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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第1話:おつかいは手短に済ませましょう
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(3)



 背後から思いっきり抱きつかれた衝撃に耐えきれず、私はバランスを崩して、前方に倒れこんでしまう。運良くスクバがクッションになってくれたから助かったが、危うく顔面を強打するところだった。


「うわあっ!? マ、マナちん大丈夫!? 」


 当の本人は、慌てた様子で私の顔を覗き込む。

 女子の中でも比較的高めの声が、教室中に響く。


「う、うん…大丈夫……」


 若干フラつきながらも、自力で立ち上がる。そして、自分の席に向かって歩く。




 芳村(よしむら) 詩音(しおん)

 この学校ーーというか地域では、よく知られている名前である。決していい意味ではないが。


 可愛らしい容姿、運動神経抜群、多彩、素直で裏表もほぼ無い性格。


 ーーーなのだが、この樹林高校の人間からは敬遠されている。生徒からも、教師からも。

 理由は単純に、彼女(以下詩音)は明るいというよりも、"空気が読めない"という方が正しいからだろう。


 例として、授業中にいきなり大声で歌いだすとか、体育の授業で一人だけ勝手に木登りを始めるとか。さっきのブレイクダンスも多分含まれる。


 簡単に言い表すと、ただの"バカ"である。

 おそらく誰も、彼女の奇想天外・とんちんかんな言動について行けないのだろう。本人に悪気はない分、余計にタチが悪い。


「聞いて聞いて! 詩音ね、昨日すごいことがあったの! 」


 さっきの心配そうな表情から一変、ぱっと眼を輝かせた詩音が、思い出したように話を振りだす。


「…何かあったの? 」


 一応話を聞いてやるとしよう。あくまで聞くだけだ。


「あのねあのね! この間の日曜日に水族館に行ったんだけど、そこに珍しい牛がいてね…体が青とか黄色とかで、凄く綺麗なんだ! 」


 うん、その話昨日も聞いた。ってかそれは、牛じゃなくてウミウシだと思うんですが。水族館に牛なんているわけないでしょーが。


「へーそうなんだ…すごいね…」


 私は適当にあしらう。悪いけど、こいつの話をまともに脳に取り入れるつもりは毛頭ない。

 何でこんな空気みたいな奴に絡んでくるのだろう。さっさと一人にして欲しいんだけど。


 まだ詩音が得意げに話す声が聞こえてくる。ああ…周囲からの視線が痛い……。



「なぁ、水園さんって芳村と仲よかったっけ? 」


「言うて最近からだよな」


「そうか? 大人しそうだなと思ったけど、もしやあの芳村と同類なのか? 」


「まさか、あんな非常識人に自分からイケる奴なんてそうそういねーよ」


「…でももしそうなら、ちょっと幻滅だわー」


「まぁ普通には見れねーよなぁ」



 …あの、全部聞こえてるんですけど。

 さらっと私とこのバカを同類にするのやめてくれません?

 ここまで注目されてしまっては、空気になるもクソもない。



「でね、その珍しい牛入りカレーが超美味しくてさー!! 」


 まだ言ってる。そのまま体調でも崩して1年くらい学校休んでくれればいいのに。




 ーーーーガラガラガラッ…ドンッ


「はい静かに、ホームルームを始めますよ」


 そう言って教室に入ってきたのは、担任の高尾だ。その一声で、詩音含むクラスメイト達が、それぞれの席に座る。


 た、助かった…。


 詩音からは解放されたが、朝から結構精神を削られてしまった。これでは本戦前に戦闘不能になりかねない。最近いつもこの調子だ。


 このままでは、私の理想の空気生活が崩壊してしまう…どうにかしないと…。




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