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4 男の番で何が悪い、異論は認めない

 最終的に待ち時間は四時間以上だったが、途中、炊き出しをしていたので思ったよりも早く感じた。

 さて、いよいよ検問だ。

 グレイ情報によるとどの国でも似たようなもので、魔道具による犯罪歴の確認、通行料の支払い、出身国と入国目的の確認で終わる。身分証は小さな村の出だと持っていないことも多いため、深く突っ込まれることはない。

 問題は犯罪歴。

 犯罪歴を調べる魔道具は魂が濁っていると反応するとのこと。原理はわからないが、殺人犯や強盗はどれほど偽装しても見破られる。

 面接の前に魔道具に触れたが何の反応もなくセーフ。犯罪歴はないが、ちょっとドキドキしちゃったよ。

 次に入国のためのお金を払う。

 最期に面接だ。

 私の場合はいるはずの未来の旦那様に会いに来たわけだが、正直に言うと頭の弱い子だと思われそうなので『伯祖父様に会いに来た』で通そうと思う。

 祖父の兄と言っても貴族の結婚は早く、私だって父が二十二歳の時に生まれている。残された記録から推察すると伯祖父様はまだ五十代。

 生きている可能性が高いし、本人も『捜しに来るようならば』と小さな魔石を残していた。

 魔石の中に伯祖父様しか知りえない情報が刻まれているとのことで、その情報は私も見ることができなかった。

 部屋に通されると…、いきなりとんでもない圧がかかった。魔力による威圧だ。何、一般市民ってこんなにとんでもない圧力をかけられながら面接受けるの?

 圧迫面接じゃん、パワハラじゃん。

 反発すると心証が悪くなるかもしれないので、緩和と気配遮断…いつもは私の気配を隠すが、今回は相手の気配を薄める。

 机一つと椅子二つしかない簡素な部屋は五、六人も入ればいっぱいだ。

 面接官は一人。やたらと威圧感のある強面イケメンだ。銀色の髪に金色に見える瞳で、見た目では人と変わりがないが間違いなく竜人。門番の竜人でこのレベルだとしたら、竜王国ってとんでもないな。絶対に戦いたくない。

 面接官からの質問を待ったが、何も言わずに睨みつけているだけ。五分ほど睨まれ続け…、仕方なくこちらから質問をした。

「あの…、これは入国審査ではないのですか?」

「………貴様、その服をどこで手に入れた?」

 服?旅で多少、ヨレッとはしているがお金持ちの洋服っぽくはある。

「家にあるものを着てきました。変ですか?」

「貴様…ッ、やはりフォーサイス公爵家の者か!?」

 叫んだ瞬間、威圧がさらにふくれあがって窓が割れた。同時に剣で攻撃された。

 咄嗟のことで多重防御と攻撃反射の盾を作った自分を褒めてやりたい…が、喜んでいる暇はない。

 切りかかってきた反動で男が窓の外まで吹っ飛んだ。

 うおっ、当たっていたら即死じゃん。

 異世界、怖い、怖すぎる。

 涙目で逃げるために廊下に出ると。

「ライ、何やった!?」

 グレイが私の面接が終わるのを待っていてくれたようだ。聞かれて、何もしていないと答える。

「いきなり、怖いおじさんに殺されそうに…」

 私を抱えて走り出した。

「やべぇ、なんでオレ、おまえ、抱えて走ってんのーっ!?」

「ご、ごめん、捨てていいからっ」

「できるかーっ!!」

 来た道を戻り広い場所…、驚いた顔の門番達の横をすり抜けて門の外に出た。まだ鉄等級門に人が並んでいて、何事かと見ている。

「人がいない方向に逃げて!」

「おうっ!」

 グレイは私が走るより何倍も速かったが、竜人は空を飛べる。竜人の身体能力は獣人の中でも飛びぬけている上に魔力も多い。

 グレイに身体強化、防御魔法の重ねがけ、それから…。

 まるで隕石が落ちてきたような衝撃により吹っ飛んだ。グレイはそれでも私を離さずかばってくれた。

 防御の盾を十枚は重ねがけしていた。身体強化も出来得る最強レベルで、衝撃吸収に緩和…といくつもの魔法を重ねていたのに駄目だった。

 落下の衝撃で内臓をやられたのかグレイが血を吐く。たった一回の攻撃で服はボロボロに裂けてあちこち怪我をしている。

 ひどい、こんな…。理由も聞かずにこんなことをするなんて。

 応急処置となる治癒魔法をかけていると。

「なんだ、まだ生きているのか…」

 誰だよ、こいつ。フォーサイス公爵家に恨みがあるのか?

