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空腹令嬢、竜王国に嫁ぎます!  作者: 幸智ボウロ(bouro)


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11 前世の記憶

 その日の夜、お父様達とジェイデン、三人だけに前世の記憶というか、フォーサイス公爵家の別邸に置き去りにされた後、リアルな夢を見たことを告げた。

 空腹のあまり生存本能が限界突破して、食に関する知識を中心に記憶が蘇った。

「記憶の中での私は裕福ではありませんでしたが、毎日、美味しいものを食べていました。食べたいと思えば、何でも食べられる世界でした。だから、せめてお腹いっぱいご飯を食べたいと思いまして」

 そしてお米を発見し、食生活は一気に向上した。

「確か…、別邸の穀物は私が暮らしている時に買われたものです。使用人の一人から安い穀物を手に入れたと報告を受け、確認した覚えがあります」

 だが穀物は家畜の餌で、使えないヤツだと使用人はクビになった。ちなみにお母様が別邸で暮らし始めた時は使用人が何人かいたが、一人、二人…と理由をつけて減らされ、最終的に通いの家政婦が週に一度、来るだけになった。

 その時の記憶で私も同じ扱いをされたと思われる。

 アホかーっ、子供の年齢を考慮しろよ、ゴミクズ共が。

「膨大な記憶…おそらく三十年程の女性の記憶で、きれいに女性の一生分の記憶が残っているわけではありません。ただ、きっかけがあるとパッと浮かぶことがあります」

 運動をしたほうが良いと言われ、ただ歩く、走るだけはつまらないなと考えていたらサッカーや野球が浮かび、その後、この世界でもできそうなスポーツは…と、小学生の頃に好きだったバドミントンの道具を作ってもらった。

 全身運動のほうが良いかと思い、階段を上り下り…でジャングルジムを思い出した。ひとつ思い出すと、公園の遊具!と、滑り台やブランコもサクッと出てきた。

 ちなみに木の板を使って緩い丘を滑る、大きな木にブランコ…という遊びはこの世界にもある。

「あと、これは私も真偽不明でしたが…、イザベラとしての一生も夢に見ました」

 その夢にジェイデンが番として現れたこと、イザベラは番になることを嫌がり発狂死、イザベラの境遇や扱いに怒り狂ったジェイデンもまたエイブラムズ王国と戦い死んだ。

「オレ…との結婚を嫌がって、発狂死…」

 ジェイデンが『ガーンッ』って顔をしている、気にすんな、あくまでも物語での話だ。

「イザベラの一生は物語の中のもので、ただ、国名や登場人物の名前が一致していたので、生き残りをかけてエイブラムズ王国を脱出しました」

「それは…、そうなる、か?なってもおかしくはないか。別邸で食事も与えられず軟禁されていたことは事実だ」

「フォーサイス公爵家ならば娘を平気で売りますね。私が国外に出ることを決意したのは暗殺の予兆があったからです」

 別邸には罠をいくつか仕掛けておいた。それが何度か反応するようになり、別邸への侵入経路や行動範囲を調べている?と、気づいた後は幻覚の魔法でお母様の虚像を作り、ダミーに隠れて脱出の準備を整えた。

「フォーサイス公爵家は目先の事しか考えていないので、そうなりますよね。私も国に売り飛ばされるのは嫌で、この国に来ました。お母様と会えれば保護してもらえると思いましたし、なんといってもジェイデン様がいますから」

 三人ともが『え、死ぬほど結婚を嫌がっていた相手なのに?』 という顔をしている。

「物語でのイザベルはうら若き乙女で王子様との結婚を夢見ていました。が、私には推定三十年の記憶があります。精神がかなり記憶に引っ張られているせいか、同年代は子供、青年でも『若いなぁ』と思うことがあります」

 なので外見はあまり障害にならない。

「ジェイデン様がいなければ、嫁に行きたい筆頭イケメンは料理長です」

「え、私ではないのか…?」

 お父様が地味にショックを受けているがちょっと若すぎるし、キラキラしたイケメンは一緒にいると疲れる。気圧されるというか?

