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第六話 一にして全たるモノ共

 そして今。

 私の前には、ベッドがみっつ並んでおります。

 あれから奥様から話を聞かれた旦那様が、『俺だけ仲間はずれはずるい』とごね……ごほん、強くご主張なさいまして、このように相成ったというわけでございます。

 しかし、坊ちゃまの子供用の寝室に、さらにふたつもベッドを押し込むのはこの私をしましても、なかなかに大変なことでございました。

 明日からはすこし、考えないといけません。

 ですが今はまず、お話の続きです。

 せっかく、ひさびさの親子川の字で、おとぎばなしを聞いてくださるのです。

 旦那様がまだ、いまの坊ちゃまくらいだったころの気持ちにかえって、お話を差し上げると致しましょう。


「いまや王宮いちの実力者となった王子さま。

 その命令で、国中の騎士たちが動き出しました。

 というのも、若武者はあれきりふっつりと、姿を消してしまっていたからです。

 ぜったいに探し出し、君は悪くないと言ってあげるんだ。

 そうして一緒に北の国へ行き、竜王を説得するのだ、と王子さまはかたく決意していたのです。

 それでも、なぜでしょう。さがしてもさがしても、あの若武者は見つからなかったのです。


 そのころ、おじいさんたちのシェアハウス『メゾン・ド・ハーレム』では、ちょっとした異変が起きていました。

 それはいつものようにおじいさんとおじいさんが、うちの前を流れる川にロープを張って、流れてくるものを拾おうとしていたときのことです」


「なんだかどっかの芸人さんの自叙伝みたくなってきたなあ……」

 旦那様が呟かれます。

「っていうかそのおじいさんたちはさっきのおじいさんたちとどういう関係なの?」

 坊ちゃま、相変わらず痛いところをつく質問でございます。私は思わず言いよどみました。

「それは、……私の口からは……」

「まあ!」

 するとなぜか奥様の声のトーンが跳ね上がります。もしや私はまた何か、誤解を生むようなことをしてしまったのでしょうか。

「ご安心くださいませ奥様。このおはなしは『童話』、おとぎばなしにございます。

 どうかなにもご心配なさらず、お耳を傾けてくださいませ」

「あ、あら、そうなのね。ええ、そうなのよね。

 では、続きをお願いしますわ、セバスチャン」

「承りましてございます。

 ではまず坊ちゃまのご質問から参りましょう。

 このおじいさんたちの真の姿について――


 私めに許された範囲で、お教えいたします。

 我々がおじいさんとして認識しているこの方々は、本来ならばより古き、より上位の世界に君臨する存在。

 すなわち全にして一、一にして全たるお方であらせられるのです。

 そのためあまりそこのところは、お気にされずとも大丈夫なのでございますよ」


 われながらいいアドリブです。これならばおそらく、これ以上の突っ込みをいただくことはないでしょう。

 しかし私のその、浅はかな企みは、坊ちゃまの単刀直入な一言で瓦解するのです。


「うーん……でもわかりづらい!

 てきとーでいいからさ、名前付けてよ名前!」

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