フフフ、お・よ・つ・ぎ♪
エルフィナ大陸
まるで蝶々の形をしたその大陸には人族と魔族が住んでいた。大陸の西側、大陸の約3分の1が魔族の土地で、中央部と東側には人族がいた
西側の魔王国。中央部にはブルヴォロ公国、アーフェルミ王国、ナルサ共和国とあり、東側には魔王国とほぼ同じ大きさのヘイオメル帝国が存在していた
また魔王城は魔王国のほぼ中央に存在していて、そこから北側にシルイド地方、西側にムラネイト地方、南側にフェルミス地方、東側にグーレスム地方とわかれていた
シルイド地方の隣がブルヴォロ公国。グーレスム地方の隣がアーフェルミ王国、フェルミス地方の隣がナルサ共和国
グーレスム地方とブルヴォロ公国も一応は隣同士だったが間にはメイビル山脈があり行き来は出来ない。またフェルミス地方とアーフェルミ王国、ナルサ共和国の重なるところにはジーゼル火山があった
人族はいまだそれぞれ国をもち争っていたが中でもヘイオメル帝国が大陸の覇権を狙って各国に戦争を仕掛けていたがうまくいかない。なぜならヘイオメル帝国が戦争を仕掛ける時は影で魔王国が援助をしているからだ
と言っても援助しているのはアーフェルミ王国とナルサ共和国だけで、ブルヴォロ公国とは争っていた
今でこそ魔王国は1つの国だがエレノーラがまとめ上げるまでそれぞれ地方と呼ばれる場所はそれぞれ魔族の国だったのだ。そのせいかいまだにシルイド地方とブルヴォロ公国は争っているのだった
そんな半共生したような感じだったのだ
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魔王国。玉座
今、オレの目の前には4人の魔族が膝をついて頭を下げていた
「アラタナル魔王」
まず声を出したのがゲイル=オルガナン。シルイド地方を治めている獅子の姿をした獣人。全身毛で覆われていたがその体は恐ろしいほど鍛え上げられ、さらにはオレの倍以上の大きさだったのだ
「さてさて、これからどうなることやら…」
次に声を出したのがベイ=ジルフ。ムラネイト地方を治めていてローブを身にまとった老人でオレと同じか少し小さいぐらい。だが内に秘めた魔力量は凄まじく肌でビリビリと感じるぐらいだった
「………相応か」
ギろっとこちらを見たのがムメイ。フェルミス地方を治めていて頭から角を生やした鬼人。鎧のような物を身にまとい腰には刀もちゃんとあった
「…………」
他の3人とは違い先ほどから頭を下げたままの女性。グーレスム地方を治めているのがリーナ=ブリーゼル。その姿は妖艶の一言としか言えない
地方を治めている4人。明らかにオレより強いだろう。正直以前からの知り合いだがリーナ以外は姉上に負けた、言わば敗残王。みな思うことがあるだろう
「まー取り敢えずは一応の顔合わせという事で今日は失礼します。魔王陛下」
「ソウ…ダナ」
「……また参る」
スッと立ち上がる3人。するとそのまま玉座の間をあとにするのだった。あまりに呆気ないものだがオレは出ていく3人を止めることが出来なかった
なぜなら3人からはおびただしい感じで殺気が出ていて、それがすべてオレに向けられていたのだった
マジで怖かった…呼び止めたらそのまま殺されていたかもしれない
3人が部屋から完全にいなくなったところでようやく立ち上がるリーナ
「ジル…様」
だがその視線は熱くオレを見つめゆっくりと近づいてきた
「リ、リーナ?」
「ジル様。これでようやく断る理由がありませんね♪」
「な、なんのことだ…」
「フフフ、今までは自分では相応しくないとかおっしゃってましたが、今は魔王様」
「いや…だから…」
「それにむしろ必要なんじゃありませんか?」
「だ、だからなにが……」
「フフフ、お・よ・つ・ぎ♪」
「ひっ!!!」
「私が是非協力させてもらいますよ♪」
「いや、だから……」
やべっ…どうしよ……
以前からリーナからのアプローチはあった。しかしオレはある理由から断っていた。その理由は決して口外出来るものではなく、また知られてはいけないものだった
今までなら確かに相応しくないと断れた。リーナは地方を治める言わば女王。それに対してオレは魔王の愚弟。誰がどうみても分不相応。しかし今は成り行きとは言え魔王
むしろリーナほど地位が高くなければいけないし、リーナの言う通り世継ぎがいるのは当たり前。しかしオレにはどうしてもそうなってはいけない理由がありどうしたものかと悩んでしまった
「リーナ様。そんなに焦らなくても良いのではないでしょうか?」
ナイス!? セード!?
