表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/36

騒がしい晩ご飯

よろしければ評価、感想、ブックマークお願いします。


 再びトイレで嘔吐しているであろう永井を置き去りにして、何とか人混みから抜け出せた私は、何をする訳でもなく、ただ二階をぶらぶらしていた。

 何はともあれ、これでやっと解放された。

 少なくとも明日から2日間は、あの鬱陶しい勧誘に頭を悩ます事も無いだろう。連絡手段も無いはず。

 安心して気が緩んだのか、腹の虫がきゅうと小さく音を立てて鳴いた。

 ハッと手で腹を押さえてから、腕時計を見る。

 時刻は9時に差し掛かろうとしていた。いつもなら既に夕食を済ませている時間だった。

 カラオケで軽くサイドメニューを頼んではいたが、やはり物足りなかったか。


「……何か食べて帰るかぁ」


 独り言のように呟き、目的地をフードコートに変更した。


 ☆★☆★☆★☆★☆


 ものの数分で、フードコートに到着した。

 ここにはあまりいい思い出が無い。と言うか無い。

 誰かさんがアイスクリームサンプルでジャグリングして、営業妨害で店員さん泣かせて、巻き添えで散々追い回された……思い返すだけでも頭痛がしそう。


 幸いその"誰かさん"は、現在カラオケを楽しんでいる頃だろう。だから、今日はそんな迷惑をかけられる心配も無い。心置きなく食事が出来る。


 ーーそんな確信は、哀れにもガラガラと音を立てて崩れ去った。


 角を曲がった時、それは一瞬で目に付いた。

 フードコートのど真ん中に胡座をかいて、ひたすら「うーん…」と深刻そうに唸りながら、オレンジ色の癖っ毛を掻く詩音の姿があった。

 通りかかる人々が、さぞ邪魔そうにして彼女を避けて過ぎていく。


 ……何でいるんだコイツ。


 さっきまでカラオケに居たんじゃないのか?

 もう終わってるにしろ、この短時間でカラオケ店からフードコートまで来るなんて、明らかに人間業とは思えない。瞬間移動でも使ったと言うのか? ついに超能力まで駆使できるようになったのか⁇

 …いや待て、落ち着け私。

 詩音が居たからどうした。発見されないようにやり過ごせばいい、それだけの話だ。

 幸運な事に、私と詩音の距離は数メートルほど離れている。さらにこの人混みだ。いくら彼女の視力が化け物級でも、流石に見えない物は見つけられないだろう。

 顔を見られないよう、詩音に背を向けて反対側へと歩き出したがーー


「あっ! マナちんだ‼︎ おーーーい‼︎ 」


 健闘するも虚しく、あっという間に名を呼ばれる。

 おーーーい‼︎ じゃないんだよ。何でこの人混みの中ピンポイントで私を見つけられるんだよ。

 ってマズイ、また辺りがざわつき始めた。違いますからね、私あの人のお仲間じゃありませんからね。

 騒ぎが大きくなる前に逃げようーーとしたが、驚くほどの超スピードで距離を詰められ、あっという間に私は手首を掴まれていた。

 ……この世界の住人は、私の手首を掴まないと死んでしまう病にでもかかってるのか?


 詩音は私の手首をグリップしたまま、ピョンピョン飛び跳ねて言った。


「こんなとこでマナちんに会えるなんて、驚きだよ! まさ幾何学的運命だね‼︎ 」


 どちらかというと、あなたの口から幾何学的という知的な単語が出てきた事に驚きなんだけど……使い方合ってるかは別として。


「でさ〜詩音ちょっと迷ってる事があるんだよね〜」


 声の調子は変わらず、淡々と続ける詩音。そのまま森で迷い続けて帰って来なきゃいいのに。


「今から晩ご飯食べようと思ってたんだけどさ、色々ありすぎて何食べようか迷っちゃってさ〜、詩音まだここ来た事無いから、オススメの店とかも分かんないんだよね……マナちんは何がいいと思う? 」


 胡座までかいて迷う事じゃなかったな。分かってたけど。

 彼女が、以前このフードコート全体に絶大な迷惑をかけてたって事については、黙っておいた方がいいだろう。


「いや、別に好きなもの食べればいいと思うけど」


「詩音は何でも大好きだよ! でもねぇ、何かラーメンはどこも同じような感じで、パッとしない気がするんだよねー」


 ラーメン屋の目の前で言うのやめて?

 ほら何か店長が「湯切り直後の麺を顔面にぶつけてやろうか? 」とでも言いたげに睨みつけてるし……。


「やっぱりハンバーグが一番かなって思って、あそこのお店で注文したら、「当店ではお取り扱いしておりません」みたいな事言われちゃったし」


 うん、だってそこドーナツ屋だからね?

 っていうか、それだったらハンバーグ頼めばいいんじゃないの?


「うーん、もうアイスクリームでいいかなー」


 それだけは勘弁してあげて下さい。最早ご飯じゃないし。


 コイツの無駄話なんかさっさと済ませて、さっさと自分の夕食を摂りたかった。

 このままでは埒があかないと踏み、詩音を放置して何か買って来ようとした時ーー


「あっそうだ、詩音すっっっごく天才的な事考えちゃった‼︎ 」


 詩音が手をポンと打って、声高々に叫ぶようにして言う。

 皆こっち注目してるから静かにして、頼むから。


「……えっ? 」


 次の瞬間、私は詩音にグッと腕を引っ張られていた。

 抵抗する事も忘れてしまい、成す術なく彼女にされるがままになっていた。

 何だろう……凄くデジャヴを感じる。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 数分後、私たちは何とか遅めの夕食を摂る事ができた。


「選べないなら、全部買えばいいんだよ‼︎ 」


 そんな突拍子のない一言で、急遽フードコート中を猛ダッシュで進む事になってしまった。

 流石に「そうだね」と容認する事はできず、一つに絞るよう忠告しておいた。

 迷いまくった結果、ハンバーグステーキを買う事に決めたと言っていたーーが、そんな彼女が実際に買ってきた物は何だと思う?


「んーー美味しー! やっぱりこの食感がサイコーなんだよねーー‼︎ 」


 ……フランスパンだ。


 分からん。本当に行動が読めない。

 彼女の底知れなさに、思わず戦慄を覚えてしまう。

 ペチャクチャとマシンガントークを弾ませながら、嬉々としてフランスパンを頬張る詩音。

 彼女の話を悉く聞き流し、ひたすら冷うどんを啜る私。


 こんな高頻度で、こんな空気の読めない幼稚園児に毎秒付き合っていては、そのうち過労かストレスかのどちらかでお星様になってしまう。何としてでも、いつもの平穏な日々を取り返さなければ…。


「ねぇねぇマナちん、フンコロガシの糞ってどんな味なのかな⁉︎ 」


 言っとくけどあなたの事だからね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