 考えながらグレイを守るように盾を何枚も張りなおす。私もフォーサイス公爵家のとばっちりで攻撃されたようだが、グレイはもっと関係がない。

 親切な行商人。絶対に敵わないとわかっていたはずなのに、助けようとしてくれた。

「その男は仲間か。自身の手当てもせずに仲間を治癒するとは余裕だな。おまえも骨が何本かやられているのではないか?」

「自分のケガも治すよ、もちろん。でなきゃ…、あんたと戦えない」

 小さな切り傷、擦り傷よりも体内の損傷を優先させて治癒する。

「ほぅ…、多重結界と治癒魔法を同時に使えるのか。魔法の才能はあるようだな。最初の反射の盾もなかなかのものだった」

 私もそう思っていた、今日までは。

 しかし圧倒的武力の前ではコピー用紙程度の強度しかない。コピー紙を百枚重ねたところで竜人の前では何の意味もない。質が違い過ぎる。防弾ガラス百枚でやっと安全かなと思える程度。

 ほとんど食事を与えられず別邸に捨て置かれた時でもこれほどの恐怖はなかった。恐怖のレベルが違う。次の一撃で死ぬと本能で理解している。

 一人ならば全力で逃げただろう。逃げ切れるとは思えないが、それでも逃げた。

 だが今はグレイがいる。問答無用で攻撃してくる相手の前でグレイを放置したらどんな扱いをされるかわからない。

 突破口を探りながらも盾を重ねてかけ続ける。

 最悪、自分が死んでも…、死にたくはないが、ラノベの結末では死んでいた。あの死に方に比べればましかも。みじめで悔しくてわけもわからず発狂して自死する…、いやだ、まだ死にたくない。

「そろそろいいか?」

 良くないけど…、頷いた。

 攻撃に合わせて反射の盾をぶつけるしかない。防御と補助魔法を優先して練習してきたため攻撃魔法はまだ覚えていないのだ。

「では、死…」

 ドーンッと地面が割れた。

 ような音がした。轟音と突風、土煙。今度は何、攻撃されたわけではないが、ビックリした、もう泣きそうだよ。

 土煙がおさまると、厚みのある渋い声が。

「番の匂いがすると思ったら…、どういったワケだ、ヴォルト」

 ヴォルトと呼ばれた竜人よりさらに威圧が凄い、ってか、腰が抜けた。這うようにしてグレイの側に行き、巻き込まれないように防御魔法を維持する。

「ボールドウィン公爵、何故、貴方がここに…?」

「番の匂いがした」

 ってことは?

 私も擦り傷だらけで出血している。それでかっ。すごいな、竜人、これって怪我の功名?違う気もするけど、なんでもいい。

 とにかく、今、生きている!