 それが王子様とか、こっちが気を使う相手は嫌だ、疲れる、だるい。

「ライは…、確かに私でも驚くような事を知っていますし、大人びています。もしかして私達の事もその、物語?で知っていたのですか?」

「お父様とお母様は物語には出てこなかったと思いますが、別方向からの知識で…」

 さすがに腐女子の説明はできないが、恋愛や結婚に関しても知識だけはある。

「ジェイデン様の事は好きですが、ただ肉体年齢に引きずられているのかまだ愛とか恋という感じではないです。が、今後、私が安全かつ楽しく生活をするためには最高のパートナーだと考えています」

 ジェイデン様を利用する気満々。と言っているのだが、本人は嬉しそうに笑った。

「問題ない、つまり、ライはもうオレの事を受け入れる前提なのだろう?」

「はい。竜人の番執着は尋常ではないと聞いていますし、世界最強の竜人から逃げる方法は…、お父様でも厳しいですよね?」

「残念ながら…、無理だろう。一度、認識された後はどこに居てもわかるし、竜人は飛べるから山奥でも海の真ん中でも…、さすがに海の中は難しいかもしれないが、王兄殿下ならば魔力で海を割ることも可能だ」

 山を割ったからな、海もできそう。

「一人でエイブラムズ王国の国家戦力相当ですからね。物語で負けた理由は、相手が魔道具での罠をたくさん仕掛けていたせいと、番を失くした哀しみで自暴自棄になっていたからだと思います」

「親として考えても、国家戦力に娘が追い回されるよりは、国家戦力が娘の護衛のほうが安心ですね。ライは私に似たところがありますし…、もともと恋愛に関する意欲が薄い気がします」

 それな。

 イザベラのままなら環境のせいで『救ってくれる王子様(お花畑)』となっていたが、いくらカッコイイ王子様でも自分を捨てる前提の男だ。

 この先、三十年、四十年の生活がかかっている。特殊性癖持ちでもない限り、当然、権力、戦力、財力持ちを選ぶに決まっている。ちょっと重い溺愛程度ならセーフ、セーフ。

「普通に出会って恋愛もいいなと思いますが、その場合、相手の命があやうい上に、私、ジェイデン様に監禁されますよね、絶対。そんな危険な橋は渡りたくないです」

「そ、そんな真似はしない。我が番が望むのなら…、身を引………、こ、この身を………、くっ…」

「できない事は言わない方がいい。私はロシェルが他の誰かと恋仲になったら相手を殺して、ロシェルを城の地下に監禁して誰にも会わせない。だが新しい本は毎日、届けよう。愛しい番だからな」

「愛しい番と言えば何でも許されると思っていませんか、人族の感覚ではどん引きですからね、どん引きした上で仕方なく妥協して付き合ってあげているんですからね、そこ、しっかりと理解した上でほどほどな溺愛にしてください。そっちの感覚でほどほどでも、こっちの感覚だと激あまですから」

 私の言葉にお母様も何度も頷いている。

「ともかく、前世なのか夢なのか私にも真偽は測りかねますが、普通に生活しているだけでは身につかない知識をすでにもっています。今後、私の知識を狙う輩が現れるかもしれませんが、そこはジエイデン様、容赦なくやっちゃってください」

「そうだな。王兄殿下、ライのことをよろしくお願いします。死体のひとつやふたつ、なんとでもしますので」

 二人、顔を見合わせて笑わないで、怖いわっ、死人は出ない方向で頼みたい。


 翌日、先代の王ゼナード様、王妃レリアン様、元側室で現在は王妃の護衛騎士筆頭フューイ様が到着した。

 たった三人で、空から。

 ほんと、この国の王族、非常識じゃないか?