声をかけてきたのは側に控えていたセードだった。横目で下らないものでも見ているような感じだったがオレにとっては渡りに船
「セード。あんたは黙ってなさい!?」
「ひっ!?」
リーナ!? なんだその殺気は!!!
リーナが出した殺気。それは先程のゲイル達がオレに向けたものより遥かに凌ぐもので、それこそ視線だけで相手を殺せそうな感じさえした
「陛下はまだ魔王に成り立てで心に余裕がありません。どうせならあなたもしっかり陛下に可愛がられた方が良いのでないですか?」
あっ、することは確定なんだ……
いやいや!? それじゃ不味いんだって!!!
あぁぁぁぁ、リーナ。なにその満面の笑みは!?
リーナは笑顔になるとそっとオレのほほに触れてきて
「フフフ…セード、あなた、たまにはいいこと言うじゃない。そうね、折角ならジル様にたっぷり愛されたいわね」
そしてオレから離れるリーナ。妖艶に魅力的な後ろ姿。クルッと振り替えると
「では、ジル様。今日はこの辺で失礼します。ですけどいつでもお呼び下さいね♪ 出来れば寝室に♪」
イタズラっぽく投げキッスをするリーナ。そして再びクルッと回るとそのまま玉座の間をあとにしたのだった
「つ、疲れた…」
「お疲れさまでした」
「つーかセード!? お前!?」
「陛下のお気持ちは重々承知です。が、それを踏まえた上です」
「しかし…」
「リーナ様はおそらく気にしません」
「でも一部には……」
「きっとエレノーラ様もそれを承知です。それゆえの陛下に魔王の座をお譲りしたのです」
「そう!? それ!? やはりオレには魔王は相応しくない!!!」
「ではどうします?」
「やはり姉上には戻ってきてもらう。そしてしっかり魔王をやってもらう!!」
「無駄でしょう。それにエレノーラ様は戻りません」
「お前……何か知ってるのか?」
「………いまはまだ話すべきではないとしか言えません」
「そうか………だがいずれ話してもらうからな!!」
「えぇ、もちろん。むしろ話さないといけないとさえ私は思っておりますよ」
一体セードは何を知っている?
いずれ話すとはいったがそれはいつのことなんだ?
疑問はある。不安もある。しかしすでに魔王となってしまったオレはもうあとには引けず魔王としての仕事をする日々を迎えるのだった
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魔王城。廊下
「して、どう思う?」
「マダワカラヌ」
「……意識は、失って、なかった」
「そうじゃの~しかしあやつは……」
まだ判断に悩むと言ったところのベイ
「我ハ気ニシナイ。強者ニ従ウノミ」
「……愚弟とはいえ、1度主と認めた御方の一族。ただ仕えるのみ」
ベイとは違うところを気にするゲイル。ムメイは元から逆らうことなど微塵も思っていなかったという雰囲気だった
「なら、試してみるか……」
「ドウスルノダ?」
「いや、なに、人族どもが何か企んでいるようだがそれを利用してみようかと」
「ナラ我ニ試サセロ」
「……お前、では、殺して、しまう」
「構ワヌデハナイカ!? 弱者ニハ死ヲ!!」
「ふぉっふぉっふぉ。相変わらず血の気が多いことよ。じゃがあやつにここで簡単に死なれてはエレノーラ様に申し訳がたたないと思わんか?」
「ム!? ソレハ……」
「主に、悲しまれては、家臣としての、恥」
「ま、そう言うことじゃ」
「えれのーら様。アノ方コソ我等ノ主」
かくして動き出す者達
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アーフェルミ王国。とある一室
「失礼します」
「どうした、イレーナ?」
「お父様。折り入ってご相談したいことが…」
その日、アーフェルミ王国、第3王女イレーナ=レヴィ=アーフェルミは父親である国王の元へ訪れたのだった
「相談?」
「実は魔王国についてです」
「ふむ。聞こう」
「魔王国ですけど―――――」
イレーナは自分の考えを父親にはなし、ある提案をしたのだった。しかしその提案は国王であるゾルドを驚かせるものだったのだ
「イレーナ!? お前正気か!?」
「もちろん」
「しかし、いくらなんでも……しかも自ら進言してくるとは……」
「私にはこれぐらいしかできませんから」
「じゃが……」
「私なら大丈夫です!?」
「お前がそこまで言うなら……」
「これも愛すべき国民のため。王族としての義務ですわ」
半ばイレーナに押され気味だったがゾルドはイレーナの提案を受けることにした。イレーナは自らの提案が採用され満足して部屋を後にしたのだった
「王族としての義務か……」
部屋に残されたゾルドはボソッとつぶやいた
部屋の外、扉の前でうつむき動かないイレーナ。しかし口許は怪しく笑っていた
「フフフ……とうとう……フフフ………」
ここにもまた動き出した者がいたのだった