第五話 薄幸王子の逆転劇!
「もちろん、竜王が要求してきたのは『お嫁さん』です。
王子さまは女の子のような優しいお顔をしてはおりましたが、それでもやはり男の子。お嫁さんになることはできません。
そのため、年若い母上さまが身代わりとして、お嫁に出されることとなりました。
王子さまは反対しましたが、何の後ろ盾もない王子さまにはどうすることもできません。
それどころか、国の安全を脅かす者として牢につながれてしまいます。
そうして、このまま反逆者として処刑されたくなければ、『せんたく』の――王宮騎士<ロイヤルナイト>選抜の試験官となり、国への忠誠心を示せ、と命じられてしまいます。
本来であればこれは、ベテランの王宮騎士補<エクスナイト>や王宮騎士<ロイヤルナイト>がやるべき、とても危険な仕事。事実上の、死刑宣告です。
さすがに出場は最終試合だけとはなりましたが、王子さまは死を覚悟しました」
お二人のまなざしが熱く続きを催促なさっています。
私は、ここではあえて急がず、ゆっくりと続きを語るのです。
「いっぽうの若武者は、王宮騎士<ロイヤルナイト>募集のおふれをみて、そうだと思い立ちます。
この試験で優勝し、王宮騎士<ロイヤルナイト>になれば、お城に行って王子たちを守れるようになる。
王子たちと一緒に北の国に行って、そこで竜王を倒せば、全部丸く収まると。
そこで、この世界に来たときに一緒に転移していた鉄の馬にのって、試合会場に飛び込み、鬼神の強さで決勝戦まで勝ちあがりました。
しかし、最終試合の相手が王子さま本人であったことを知り、驚きのあまり会場を飛び出してしまったのです」
「まあ……」
「おいおい、それって情けなくね……ないか?
いくら大事な相手だって、勝てなきゃ王宮騎士<ロイヤルナイト>なれないじゃん!」
坊ちゃま、さすがは鋭い突っ込みです。
ですが大丈夫。私はそれを予測して、あらかじめ答えを用意しておいたのです。
「実はですね。
若武者は転生してすぐ、大怪我を負って、高熱を出しているのです。
そのときに錯乱して暴れ、看病してくれた王子さまに怪我をさせてしまった。
そのことをとても、後悔していたのです。
この先何があったとしても、二度と王子さまを傷つけまい。そう心に誓っていたのに、殺しも辞さぬつもりでガンガン斬りつけていたのですから、衝撃も受けようというものでございます」
「あー……そりゃーショックだな、うん……」
坊ちゃまは呆然と空を見上げられます。
奥様はハンカチで目元をぬぐっておいでです。
「なんてっ、悲しい物語、なの……
ねえセバスチャン、ふたりはどうなってしまうの?! このまますれ違い、結ばれずに終わるなんて……そんなことはありませんわよね?!」
「ご安心くださいませ奥様。
ここからは王子さまも、がんばりを見せてくれるのでございますよ」
さあ、ここがクライマックスです。
私は思い切って声を張りました!
「呆然としている会場中の人々に向かって、王子さまは高々と叫びます。
『なんという忠義だ!
かの男はわたしを王子と知り、剣を棄てた。
王子たるものに刃向いし自らを恥じ、命がけで求めた王宮騎士<ロイヤルナイト>の栄誉すら投げ打たんとした。
これほど天晴れな忠義を示すものが、王宮騎士<ロイヤルナイト>としてふさわしからぬ訳があろうか!
彼は、わたしを救うためにここに来た。
険しき岩壁、流れるマグマ。うなる吹雪に群れなす魔獣。
プロクスの試練全てを乗り越え、栄えある戦士ら全てに打ち勝ち、我が元にはせ参じた忠義の男だ!
王よ、我が父よ、我が主よ。わたしは息子として、忠臣として、ここに進言いたします。
――かの男を王宮騎士<ロイヤルナイト>に!
彼こそ国一番の忠臣。
彼こそが我らの求める、唯一の男であります!!』
もちろん、側室たちやその味方は、若武者が何者かわかっていました。
王子さまの味方、すなわた自分たちの敵となるだろう男を、王宮騎士<ロイヤルナイト>にしないよう、王に詰め寄ろうとします。
しかし、王子さまは彼らにまっすぐと剣を向けます。
『異論があるなら、いま、ここで。剣で決着をつけましょう!』
王子さまは優しい青年でしたが、剣の腕は確かです。
その気になれば、けしてくじけぬ強さもあります。
それに、王子さまはもうひとりぼっちではありませんでした。
国内最強の剣闘士にして王宮騎士補<エクスナイト>筆頭である男――そう、二番目のおじいさんが、王子さまの隣に並んだのです。
それをはじめに、ひとり、またひとり。
七人の王宮騎士<ロイヤルナイト>、十二人の王宮騎士補<エクスナイト>。
さらにはこの場にいた挑戦者たちまでもが、王子さまのもとに集まりました。
こうして、若武者は見事、新たな王宮騎士<ロイヤルナイト>の栄冠を手にしたのです!」
「やーったー!!」
坊ちゃまがうれしそうに拍手をしてくださいます。
奥様も再び瞳をキラキラとさせ、ハンカチを握り締めます。
「それでっ、それでセバスチャン!
若武者くんはどこにいるの? 早く一緒にさせてあげて!」
「かしこまりました。ではそのおはなしは、今宵のおやすみ前に。
このままおやつの時間をフイにしてしまうと、坊ちゃまとコック長に怒られてしまいますゆえ」
――かくして今宵のおとぎばなしは、奥様ご同伴での披露と相成りましたのでございます。
入れ忘れてましたすみません!
次回投稿は今夜、九時ごろの予定です!