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自動ドアが開き、モールの内装が一気に視界に入る。
中は思った以上に広々としている。
至る所に有名どころのチェーン店、洋服のブランド店などが、ずらっと立ち並んでいた。天井のスピーカーからは、今流行ってるというアイドルグループのヒット曲が流れてくる。
私達と同じ学生、主婦、子供連れの親子…皆大いにそれぞれのショッピングを楽しんでいるようだ。
「…すっごーーい! すっごく広いよマナちん! 」
私を連行してきた詩音も、身振り手振り大きくして、興奮している様子である。
この様子だと、彼女もここに来るのは初めてなんだろう。
まぁ気持ちは分からんでもないけど、もっと色々落ち着いてくれると助かるな。こっちは誰かさんに飛びつかれたり、捕獲されて30分歩き続けたりで大変だったんだから。
「あれ? あの英語何て読むんだろ? えーと……す…あっ! スタルブッ」
ふと横に目をやると、このモールの案内板があった。表示されていた館内地図に目を通してみる。
…食品売り場に、電気店、フードコート、書店、洋服・雑貨店、ゲームセンター、携帯修理店…映画館まであるのか。
店舗はかなり充実しているようだ。これから、ここに自転車で来るかもしれないから、ある程度覚えておくと楽かも。
徒歩で30分ってことは、それだと15分くらいで行けるな。
「ねぇマナちん、ここ動物園もあるのかな? 詩音お猿さん見たい! 」
ショッピングモールなめんな。あってもペットショップでしょ。どっちみち猿は居なそうだし。
まぁ適当に返事して、早く終わらせるように催促くらいはしとくか。
「それは流石に……それより、こんな事言うのもアレだけど…おつかい、なるべく早めに終わらせてくれると助かーー」
そこまで言って、私は言葉を止める。
嫌な予感を察知しながらも、ゆっくりと振り返ってみると…
そこに、詩音の姿は無かった。
ブレイクダンスキャップ、変てこキャラTシャツに黒ジャージ、制服と比べたら割と目立つ格好のあいつが。
右側に広く広がる通路を見ても、人混みで詩音の姿を確認できない。
………はぐれた…のか?
正直、一番好都合なことが起こってくれた。
詩音がいなくなれば、私はいつでも勝手に帰ることができる。あのバカに付き添う必要もなくなる。
捕まった時は本当に絶望だったが、それも全て無かったことに。
ああ、ここに来てついに、幸運の女神が私に微笑んでくれたのか!
…帰ろう! うん、そうしよう。多分なんだかんだで、自分でおつかい終わらせて帰ってくれるでしょ。
そうと決まれば、早速入ってきた自動ドアの方を向いてーーーー
「すっごーーい!! このドア自分で動いてる! ウィーンって! おもしろーい!! 」
………あっ。
「あれ? でも何で勝手に開くんだろ? 普通こうさ、ドアって自分で開けるんだよね? 」
ああそっか。きっと近くの小学生がワイワイ楽しく遊んでるだけだ。うんそうに違いない。
「…あ、分かった! きっと詩音がエライひとになっちゃったから、お店が歓迎してくれちゃったんだ! マナちんもそう思う? 」
…帰れると思った時期が、私にもありました。
私はその様子を無心で、ただ無心で、そして穏やかな笑顔を浮かべて、しばらく赤の他人のごとく見守ってあげた。




