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第一話 おじいさんは、川にシバかりに

「むかしむかし、あるところに、おじいさんとおじいさんが住んでおりました」

「なんか、ふつーだな。どうせならハーレムでもだせばいいのに!」


 ……いまどきの魔界っ子ならではのむちゃぶりですが、これは予想の範囲内です。


「かしこまりました。

 ――むかしむかし、あるところに、おじいさんとおじいさんとおじいさんとおじいさんとおじいさんとおじいさんとおじいさんが住んでおりました」

「じつは老人ホームってオチじゃないよね?」

「いいえ、働くシルバー世代のシェアハウスにございます」

「なんかゴールデンタイムのドラマみたいな設定だなぁ。

 で、そのハーレムの主人はだれなの?」

「このシェアハウスの名前が『メゾン・ド・ハーレム』なのでございますよ」

「え~」


 坊ちゃまは不服のご様子ですが、これは仕方ありません。

 これ以上きわどい方向によせたお話にしてしまうと、うんえ……ゴホン、旦那様のお叱りを受けてしまいます。

 いいえ、それより奥様に知られたなら、私はどうなってしまうでしょうか。

 すくなくとも、坊ちゃまのお側にいることができなくなってしまうことは、明らかです。


「……仕方ないなぁ。

 そうだよな、もしもセバスチャンがくびになったりしたらオレ、つまんないからな!

 ほらはやく、つづきつづき!」

「かしこまりました、では……」


 坊ちゃまがご納得くださったようですので、私は続きを話し始めました。

 そう、ああいうものは、もっと大きくなられてから。

 坊ちゃまが、おとなとして必要な良識を身につけられてから、改めてお話しするといたしましょう。

 いまは坊ちゃまのお昼寝をさそう、子供向けのお話を考えることといたします。

 私は再び頭をひねり、ゆっくりと話し出しました――


「おじいさんは川へシバかりに、おじいさんは山へ『せんたく』に、おじいさんは……」

「ちょっとまった! 川へシバかりってなに? 山へ『せんたく』ってなに? っていうかみんなおじいさんでだれがだれだかわからないぞ!」

「はい、ではひとつひとつお話し致しましょう。

 最初のおじいさんは、冥界との境のひとつ、コキュートス川へ超レアモンスター『シバ』を狩りに行ったのでございます。

 このおじいさんは特A級のハンターでございまして、この日は朝から冒険者ギルドの依頼で、川辺を荒らす魔物の討伐に向かったのでございます」

「まじ?! ねえ、シバってつよいの? どのくらい強いっ?」

「そうですねえ。魔力量はバハムートよりはやや落ちますが、地形効果次第では互角に戦えるほどかと」

「そんなのをソロで狩りにいったのかそのおじいさん! すっげー!

 もちろん勝ったんだよね!!」

「左様でございます」

「でさ、そのシバはどうしたの?」

「もちろん、一刀のもとにほふり去りました」

「モ……………………

 モフって去ったのかっ?! てきのはずのモンスターを?!

 すげえっ!“漢”だなおじいさん!!」


 私はここではっと気付きました。

 その聡明さゆえたまにうっかりしてしまうのですが、坊ちゃまはまだ50歳。ヒト族の50歳児などとは訳が違うのです。

 いとけなき幼子にむけ、『屠る』などというむずかしい言葉を、当然のように使ってしまうとは――このセバスチャン、大いなる失態です。


 ですが、反省と同時に私は、心中ほっとしたのでございます。

 なぜって、そんな物騒な言葉を、坊ちゃまはまだ知らずにいらっしゃった。

 それはとても、よいことと思えたのです。


 坊ちゃまはとても、心の優しいお方です。

 できるならばこのまま、そんな言葉など忘れ去られるような世の中で、幸せに、健やかに生きていってほしい。そう願われてなりません。

 ですので私は、そのかわいらしい勘違いを、そのままにしておくことに決めました。


「……ええ。

 その強さと男気に感服したシバは、それを最後に悪いことをやめたのです。

 これからはおじいさんをかげから見守って、困ったときには力を貸そう。

 そう心に誓い、修行の旅に出たのです」

「おおお……

 いいじゃんセバスチャン! 今日のお話けっさくー!

 うん、きにいった! きにいったよセバスチャン!」

「お気に召していただけたならなによりです。

 では、続きは今夜、お話しましょうね。

 そろそろお休みください坊ちゃま。

 あまりのんびりしていると、クーリオ特製のおいしいおやつがなくなってしまいますよ?」

「むう……わかった。やくそくだよ?

 おやすみなさい、セバスチャン」

「おやすみなさいませ、坊ちゃま」

お読み頂きありがとうございます。

次回は今夜7:30ごろ投稿予定です。お楽しみに!

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