第2話【壁】
急ぎ足でスクールバスに乗り込んだレイジー。
無事に3人は目的地である学校についたのだが2学期初めの学校は少し億劫。その理由をサウスは「青春が存在しないから」と言う。
青春が存在しない。
大半の人にとって1番の思い出になる事であろう高校生活に青春が存在しないのだ。
その理由は州長の方針にある。
ここはアメリカの51個目の州、ストレンジ州。
戦争で荒れ果てた世界から逃げるために作られたのかと思われるくらいここ最近にアメリカの裏で何十年か前に見つけられた新しい土地。人々はここをアナザーアメリカ(裏アメリカ)と呼ぶ。
正確な行き方やアクセス方法が無いのと入国審査が厳しく謎に包まれている為、戦争によって半信半疑になっている人々は気味悪がってあまり近づきたがらない。しかし、中は表アメリカと同様サラダボウルの様に様々な国の人が平和に暮らし、戦争の無い生活を送っている。
また、人種とLGBTには特に寛容的で差別が少ない事が特徴だ。
戦争から逃れることができる、差別のない世界。
_____それを実現させたこの場所の欠点。
『あの壁さえなければ……』
『超えてみたらええやん、先生飛んでくるけどな!』
サウスとレイジーの言う“壁”とは校舎と校舎の間にある自分たちより何十センチも高い壁だ。
この壁の東が女子高、西が男子校になっている。もちろん彼らが居るのは西の男子校だ。
『それにしても凄いよね、2つの校舎の間にこんなに高い壁を作っちゃうんだから。』
3人の中でも1番身長の低いガムが壁の近くで背伸びをして壁を見上げる。
まるでアニメや漫画でしか見た事ないようなこの非現実的な壁は高校生から男子学生と女子学生は別れて学習するという法律にある。
初めこそはこんなに高い壁は無かったのだが、男子生徒が女子高校に、女子生徒が男子高校に不法侵入するということが相次いで州が対策した結果がこれだ。
『そもそもおかしいよなぁ〜、なんで男女間の交際が学業の邪魔、になるんやろうなぁ?』
『本当にそれ。男子校内のカップルがイチャイチャするのに関しては先生は何も言わねぇのにな。』
『2人とも、仕方ないよ。アナザーアメリカは新しい土地なんだから法律だってまだ改正が必要なんだよ。だからちょっとおかしな所があってもしょうがないの。』
『んだよガム、彼女欲しくないわけ?あ、それとも彼氏でもできた訳?』
『そ、そういう意味で言ったんじゃないよ!』
ガムが頬をぷくりと膨らませてサウスを睨みつけた時、校内から始業のベルが鳴り響いた。
『待って、俺ら普通に遅刻とちゃう?』
窓から怒った顔を覗かせたしわくちゃの数学の先生の「走れ!」という声と共に3人は教室に走っていった。