(4)
ーーー午後3時50分、帰りのホームルーム中
「では連絡いきます。明日の時間割変更は……」
この日は何とか、朝から詩音のどうでもいい話に付き合わされただけで終わった。適当に聞き流せば良いだけだったので、特に面倒なことに巻き込まれる事もなかった。
…っていうか、結局今日一日あのブレイクダンス衣装だったな。
でも終始誰にも注意される事はなかった。もう諦められているのだろうか。
予め言っておくが、心当たりはない。
何か些細なことでもと言われても、思い当たる節は全くない。
私が詩音に気に入られるような事をしたわけでもない。
あいつだったら、弁当に入ってる小さい唐揚げをあげただけでも、猿のように大はしゃぎしそうだが、無論そんなことはしない。したくもない。
そもそも、あんな誰からでも注目されるような変人に付き纏われたら、無条件で私まで目立ってしまう。
万が一悪い噂が流れでもしたら、私は学校に来られなくなる。その時はズル休みしてもいいとは思うが、うちの親が許してくれないだろう。
肩くらいまで伸びた髪を結び直しながら、そんな事を考えていると、
「起立! 」
日直の号令がかかった。やっと帰れる。それを合図に、クラス中が一斉に立ち上がる。
挨拶したら、早足で帰宅しよう。このまま何事もなく帰れれば、買ってからまだ全然読んでない推理小説が一気読みできる!
さようならの"ら"の瞬間でスタートできるよう、タイミングをはかる。
「さようなら」
「「さようならー」」
・挨拶終わり→スクバ持つ→速攻で教室出る→帰宅!
イメージは完璧! あとは邪魔が入らなければ…
「マーナちーーーん! 一緒に帰ろーよーーー
!! 」
入りました。
誰でしょうか、そう、詩音です。
バッタのような異常な跳躍力で、笑顔で私めがけて勢いよく飛び跳ねてくる。
「よ、芳村!! あいつ何やってんだ!? 」
「ってか危ない、水園さん逃げろー!! 」
生徒達が次々と驚き喚き声をあげる。言われなくてもそのつもりだ。
朝の二の舞にはなりたくない。何より、あれがクリーンヒットしたらひとたまりもないだろう。
私はすぐにその場を離れる。するとーーー
ーーーガラガラガラガッシャーーーーン!!
詩音が頭から私の席に激突し、周囲の机や椅子が勢いよく倒れる。…痛そう。
「うわあっ!? 芳村が頭から飛び込んだぞー!?」
「だ、大丈夫か!? 」
悲鳴にも近い大声があがり、もはや2年A組は軽くパニック状態だ。
しかし、構っている暇はない。この隙にダッシュで教室を抜け出す。
「こらっ! 教室で暴れるんじゃないのっ!! 」
高尾先生が怒鳴る声も聞こえてきたが、振り返らずに走る。
そして何とか教室を抜け、廊下に出られた……が、
「ねえねえ、待ってよマナちーーん!! 」
詩音も元気よく、私を追って廊下へ飛び出してきた。
嘘でしょ!? あれだけ派手な音でぶつかって、何でピンピンしてられるんだ…。
と…とにかく逃げないと! あいつのことだ、きっと面倒なことに付き合わされるに違いない!
驚異の復活スピードに驚きながらも、私はさらに廊下を走り続けた。
ーー私の普通の日常を壊されないように。