第八話 『もう、限界なんだよ』
昨夜のお客様は、すっかりと当家をお気に召したようでございます。
そのお姿を見た坊ちゃまは、うれしそうに問いかけてこられました。
「わーかわいい! どうしたのセバスチャン、このねこちゃんたち!」
「じつは昨晩おそくに母子連れで当家をたずねていらしたため、不肖私が旦那様に代わっておもてなしを差し上げたところ、当家をお気に召してしまわれたようなのでございます」
「わーいわーい! オレ、ねこちゃんだいすきー! あそんでいい?」
「まだ小さいお子さま方とレディでございますので、優しくお願いいたしますね、坊ちゃま」
「はーい!」
もちろん、旦那様と奥様、屋敷のものたちには許可を取ってございます。
こういうところに気を回すのも、執事のお役目。
もちろん、それは坊ちゃまにはまだナイショです。
坊ちゃまと、あたらしい当家の坊ちゃま、お嬢さまはたちまちにして意気投合。緑のお庭を駆け回りはじめました。
うら若き三毛の母君様は品よくお座りになり、そのお姿を見守っておいでです。
ふと顔を上げると、庭師のガードナーがこちらを見ています。
金色の無精ひげをまぶされた、かたちのよいあごでくい、と裏手を示すところをみると、内密の用件でしょう。
私は小さな母君様にその場を頼み、そっとガードナーの後を追いました。
たどり着いたのは植え込みの奥、木立にまぎれるように建つ、小さな物置小屋でした。
ガードナーと私はこう見えて実は同い年。幼き頃にはよくここで、二人でないしょ話をしたものです。
しかし成長し、仕事と責任が増すにつれ、徐々にそうしたことはなくなってゆき……
気付けば、もうどれほど前になるのでしょう。『執事』と『庭師』としてでなく、ただの友、ただの男どうしとして、ふたりで言葉を交わしたのは。
ガードナーは険しい顔で待っておりました。
私が物置に足を踏み入れれば、しっかりとドアを閉ざし、その前に立ちます。
「おやおやガードナー。どうされましたか? 怖い顔をなさって」
「お前……言われなけりゃわかんねえのか」
ガードナーの声は低く押し殺され、まるでひとには言えぬ話でもするかのようです。
「申し訳ございませんが」
「とりあえずひとつ。やめろ。そんな言葉遣い」
これは失敗です。いらついているようすのガードナーに落ち着いてもらおうと、丁寧に話しかけたつもりが……ここは逆らわずに置くことといたしましょう。
「悪かったよ、ドニ。
それで、お前の用け」
とたん、ガードナーはすごい勢いで私を壁に押し付けます。
「マジにわかんねえのか、てめえ。
……もう、限界なんだよ」
ガードナーはごつごつとした両手で、私の肩を掴みます。
そして、これまで見せたことのない表情で私を見つめ、思いもつかなかった胸のうちを、熱く、熱く、ぶちまけてきたのです。
すなわち――
「なんかおまえすっげーおもしれーおはなししてるみてーじゃねーか!
ずるいぞずるいぞ! 俺だって聞きたいぞ!
坊ちゃまと奥様と旦那様だけなんてずるい!!
他のみんなも超聞きたがってんだぞ!!
いーな、聞かせろよ! 今日から皆に! 絶対絶対、絶対だからな――!!」
おはようございます。
ああ、やっぱり朝がホームグラウンドだなあ……。
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次回は13時台の投稿予定(二部分)でございます。どうかお楽しみに!