 助かったーっ!もう、顔文字で表現するのなら(≧▽≦)こんな感じ。

 しかも、番様、この場で最強っぽい。さすが、私の旦那様、ヒューヒュー、かっこいー。

 浮かれた気分で叫んだ。

「旦那様、私、未来の旦那様に会うためにここまで来ました!」

 さぁ、受け止めて~♪とばかりに笑顔で声をかけた。

 振り返ったボールドウィン公爵は小説の挿絵通り渋いイケオジだった。青銀色の髪はざっくりと整えられていて、目は黄金、竜人の高位血統者に多い色だ。背も高い。

 現在、百五十センチ前後の私は十歳女児にしては大きめだが、犬獣人のグレイは推定百八十センチ前後。ヴォルトと旦那様はそれより大きく二メートルはありそうだ。

 年の差に体格差、異種族、番と設定てんこ盛りだなっ。いいよ、いいよ、どんと来い、私、地雷が少ないオタクだから。

 オジサマはじろじろと私を見て。

「あ~………、いや、番は勘違いだった、ようだ」

 と、苦い顔で言った。

 これには私も驚いたが、ヴォルトの方がもっと驚いていた。

「竜人が番の匂いを違えることはありません。その少年、間違いなく公爵の番なのでは?」

「ち、違う、オレの番は…、コイツじゃない」

「では、私がその者を殺しても良いのですね?」

「………ッ、それは、いや、でも…、オレの番は男じゃない!!」

 男…、いや、女だけど…、男?

 グレイにはわかったが、オジサマにはわからないの?どっからどう見ても、アナタの愛する可愛い番だよね?

「一度、認知した番を理不尽に失えば残された方は耐えられないほどの喪失感や哀しみを味わう。それでも、彼は番ではないと言うのですか?」

 オジサマが迷う素振りも見せずに頷いた。

 何、それ、私の命がかかっているのに、即答?死んでもいいってこと?ここまで…、やっとここまで辿り着いたのに。

 旅は一カ月程度のものだが、旅をするための準備には四年もかけている。一人で、寂しくて、ひもじくて、辛くて…、でも守ってくれる旦那様がいると信じてしたのに。

 いつか会えたら、きっと守ってくれると、それを支えにやって来たのに。


 人は…、期待した後、突き放されると何倍ものダメージを受ける。


 ヴォルトに殺されそうになった時はまだ戦う気力が残っていた。説明すれば、事情がわかれば…。そう思っていた。

 で、オジサマが来て、助かったと歓喜した。

 死ななくて済む、オジサマが間に入ってくれたらきっと誤解もとける。

 そう…、信じていたのに。

 ロクに確認もせずに、男は嫌だって…。

 はぁっ!?おまえは、今、全腐女子を敵に回した、この世界に腐女子がいるかは知らないが。

「男の何が駄目なんだよっ、くそ野郎、男同士だっていいじゃないか、運命の番だろっ。差別すんな、同性婚だってそれぞれ理由があるんだよっ、性別で駄目ってそんなの、真実の愛じゃないっ、こっちだってあんたみたいなオッサン、お断りだ!」

 勢いで叫んでいた。

 竜王国の公爵相手につい罵倒してしまった。

 せっかく凪いだ空気がまたピリピリと振動し始める。

 今度こそ、死んだ…かも。

 でも、もう…、私を助けてくれる人はいない。唯一、運命の番ならばと期待していた人に断られたのだ。本当の性別を言えば受け入れてくれるかもしれないが、それじゃ、なんか駄目な気がする。

 性別程度で諦められるということは、私じゃなくてもいいってことだ。

 それなら私も、オジサマでなくちゃいけない理由がない。

 女だと告白し命乞いすれば良いとわかっているが、したくない。命乞いをするとしたら、私の命ではない。巻き込まれた優しい獣人の命だ。

「ヴォルト様、グレイは関係がありません。一人旅をしていた私を気遣い、守ろうとしてくれただけで、今日、初めて会った相手です。どうか慈悲をお願いいたします」

「そうか…。巻き込んですまない。きちんと連れ帰り手当をしてやろう」

 そう言うと、オジサマと私の間に立った。

 私を守るように。

「何のつもりだ?」

「この少年は辺境伯家で客として迎えいれます」

「はぁ?殺そうとしてなかったか?」

「事情が変わりました。彼は私の番について探りに来たのかと思っていましたが…」

「ヴォルトの番って…、エイブラムズ王国から来た男か」

「そうです。あなたが全否定してくれた私の愛しい『男の番』です。まさか…、この子を連れて行くとか、言いませんよね。ご安心ください。彼が公爵に近づかないよう、我が家で保護しますから」

