばらくした頃、船はようやく旅の目的地に到着した。


 入港して船が港に止まる。それから使用人に促されて不機嫌なままのマリアと並んで外に出るドアの前に立った。しばらくの間、私達の間には気まずい雰囲気が流れていた。

 しかし、ドアが開けられた瞬間、たくさんの人の歓喜の声が聞こえた。眼下に広がる港にはたくさんの人々が集まっている。皆一様に笑顔でこちらに旗を振っているのだ。それからラッパの音を合図に、辺り一面花吹雪が舞うと、あっという間に賑やかな歓迎の演奏が始まった。


 海を渡ってたどり着いたこの国は活気で満ちていた。自国よりも暖かい気候のせいか、どの人も陽気で明るい。

 そんな雰囲気に歓喜しているのか、先ほどまで無表情だったマリアの顔はぱっと明るい表情になっていった。

 マリアの機嫌が直った事に心底ほっとした私は、彼女の前にそっと手を差し出すと、彼女はそれにこたえるように自分の手を添えてきた。

 そうして船から港に降りるスロープを彼女をエスコートしながらゆっくりと降りて行った。


 

 スロープを降りると、この国の重鎮である男性がうやうやしく挨拶を述べた。その後、来賓として迎え入れらた私達は、国王が住む城に案内され、丁重にもてなされた。

 夜には豪華な晩餐会が開かれ、伝統的な踊りのショーは煌びやかな城内に、より一層の華を添えた。

 その頃にはもうすっかりマリアの機嫌も直っていたように思う。

 

 翌日から、私達は丁重にもてなされながら様々な場所に行き、たくさんの美しい風景を見た。

 どの場所も初めて目にするものばかりで物珍しく素晴らしかった。

 幼い頃から国を出る事が許されなかった私は、本でしか知る事がない世界にあこがれを抱いていた。 


 想像する事しか出来なかったものが、現実に目の前に現れた瞬間、ひどく感動してしまった。


 海岸沿いの港街は、特に活気があった。貿易が盛んに行われ、あちらこちらに様々なものが売られていた。煌びやかなで豪華な装飾品が好きなマリアは、私によくそれらをねだった。ロレインから何かをねだられた記憶は一切なかったので、彼女のその様子がとても可愛らしく見えたのだ。行く先々で私は彼女の望むままそれらを買い与えた。


 そんな旅行の日程も終盤になった。

 すっかり上機嫌の今なら、再びあの話をしてもそれほど機嫌を損なわないのではと思った私は、跡取りの件を再び話題に出した。

 しかし、彼女の意志は相変わらず固いままだった。どうしても子を儲けるのは嫌だと言う。そうして再び不機嫌になってしまうのだ。私は慌ててマリアを宥めて、必死に機嫌を取る。

 そんな状態の私がおろおろしていると、今まで不機嫌だったマリアの顔が突然ぱっと明るくなった。

 急な態度の変化に困惑していると彼女は突然、ある提案をしてきた。


「ねぇ、アル。その跡取りの件ね、私、色々考えたんだけど、とても良い考えを思いついたのよ」


「良い考え?」


「そう、すごく良い事。それというのはね、ロレインにアル以外の王族の子を産んでもらえばいいのよ!王家の血が入っていれば問題ないんでしょう?」


「え…?」


 自分以外の王族の人間とロレインの子?

 マリアが思ってもいない事を言い出したので私は内心とても驚いてしまった。

 

「本当は次期王であるアルの子がいいのだろうけど、それでは私が嫉妬しちゃうからいやなのよね。でも、王族の血が入っているのであれば跡取りにはなるのよね?お父上の兄弟だったら生まれてくる子はあなたとは従兄になるんだし。ほら、ちょうどお父上のお兄様で良い人がいるじゃない。結婚もされていない人」


「いや…。それは…。あの人はちょっと…」


 マリアが言っている人物は女遊びが激しく、だらしのない生活をしている。そんな男にロレインを差し出す事を想像するだけで不快感でいっぱいになっていく。


「ダメなの?どうして?年が離れているから?いいじゃない。子種だけが必要なんだから。それとも、お父上の弟君ならまだ、年が近くていいかしら。ご結婚はしているでしょうけど」


 そちらも問題だ。人柄は良いのだが仲睦まじい奥方との関係を壊したくはない。

 

「いや…そちらも問題だよ……」


 聖女の血かドリュバード家の血さえ入っていれば相手が王族の誰かでも、跡継ぎにできるはずだ。しかし問題は多い。


「もう!せっかく良い案が浮かんだのに!アルと話していても埒が明かないわ!旅から戻ったらお父上に相談してみるわね!」

 

 私が無言でいると、その態度に業を煮やした彼女は、ムスッとした表情をこちらに向けると、すぐに背を向けてベッドに入ってしまった。そのうち心地より寝息が聞こえてきた。今日もか…。私はため息を付く。結局、旅行初夜からマリアと肌を合わす事は一度もなかった。

 毎日移動が多かったせいか、風呂から戻ると、彼女は既に寝ていたり、あからさまに疲れているからと断られてしまうのだ。

 

 残された私は一人考えていた。マリアの提案は私の心をざわつかせた。あの美貌で完璧なスタイルのロレインが誰かの手によって汚されるのはひどく嫌なのだ。


 もちろんマリアを愛している。とても愛しいと思う。一方でマリアの提案を聞いた瞬間からロレインの存在が自分の感情をザワザワさせるのだ。それがどんな感情なのか明確にはよく分からなかった。ただロレインが他の男に抱かれているところを想像すると胸をかきむしりたくなるほどの嫌悪を覚えた。 

 やはり彼女は誰にも渡したくない。

 側妃であるロレインは私のものだ。そんな勝手な独占欲が生まれる。

 あれだけの美貌だ。騎士や従者のような周りの男どもが彼女で想像して邪な事を考えているかもしれない。そう思うと激しい嫉妬心が芽生えてくる。


 マリアには秘密にして、ロレインと子供をもうけようか…。そんな考えが頭をよぎる。


 マリアを裏切るわけではない。私は将来の王として子供が必要な存在なのだ。大義名分を掲げて言い訳を並べているわけではない。墓場までもっていく秘密にする。


 この旅から戻ったら、すぐにロレインの部屋を訪れよう。子を儲ける事も側妃の役目なのだから問題はないはずだ。そう私は決意した。





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