表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/21

第十四話 竜王のなみだ(下)

『あれは、暴走……

 皆逃げろ! 俺の力でなんとか鎮める!!

 いまは生きろ! 民衆を連れて王都から避難するんだ!!

 俺はあいつを生かして止める。絶対絶対、絶対だ!!』


 若武者が立ち上がります。

 彼はもう、元暗殺者ではありません。

 殺すためでなく生かすため。そのために命を懸ける、真の神の申し子でした。


『僕も残るよ!

 これは、僕の責任だ。あの子は僕が、止めてあげなきゃ……!!』


 王子さまも立ち上がりました。

 彼ももう、かつての彼ではありません。

 それが必要なときには、愛するものにも剣を向けることのできる、本当の優しさをもつ若者へと、彼もまた成長しておりました。


 ――そうして始まった戦いは、それは壮絶なものでした。

 北の国最高峰の騎士・円卓騎士<ナイツ・オブ・ラウンド>たちの全力をもって抑えても、すさまじい衝撃が北の王国をゆらします。


 おじっちさんは流れるように短剣グラディウスをふるい、シバは氷の息を吐いて、竜王の炎が町を焼かないよう、防ぎとめます。

 おじ次さん、おじ三さん、おじ代さんは、鋭い剣で、重い拳で、大きな戦斧で、城から飛んでくるがれきを粉砕していきます。

 しかし、竜王とふたりが激しく打ち合う衝撃までは、とても抑え切れません。

 おじコさんは叫びます。


『だめだ! このままじゃ、一時間もしないうち、この国全体が崩壊してしまう!

 なんとか、国外に出られないか!

 北の旧城跡まで出られれば、後は俺たちで何とかする!!』


 しかし、王子さまと若武者には、とてもそんな余裕はありません。

 なんとか、城や王都にとばっちりが行かないようにと、力をセーブしながらの戦いなのです。


 そのとき、ここまでずっと眠っていた、夢想仙人おじむーさんがぱちりと目を開けました。

 同時に、南国妖怪王おじむなーさんも、おじむーさんのなかで覚醒します。

 おじいさんたちのなかで最強の法力をもつおじむーさん、最大の妖力を持つおじむなーさん。

 いつもは仲の悪い二人でしたが、このときだけは協力し合います。

 竜王と王子さま、若武者を大きな結界で包み込み、強引に郊外へと飛ばしたのです。

 それはまさしく、命がけの行動でした。

 おじむーさん、おじむなーさんは力を使い果たし、がっくりとその場に崩れ落ちました。


『おじむーさん、おじむなーさん……!』

『あの二人なら大丈夫だ。今は俺たちにできることを!』

『……そうだね。

 ここならもう、力を抑えなくっていい。

 止めるよ、全力で!』

『おう!』


 崩壊してゆく旧城跡を舞台に繰り広げられるのは、もはや人知をこえた戦い。

 人々は、息をのんでその行方を見守りました。


 竜王が炎を吐けば、若武者の召還したしいたけがそれを受け止めます。

 繰り出されるツメと牙を巧みな剣技でしのぎつつ、王子さまが必死の説得を重ねます。

 それでも、愛する人のためにと血のにじむような努力を続けてきた竜王、その力と怒りは絶大です。

 二人は徐々に傷を負い、追い詰められていきます。


 このままじゃだめだ。若武者は竜王の前に躍り出ます。

 必殺の一撃・業炎の息を吐くために、大きく開かれた竜王の口――

 そのまんなかにむけ、癒しのしいたけを投げこみました!


 一瞬、竜王の動きが止まりました。

 しかし、一度準備されてしまった業炎の息は止まりません。

 しいたけの壁をつくりだし、なんとかしのごうとした若武者でしたが、大きすぎる炎の力のまえに、ついに倒れてしまいます。


 ……しかし、次の一撃はありませんでした。

 王子さまが剣を棄て、自ら竜王の前に進み出たのです。


『さいしょから、こうすればよかった。

 君に勘違いをさせてしまったのは僕。だから、その責任は僕が取らなきゃ。

 僕の全てをあなたに差し出します。だから、他のみんなは許してあげてください。

 そうしてあの日の、優しいあなたに戻ってください。

 どうか僕を食べてください。そうすれば、あなたと僕はひとつになれるでしょ?

 大事な友達だったあなたを止められるなら、それでいい。

 お嫁さんには、なってあげられなかったけど、生まれ変わってきたならきっと……』


 大事な友達のためとはいえ、怖くないわけはありません。

 王子さまの体は震えていました。

 それでも、いやだからこそ王子さまは、にっこり優しく笑うのです。

 怖さで涙があふれても、だからこそ笑って手を差し出すのです。


 竜王の瞳から、再び涙が溢れ出しました。

 すうっと、潮が引くように、怒りの色が失せていきます。

 禍々しい巨体は砂山が崩れるかのように消えてゆき、あとにはぼろぼろの子供が一人。

 正気に戻った竜王でした。


 ――ごめんなさい。


 小さな竜王は、深く頭を下げました。

 ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい……!!

 何度も何度も、泣きじゃくりながら詫びるのでした」



「う、……うわあああん!

 おうじ……りゅうおう……わあああ!」


 そのとき坊ちゃまが泣き出されました。

 なんと、旦那様と抱き合って号泣しております。

 使用人たちもその多くが目元を隠したり、天井を仰いだりしております。

 まさか、素人が必死で作っただけのおはなしに、ここまで泣いていただけるなんて。

 むしろ、私のほうが涙してしまいます。


「ぐすっ……ううっ……なんてことなの……

 ごめんなさい、わたくし、顔を洗ってまいりますわ……」


 奥様が、ハンカチで顔を隠して席を立たれます。

 これはいけない。旦那様の代わりとして、送って参ることにいたしましょう。

 今回は、これにて一旦解散。

 大団円をかたるのは、今夜と約束されました。

といいつつ、大団円は明日14:00となる予定です……すみませんっ!

次回投稿は17:00=夕方5時の予約投稿(二部分)です。

ついにセバスチャンが吟遊詩人にスカウトされるのか? それとも?

どうか、おたのしみに!


☆ たくさんの方の閲覧、ブクマと評価を頂き、ありがとうございます。

おかげさまで日間ランキング3位までいただきました!

感謝の気持ちで最後まで走り抜ける所存でございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