 オジサマは苦虫を嚙みつぶしたような顔をして『勝手にしろ』と飛び去った。

 竜人…、羽根は出し入れ自在か、便利だな。

 そしてさようなら、オジサマ、私、それならもっと若いイケメンを頑張って探すよ。門番でも体格の良いイケメンが多かったし、他の獣人も悪くない、もふもふがあるのならそっちのほうが良いかも。

 幼な妻が普通の妻になるだけで…、いや、精神年齢でいけばおねショタもいけるのではなかろうか、夢が広がる、死にそうになった直後なだけに、くだらないことばかり考えてしまう。

「さて、少年。おまえ、フォーサイス公爵家とはどういった関係だ?」

「エイブラムズ王国の書類上ではフォーサイス公爵の娘です」

「そうか…」

 頷きかけて、止まった。

「娘?」

 髪から服装を確認された。胸も。ないよ、まだ十歳だし、痩せ型だし。

「一人旅なので少年の格好をしていますが、性別は女です」

 今日、一番のビックリ顔をいただきましたよ、ほほほ。ヴォルト様、整ったいかついお顔が崩れておりますよ。

「あの時、男の番は認められないと言われたことに怒ってなかったか?」

「怒りましたよ、男だから駄目って、おかしいでしょ。運命の番が同性だとしても、魂の導きに従って結ばれて幸せになって周囲が胸やけを起こすほどイチャつけばいいんです。なんのための番ですか、運命の番は種族も性別もあらゆる障害を越える、尊い夢設定なのですよ」

 私は、それを、柱の陰から、見たい!

 割って入らないから、見学だけでいいから。ほんと、地雷なんてほとんどないから、どんとこーいっ。

「男が嫌だと、その程度の理由で諦められるのならば、それは運命でもなんでもありません」

「よくわからないが…、熱意はなんとなくわかった。人族に見えるが、君もボールドウィン公爵が番だと知っていたようだな?」

「それは…、フォーサイス公爵家で虐待されていたんです。毎日、ひもじくて、お腹が空いて…。そんな時、竜王国に番がいると夢に見ました。夢というにはあまりにもリアルだったのでここまで来ましたが…、番でないのなら私も彼には用がありません。今、私に必要な人はフォーサイス公爵家の虐待から守ってくれる大人です」

 ヴォルトを真っすぐ見る。

「三十二年前に伯祖父様がこの国に来ているはずです。私も伯祖父様が軟禁されていた別邸で暮らしていました。そして同じように逃げてきました。証明するためにこれを伯祖父様の秘密の部屋から持ってきました」

 魔石をヴォルトに渡すと。

「おまえを客人として歓迎しよう」

 言うなり、グレイと私を抱えて、飛んだ。


 安全バーのないジェットコースター。または壁のない飛行機。

 人間には負担しかない飛行はほんの二、三分だったがものすごく疲れた。さらに疲れた。

 今日は魔法をたくさん使って疲れている。

 地面に足をつけた瞬間、へたり込んだ。もう立てない、立つ力が残っていない。誰か、私に、燃料をっ。

「客人を連れてきた!皆、出て来てくれ、怪我人もいる」

 声にわらわらと使用人達が出てきた。おぉ、獣人、多いな。

「ヴォルト、お帰り。西門の辺りで騒ぎがあったと聞いたけど大丈夫だった?」

 二十代半ばに見える美しい青年が出てきた。使用人とは異なる高そうな服は足首まであり神官とかが着ていそう。ただ神官の衣装とは異なり、真っ白に金銀の糸で豪華な刺繍が施されている。

「あぁ、門番からロシェルの気配をまとった人間がいると聞いて確認してきた」

「私の気配?」

 自然な感じに二人、寄り添って立っていた。ヴォルトが伯祖父様の腰を抱いている。父に顔立ちが似ている気がする。

 本物の、BでLなアレですよ、ご馳走様です、ちょっと元気出た、精神面だけでも復活。はぁ~、生きていて良かった。

「フォーサイス公爵家の人間が来た。敵か味方かわからなかったが、これを持っていた」

 ヴォルトが魔石を渡すところまでは見た。

 もっと二人の絡みを見ていたかったが、ここで私は意識を失った。

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