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……そんなこんなで、今に至るというわけだ。
まったく、何が悲しくて夏休みという天国のような期間にまで、学校という地獄のような場所に行かなくてはならないのか。
私としては勿論、参加する意思は皆無だったが、「不参加はスクワット2000回」とかいう、冗談なのか本気なのか分からない事を言われ、仮に後者だった場合後が怖い。
ただでさえ暑苦しく、一日中クーラーの効いた部屋に引き篭っていたい気分なのに、スクワットだなんて冗談じゃない。ああいうのは、勝又みたいなそこそこ筋肉質な身体だから耐えられるのであって、一般人にやらせてしまったら身体がぶっ壊れてしまう。
ってか、あれ女子も同じ回数やるの? それだったら鬼畜どころじゃない騒ぎになりそうなんだけど……。暴動起こされないか心配だ。
まぁ私は仕方なく学校に行く事にしたので、どっちみち回避できるんだけど。
どこかで鳴いている蝉の鳴き声が、早く早くと催促するかのように感じられた。
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まとわりつく熱気に鬱陶しさを覚えながら、集合場所の体育館裏に着いた。こういう時、家から学校までの距離が短いと便利だなと、改めて実感できる。
私が到着した頃、まだあまり多くは集まっていないようだった。結構ギリギリに家を出たつもりだったんだけど……大丈夫なのかこれ?
真ん中に仁王立ちしている勝又。いつものグラサンに加え、体育で使用するジャージ姿で気合い充分といった様子だ。暑くないのかな?
この場所は広々としていて、今のような昼間は生い茂る木々に隠れて日陰になっているので、避暑地としては最適だろう。まさか体育館裏がこんなに快適だとは思わなかった。
「あっ、マナちゃんやっほ〜」
予想以上の快適っぷりに驚嘆していると、後ろから冬架が声をかけてきた。ボブにしていた茶髪が、頭の後ろでちょこんと結ばれている。
「やっほー冬架さん、その髪……」
「あっこれ? やっぱり暑いから結んだ方がいいかなーって思って。えへへ、マナちゃんとお揃い〜」
屈託のない笑顔を見せる冬架。
確かに私も一つ結びにしてはいたけど、彼女のはとてもオシャレというか、より一層可愛らしくなった印象を受けた。
そんな彼女もまた、マスコット作成なんて面倒だと考えているのだろうか?
「てか、私が最後みたいだね」
冬架のその言葉で腕時計を見てみると、集合時間の午後1時ピッタリ。辺りを見回してみると、なんと私と冬架や勝又を合わせて、集まっていたのは僅か10人程度だった。
うちのクラスは全部で40人程度なので、約4分の3の生徒が不参加ーースクワット2000回の刑を下される事になった。
初日? でこの欠席率。こんなんでやっていけるんだろうか?
「……くっ、まだ全然集まってないが、ひとまず説明に移るとしようか」
勝又が頭を軽く掻きながら、手をパンパンと叩いて注目を集めた。
「ちなみに悠久ー、リンと莉子と智子は塾があるから休むって言ってたからよろしく」
小さく手を挙げてそう言ったのは、勝又と付き合っているという麻田 陽菜乃だった。
それを聞いた勝又は「おう、分かった」と簡潔に答える。
「植田と石原は風邪引いたと言ってたな、嶋と村松は部活の合宿がある……と。よし、彼らはスクワットの対象から外してやろう」
あっ本当にやる気だったんだ。来てよかったわ。
「さて…本題に行こうか。君たちーーといってもたったの10人だが、君たちを呼んだのは他でもない。樹林祭で使うオリジナルマスコットを作成するにあたっての重要事項だッ‼︎ 」
後ろに置いてあったバッグから、何やらノートのような物を取り出して、声高らかに叫ぶようにして宣言した。
樹林祭というのは、文化祭・体育祭合同で実施するという、樹林高校一大イベントだ。毎年校内は勿論、校外からもそれなりの人気を誇っているらしい。ちなみに1日目と2日目が文化祭、最終日の3日目が体育祭という事だ。
「まず一口にマスコットと言っても、ただ作れば良いってもんじゃない。縦と横と高さを全てかけた大きさという風に、ちゃんと生徒会から規定があるんだ」
それ直方体の体積の公式じゃない?
「……というのは冗談でだな、高さは2メートル以内で幅が1.2メートル以内、これが本当の規定だ」
冗談でよかった……と思ったけど、これ結局直方体って事になるのか。
その後も勝又による説明が続いたが、クラスメートの反応はお察しレベルの酷い説明だったので、私が理解できた範囲で説明しよう。
そもそも樹林祭というのは、各学年クラスの縦割りでブロック分けされる。そして、各ブロックのテーマとなる色が、毎年クラス代表者の抽選によって決定する。
今年のブロック割り振りは、
赤ブロックーー各学年C組
青ブロックーー各学年B組
緑ブロックーー各学年F組
黄ブロックーー各学年E組
橙ブロックーー各学年D組
紫ブロックーー各学年A組
こんな感じ。
そこで、自分のブロックと同じ色の物をモチーフにしたマスコットを、自分たちで作成しなければならない。
例えば赤ならトマトや太陽、黄なら月や麒麟など、色とモチーフが合っていて、規定に反していなければ何でもアリ。もちろん既存のキャラクター等はナシ。
私たちは紫ブロックなので、紫に因んだマスコットを作る事になったって事。
え? 肝心のマスコットはどこで使うのかって?
それは体育祭の時に、グラウンドのブロック先の後ろに置いておく、それだけ。
というのも、うちの体育祭では各種目の点とは別に『オリジナルマスコット点』なるものが設けられている。大きさの規定を越していないか、一目見て、何をモチーフに作ったのか理解できるか、ブロック色と合っているか、という点で評価されるらしい。
……ただグラウンドに置くだけに作成するってのも悲しい気がするけど。
説明も全て終了したところで、クラスメートたちは与えられた役割を果たそうと、次々と活動を始めていた。話の内容全く頭に入ってなさそうだったけど、大丈夫なのか?
「なあなあ、でっけードラゴンでも作ってやろーぜ‼︎ 10メートルぐらいのよ‼︎ 」
高さ2メートル以内って言ってたでしょ。
ほらやっぱり理解してない。ってか、勝又の説明が下手クソすぎる。何を言うにも「紫色がバーン‼︎ 」とか「予算がガシャーン‼︎ 」とか、よく分からない擬音語しか使ってない。予算がガシャーンって何だ、どうしたらそうなるんだ。
私は徐ろに立ち上がり、近くに置いてあった鋸を手に取った時、
「あー違う違う、水園さんはこっちだ! 」
声のした方を見ると、勝又が手招いているのが見える。彼の近くには冬架と陽奈乃の姿も。
……どこに行くんだ? 今から作業開始って言ってたのに。
頭の疑問符が取れないまま、私は言われるがままに勝又たちの後を追った。




