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第十話 はかなき神器

 その夜、晩餐もそこそこに、皆様はお集まりくださいました。

 もはや余計な前ふりはいりません。わたくしはすぐに語り始めます。


「目を覚ました若者は、すっかり記憶を失っておりました。

 これでは自供の取りようがありません。

 それどころか、ほんとうに『スノウ・ホワイト』氏であるのかどうかも、わかりません。

 仕方がないので、とりあえずは『メゾン・ド・ハーレム』のメイドがわりとして雇い入れることに致しました。

 ロック鳥のもも肉に入って流れてきた白髪の若者は、仮に『鳥もも太郎』と名づけられ、おじいさんたちと暮らすことになりました」

「ネーミングビミョー……」

「しいっ!」


 ガードナーがなまぬるーい表情でつぶやけば、周りの方々が一斉に制止します。

 ええ、彼もわかっているのです。ただ彼は、幼馴染ゆえ遠慮がないだけなのでございます。

 彼も含めた皆様に不問と笑みだけでお伝えし――これも執事必携のスキルでございます――私は話を続けます。


「若者の料理の腕前はすばらしいもの。

 とくに、彼が作った『とりハム』は、絶品というよりほかにない傑作でした。

 ためしに近くの無人販売所に10000パックほどおいてみたところ、0.2513秒で完売しました」

「10000パックって物理的にどうおいたかってのはおいとくとして、それが完売一秒以下ってどうやって買ってったんだよ客?!」

「それは、こんなすごいおじいさんたちの暮らす場所ですから。」

「すっげー!」

「むしろこええわ!!

 ってかそもそも、んなもん無人販売に無防備に置くなよ!! 食中毒怖いだろソレ――!!」

「あ……」


 坊ちゃまは身を乗り出し、きらきらと瞳を輝かせなさいました。素直なお可愛らしい反応、私ども大人が失いつつある感性がみずみずしく、いとおしく感じられます。

 しかし、その隣で叫ぶ頭の固い庭師には、どうやらあとで少しばかり、お話を差し上げる必要がありそうです。

 今度も笑みだけでそれを伝えると、彼は真っ青になって沈黙いたしました。

 はて、この男は何を誤解したのでしょう。私は紳士です。常に親切丁寧ジェントルにを心がける男でございます。

 そのへんも含め、やはり彼とは一度、ひざを交えてじっくりと語り合う必要があるようですね。

 さいわい、まだ封を切っていない蒸留酒がひとビンございました。今宵はこれを役立てることと致しましょう。

 そうと決まれば、お話の続きです。わたしは可愛い坊ちゃまにもう一度微笑みかけると、その優しく気遣わしげな視線に全力でお答えすることといたしました。


「その『とりハム』は成功度:MAXにより神器の域に達していましたので、体力魔力疲労度全回復・死亡や石化を含む全状態異常回復・全属性耐性MAX・不壊不腐・沈静浄化効果つきの特性を持っておりました。

 そのため、お客様は皆様無事に、おいしく食されたのでございます」

「不壊属性もちをどうやって食……イエナンデモゴザイマセン……」


 旦那様、急に言葉を飲み込まれました。一体なぜでございましょう。

 旦那様は私のご主人様、私めに遠慮なさることなど、なにもございませんのに。

 もちろん私は一礼し、丁重にお答え申し上げるのです。


「この『不壊』と申しますのは、望ましからざる状態に形態変化させられることをさすのでございます。料理たる『とりハム』が食されるのは、本来の使用法にそった望ましい変化でございますので、その効果を受けぬのでございます」

「あ、はい……そ、そうだよなあは、あは、あははは……」


 旦那様も笑ってご納得くださいました。では心置きなく参りましょう。

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