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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
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 永井を男子トイレに押し込めた私は、偶然ベンチの付近にあった小型の自販機で、ペットボトルの天然水を買っていた。

 ピロン♪ と着信音が鳴ったので、ポケットのスマホを見てみると、冬架からチャットが来ていた。


『ゴメンねマナちゃん、せっかく来てもらったのに、途中で帰ることになっちゃって』


 メッセージの内容は、そんな謝罪の文面だった。

 直後に、可愛らしいウサギの泣き顔スタンプが表示される。

 何も彼女が謝ることはない、何かの手違い? で酒が届いてしまった以上、仕方ない事だ。

 私は『ううん、大丈夫』とだけ返信しながら、先ほどのベンチへと歩く。流石に隙を見て帰る予定だったし、なんて正直に言える勇気は無い。


『永井君、どうしたんだろう? 』


 私が返信してからものの数秒で、次のメッセージが送られてきた。

 返信が早い。どんなスピードで入力してんだ。

 それに対して私は、永井がジュースと間違えて

届けられたカクテルを飲んでしまい、酔っ払って正気を保てなくなった上での言動だと、洗いざらい伝えておいた。文がなかなか纏まらず、それなりの長文になってしまった。

 文面だけでは判断し難いが、特に質問も無く納得してくれたようだ。


『本当にゴメン、また皆で行けることになったら誘うから。永井君よろしくね』


 最後に、実質強制参加みたいな事を宣告された。

 いや、もう結構です……と打てるわけもなかったので、『そのうちね』と簡単に返しておいた。


 冬架とのやり取りを終えたところで、出すモノ出してスッキリーーとはいかず、未だに顔色が悪い永井が帰還した。

 まだ意識がぽわーんとしている永井へと寄り添い、何とかベンチへと誘導して着席させる事に成功。


「……はい天然水。さっき自販機で買ってきたから、よかったら飲んで」


 購入したばかりの水を永井に差し出す。

 彼は「……すまない」と項垂れながらボトルを受け取り、水で軽く濯ぐようにしてから飲み込んだ。

 飲み終わると、ふぅと力無く溜息をついて、虚空を見つめる。


「……とりあえず、後で奴らに謝っておかねばな」


 ぽつりとそんな事を言い出す永井。

 言葉もハッキリしてるし、感情的に発している、というわけでもなさそう。だんだん酔いが醒めてきたのだろうか。

 というか皇帝気取りのコイツにも、少しはこういう善の心があったのか。ちょっと安心した。

 いやこういうタイプの奴って、何が何でも己の非を認めない! ってイメージがあったから。


「少なくとも今日の件で、生徒会長としての面目は丸潰れだ。酔っていたとはいえ、流石に常識の範囲外が過ぎた」


 聞いてもいないのに、急に生徒会長がどうとか言い出す永井。


「まぁ、まだ正式に決定したわけじゃないし…今から頑張ればーー」


「うるさい‼︎ そんな取って付けたような慰めをするんじゃない‼︎ 自らの言葉で表現しろッ‼︎ 」


 いきなり説教⁉︎ やっぱりまだ酔ってるんじゃないのこの人!?

 話に合わせようとした結果、何か彼の逆鱗に触れてしまったらしい。困惑しつつドン引きしていると、


「……カラオケ苦手なのか? 」


 打って変わって静かに尋ねられる。コロコロと話が変わって付いていけないんですが。


「まぁ音楽聴くのは好きなんだけど、人前で歌うのは嫌かな。それがどうかしたの? 」


「そうか……何、少し聞いてみただけだ」


 そう言うと、永井は再び虚空を見つめた。

 私も特に言及する事なく「ふーん」と曖昧に返事をしておいたが、どこか心の内を見透かされたようで、変な気分になった。


「まぁ正直……少し楽しかったな」


 ふと思い出したように、永井が呟いた。

 思わず「えっ? 」と気の抜けた声で聞き返してしまった。

 そんな私に気づいたのかどうかは知らないが、彼はそのまま何かを振り返るような口調で語り出した。


「生徒会長たるもの、常に生徒として……いや、人間として模範となるべきであると、現会長に教えを頂いたんだ」


 ……まぁ、当然といえば当然だな。


「だから今日は…酔っていたとはいえ、何も考えずに大騒ぎできたから、たまにはこうして羽目を外すのも悪くない、柄にもなくそう思ってしまった」


 へぇ、人間として模範……ねぇ。


 皇帝気取り…生徒を平気で愚民呼ばわり…掲示板によじ登り満点自慢…執拗な生徒会勧誘…高校生にもなって痛々しい厨二発言…価値観押し付け…しまいには酔っ払って場の雰囲気ぶっ壊し……。


 ……どこをどう見れば、人間としての模範と言えるんでしょうかね、え? 永井君? 普段からハメ外しまくってると思うんですけど?


 思いつくだけのマイナス面を、脳内で上げてみた。何故これで生徒たちから人望が厚いと言われているのか、本当に理解できない。

 このまま容赦なく罵倒してやろうかと悪戯心が沸き起こったが、また理不尽な説教をくらうのがオチだろうから止めておいた。


 しかし何というか……こうしてみると、普段のどうしようもない醜悪っぷりは演技で、今のが永井の素の姿なんだろうか? とさえ感じてくる。

 マイナス面しかない演技するメリットは1ミリも感じないけど、もしかして、意外と根はいいヤツなのかもしれないな……。


 と、一瞬感心したのも束の間、


「さて、そろそろ決心がついただろう? 生徒会に入ってくれ水園‼︎ 」


 さっきまで憔悴しきってたのが嘘のように、驚くほどイキイキした声を張り上げた。


 ……ダメだこりゃ。


 反応しては思うツボだと判断し、私は無言でベンチから立ち上がり、そのまま立ち去ろうとしたが、後ろから手首をグイと引っ張られる。何で皆さんこんなに手首好きなの?


「まままま待ってくれ! 何故だ、何故そこまでして拒否するというんだ⁉︎ 何が不満なんだ⁉︎ 」


「ええい人の話を聞いとけ! 私は元から生徒会とかいう目立つ役職やる気ないの! あなたが生徒会長だったら尚更! 」


 あーもう、またツッコんじゃったし。

 えっ何? まさか今の話って生徒会入って下さい的なアピール演説のつもりだったわけ? ただのハメ外して楽しかったなーとかいう自己中な話だったじゃん!


「ってか、さっきの決闘? が実質無効みたいなもんだから、無理強いさせる権利は無いーー」


「そんなモンは知らん! お前のその"瞬間透明化(インビジブル)"というチカラがあれば、この腐敗した世界を変えられるはずなんだッ! 」


「もう滅茶苦茶だし…カッコいい感じで言ってるけどそんなチカラ無いし。仮にあったとしても生徒会には活用できないでしょ。とりあえず自重しろ厨二病」


 あーあ、結局こういうオチですか。


 不毛な言い争いが勃発してしまう。

 不覚にも熱くなってしまい、周りが見えなくなっていたが、気づいた時には周囲に群がっていたギャラリーの好奇の視線が、私たちに向けられていた。


 目立たずに過ごせる日は……いつになったら訪れるのだろう……。


 中断して帰ろうにも、永井の言い分が徐々にヒートアップしていくため、抜け出すタイミングがない。

 その最中「うっ……」と両手で口元を押さえて、ピタリと動きが止まる永井。私も状況を察し、一瞬で静止する。そしてじりじりと後ずさりをする。



「………い、一時休戦だ。もう一度トイレにーー」



 ……突き落としていいかな、コイツ。



 第2話 〜((完))〜

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