 庭にいきなり来たものだから、庭師が卒倒しそうになっている。

 たまたまテラスから庭を見ていた私はジェイデンに抱っこされて、取り急ぎ庭に降りた。

「おお、息子の番殿だな、私がジェイデンの母、フューイだ。ババアでもフューイでも好きに呼んでくれ」

 城の庭に降り立った三人の内、男前な騎士がまっすぐ私の前まで来て、ひょいとジェイデンから奪った。

「可愛らしい子だ」

「やめてくださいっ」

 ジェイデンが即座に奪還する。

「会話する前に行動する癖、直してないんですか?」

「まどろっこしいじゃないか」

 ははは…と、笑い反省する気も直す気もないのがうかがえる。

「はじめまして、フューイ様。婚約者となりましたモンサルス辺境伯の子ライです。ご存知かと思いますが…、ご内密にお願いします」

 後半は小さな声で言うと、わかっていると頷いた。

「それにしても…、なんで三人だけで来ているんですか、護衛は置いてきたのですか?」

「ゼナードに護衛などいらんし、レリアンには私一人いれば十分さ」

 ジェイデン様の母親で、細身のジェイデン様というか、某劇団の男役をさらに渋くしたような?強いと言われれば、でしょうねと言いたくなく風格だ。

「ゼナード様!」

 お父様とお母様が庭に飛び出してきた。

「なんで庭から来るんですか、護衛は?従者は?まさかと思いますが、本当に三人だけですか、こっちの迷惑も考えてください!」

 お父様、わりとマジギレである、気持ちはわかる。

「ははは、気にするな」

「こっちが気にするんですよ、大体、あなたは…」

 と、やり合う横で、レリアン様とお母様が『ご無沙汰しております』『ごめんなさいね、うちの人が無茶して』と緩やかに挨拶をしている。

 お母様が私を呼んだ。

「ヴォルト達は放っておけばいいから、レリアン様とお茶にしよう」

「そうですね」

 レリアン様とフューイ様を和風サンルームへとご案内した。


 和風サンルーム、城以外の人に初披露である。

 先におじい様とおばあ様がくつろいでいて『こっち、こっち』と手招きされた。はい、ここで靴を脱いで、足は一応浄化魔法かけておきましょうね。

 ジェイデン、お母様、私は裸足になってペタペタと畳に似た敷物の上を歩く。フューイ様はすぐに理解して、自分も同じように裸足になった。それからレリアン様のお手伝い。

「変わった部屋だな。初めて見た。聞いたこともない」

 でしょうとも。サンルームと言ってもガラス張りではなく、一枚、障子を挟んでいる。障子を開けば庭も見えるが、室内にも中庭が作ってある。床は畳で、座る場所は座椅子。クッションというごろ寝座布団完備である。

 床に楽な姿勢で座ると、メイド達がお茶とお菓子を運んできた。

 烏龍茶に近いお茶で紅茶とはまた違った風味がある。

 お菓子は四角い箱を九つに区切って、一口サイズのものが綺麗に盛り付けられている。一口おにぎりや焼き魚、煮物もある。お茶というか軽食だね。お花見の重箱弁当みたいな感じ。

「まぁ、綺麗ね。美味しそうだわ」

「変わった食べ物があるな。この白い粒々はなんだ?」

「それは聞かずに食べたほうが良いと思いますよ。私も聞いて驚きましたが…、食べた後は美味しければ良いかと考えなおしました」

 お母様の言葉にフューイ様がおにぎりをひょいとつまんで食べた。

「んん、塩味…中はそぼろ肉と卵か。美味いな!」

 もうひとつ、ひょいっと。

「ん、こっちは魚か。エンペラーサーモンにも合う」

 次々におにぎりを口に放り込み、一人で五種制覇してしまった。残り三種類の具は塩だれの鶏肉、角煮、サーモンフレークを米全体に混ぜたものである。

「もう一周、食べてもいいか?」

「母上…、食べ過ぎです」

 とう言うジェイデン様もすでにおにぎりを三個食べている。小さいから一口だ。私だと三口、お母様だと五口。

「たくさん用意してありますから大丈夫ですよ」

 お母様がメイドに頼み、すぐに追加が運ばれてきた。

「そんなに美味しいの?手で食べていいのね」

 レリアン様も五口、六口と上品に食べて。

「この白い粒々、ほんのり甘い気もするけど何にでもあうのね。味の濃いものも良いけど、薄いものでも良さそうだわ」

 そんなに引っ張る話でもないので、この辺りでは家畜の餌とされていて、ただ籾を取り適切な調理をすれば美味しくなると説明をした。

「安く手に入りますし保存もしやすく、この通り濃い味に合うものなので多少劣化しても黒パンよりは美味しく食べられます。辺境伯領では飢饉や自然災害に備えて備蓄をすすめています」

 保管年数を決めて古くなったものはお祭りでの炊き出しや、難民村への支援物資の一部とする。

「家畜の餌って、アレか。確かにアレならどこにでもあるし安いな」

 きちんと産地を調べようと思ったら気候があうのか竜王国のどこにでもあった。わざわざ育てて収穫しているというより、とりあえず育てて、必要な時に家畜の餌にしている。

 雑な育て方でもなんとかなる強い種なのだろう。

 レリアン様が『ふ~ん』と首を傾げて。

「これ、竜人の発想ではないと断言できるけど、ロシェルちゃんの発案にしては今更感があるわねぇ。書物で調べたのならもっと早く行動に移していてもおかしくないもの。空から見たけど、おかしな物が庭に設置されていたし、国境都市の雰囲気もちょっと今までと違うのよねぇ」

 お母様が笑う。

「もうおわかりなのでしょう?」

「エイブラムズ王国から攫って来たの?難癖をつけられた時はジェイデンちゃんに動いてもらいなさいね」

「そうします」

「もしかして、このお菓子もこの子なの?」

「えぇ、特に食べ物に関してはいろいろと案を出しては料理長を喜ばせています。うちの料理長は新しい物や珍しい物が好きなので、合うようですよ」

 いいわねぇとため息をつく。王宮の料理人達はプライドが高く伝統を重んじる。家畜の餌を調理してはくれないだろう。

「楽しそうねぇ、時々、ここに来て食べたいわ」

「その時は先ぶれをお願いしますね。前日は困ります」

 話しているとゼナード様とお父様もやってきて、皆で辺境伯領の政策等を中心に話した。

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