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第九話 もも~もしくは眠れる名探偵(下)

 さらに推理を進めてみよう。

 プロクス山の六合目とここからの距離、この川の流速から計算すると、犯行時刻は『せんたく』開始後3時間27分。今回の『せんたく』は開始後2時間強で終了との報告が入っているため、犯人は『せんたく』の参加者、それも、なんらかの理由で棄権したものと推測される。

 このもも肉についた骨の断面を見たまえ、すぱりと一刀の元に切断されていることがわかる。

 ロック鳥は人間と同様、頭蓋骨を除けば大腿骨がもっとも太く、頑強な部位だ。しかしその内側は軽量化のためほぼスカスカ。そのため、これほどまでに綺麗な断面を作ることができるのは、相当の業物と使い手がそろったときのみ。

 ハッキリ言って、これを行った者はいまのおじ次にまさるともおとらぬ――もしかすると最盛期の奴とでも、互角に渡り合う可能性のある実力者だ。

 それが、『せんたく』の帰路にこうした犯行へと至る状況はひとつ。彼、または彼女が、やんごとなき理由で『せんたく』を棄権。しばらくでも山にこもり、行方をくらますねらいがあったものと推測できる』」

「だが……そんな奴がなぜ、山篭りのための貴重な食料を、川に……」

「おじコさんは仲間たちからのそんな問いを受けて言います。


『かんたんさ、ヤツは不運ハードラックダンスっちまったのさ。

 その証拠はここにある! 出て来い、犯人はお前だ!!』


 ――スパン! おじコさんがもも肉を下から上に、ゆるやかな弧を描いて斬り上げれば、ぺろりともも肉の一部がはがれ、中から気を失った、ひとりの若者が転げだしてきました!」

「なんでぇぇぇぇぇ?!」


 広間は疑問の声に包まれました。

 これも計算どおりです。心中ほくほくしながら私は、おじコさんになりきり、語り続けます。


「『説明しよう。見てくれ、この刀傷を。

 いや、こっちじゃなくて左のほうだ。

 こいつは今俺がつけたものじゃない。このもも肉にもともとついていたものさ。

 もも肉を縦に一筋。見事に筋繊維の流れに沿って、骨に到達する深さまで達している。

 そしてその奥に、この男はいた。

 やつはな、ローストしおわったもも肉から骨を取り除こうとしていたのさ。

 しかし、そのときハデに足を滑らせた。それは、この男が右足にしか靴をはいていないことからわかる。

 この男はそうして、ほかほかのもも肉の真ん中に飛び込んじまった。

 弾みでごろごろと転がったせいで、そのままもも肉に包まれてしまい、もろともに川にドボン。

 衝撃で気を失ったまま、ここまで流れてきてしまったのさ。

 確か今回の参加者、棄権者が一人いたな――名前をスノウ・ホワイト。

 その鋭い剣技で準決勝まで勝ち抜いたものの、『やんごとなき理由』で棄権となったらしい。

 この特徴的な真っ白な髪。間違いない。

 おいおまえら何やってやがる、中に運ぶぞ。

 自白と物証を抑えるまでこいつは『容疑者』だ。

『疑わしきは容疑者の利益に』。こいつは目を覚ますまで、俺たちで丁重に保護するぞ』


 おじコさんの別名は眠れる名探偵。すなわち、全ての推理を寝言で開陳するのです。

 そのため、今回も寝言で語り終わるとおじコさんは、ぱちっと目を開けていいました。

 あれー? なんでこんなところにおっきなもも肉がころがってるのー? ボク子供だからわかんないや! ねえねえごはんまだ? ボクおなかへっちゃった! と」


 大広間は再びざわつきます。


「く、くそう完璧だ……文句のつけようがねえ、完璧な推理だ!!」

「いやこれ起こす必要あったのか?!」

「まずは現場を見てもらう必要がございましたので……」

「っていうかこれあの若武者じゃないの? なんで別のヤツとごっちゃになるの?」

「それは、不幸な偶然ゆえでございます。

 棄権したはずの若武者が、王子さまの機転で優勝者となってしまったがために、公式発表の棄権者はひとり、スノウ・ホワイト氏のみとなったゆえでございます。

 さあさあ、みなさま。

 坊ちゃま方がそろそろおねむのようにございますよ。

 きりのよいところでそろそろ、いったん解散と致しましょう。

 続きはまた今夜。この大広間にお集まりくださいませ」

今回は無駄に推理モノ風にしてみました。そして無駄にハードボイルドふう。ぜったいセバスチャン楽しんでるよ。作者も書いてて楽しかったりします。

でもやっぱり童話なので、一部表現はマイルドにしました。

次回は19時台の投稿予定(二部分)でございます。まったりいらしてくださいませ!

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