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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
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(6)

 突如放たれた言葉に、私の脳はしばらく理解を拒んでいた。


「間違いない……お前は不思議なチカラの持ち主……そうだろう? 」


 唐突に何を言いだすんだこの人。えっと…不思議なチカラ……? 何ですか? いい歳して厨二病なんですか?

 マイナスの要素を詰められるだけ詰め込みました、って感じだな。いよいよ何で皆から信頼されてるのか謎なんですが。

 屋上に連れ出してまで言いたかった事ってこれか。

 くだらない、とんだ時間の無駄だったな。


 私は、フェンスを掴む永井の手の下をくぐり、無言でその場を立ち去ろうとする。


「な……ま、待て! まだ話は終わってない‼︎ 」


 永井が慌てて言いながら、再び私の左手首を掴んで引きとめる。手首好きだなーコイツ。

 実質終わったようなもんだし、もういい加減帰っていいでしょ。はよ弁当食べさせて。

 私が溜息をつきながら振り返ると、永井は意味深に語りだす。


「一目見た時から感じたんだよ……お前はタダ者じゃないとな……」


 タダ者です。


「テストの結果も、今回は本気ではなかったんだろ? 」


 それは分からんけど、勉強は必死にやってました。


「隠す必要はない、今朝の"大事な話をし始めた途端、意図的にチャイムで妨げるチカラ"も、お前の仕業なんだろ…? 」


 チカラしょぼっ。誰得なんだよその能力。

 流石にもうちょっとマシな能力所望するわ。


「その辺の愚民共とは違う、何かそういった……何というか……そう! 覇気だ! それを感じ取ったんだ‼︎ 」


 言葉詰まってるし。無理してキャラ作りしなくてもいいんですよ?


「……そんなお前にだ、一つ真面目に頼み事をしたいのだが」


 まだ続くの? 一向に話が進む気配がないから、早いところ退場願いたいんですが。というより私が退場したいんですが。


 真面目な頼み事……コイツの事だから内容には期待してないし、面倒なことになる予感しかないのだが…一応聞いてやるか。何言われても断るけど。

 彼は眼鏡を指でくいっと押しながら、さっきと同じように顔を近づける。

 てかどんだけ眼鏡直すんだ。ネジ調整してもらえ。ついでに頭のネジも調整してもらうといいよ。


 またもや無駄に沈黙が続く。この沈黙に大した意味が無い事も分かってるので、勿体ぶらずに要点を言ってください。

 そんな私の願いが通じたのかどうか知らないが、今度は1分ほどで沈黙が破られた。それでも長いが。


「……生徒会役員にならないか? 」


「ならないです」


 私は即答した。

 ただでさえ理想のスクールライフが崩壊しつつあるのに、生徒会役員なんて冗談じゃない。ストレスとか過労で死んでしまう。

 

「⁉︎ ……な、何故だ、何故断る理由がある⁉︎ この優秀な生徒会長である僕と、共に活動できることを誇りに思わないのか⁉︎ 」


 まさか断られるとは思ってなかったのか、明らかに取り乱した様子の永井が、冷静さを失ってギャーギャーと(やかま)しく問い詰める。

 自分で自分を優秀だとか言ってる時点でダメ。事実なんだけど。


「お前のことを特別な存在だと思ったのは本当だ!

 だから頼む! 会長の僕の右腕として、この腐った世の中を変えていこうじゃないか! 」


 生徒会で世界征服みたいなこと言うな。

 私の両肩をがしっと掴み、激しく揺らしながら懇願してくる。


「何が不満だ? チカラか⁉︎ その程度じゃ物足りないとでも言いたいのか⁉︎ それなら、僕についてきてくれさえすればーーー」


「ーーーあのさ」


 とうとう耐えられなくなり、私は話を遮って静かに呟いた。

 あーもう、関わらずに帰ろうと思ってたのに!


 その言葉に、自分の世界に入り込んでいた永井が

「お? 」と怪訝そうな表情で、こちらを見つめた。


「自分の世界を持つのは結構だけど、それを人に押し付けるのはやめてもらえる? 」


 この際だ、言いたいだけ言ってやろう。


「大体チカラって何だよ、高校生、ましてや会長候補なんだから、もっと発言に慎みを持ってもらえる? 痛々しくて見てらんない」


 冷たく言い放つと、永井は「なっ……! 」と顔を強張らせた。

 ここまで自分の意見をはっきり言ったのは、かなり久々かもしれない。これで諦めてくれたらいいんだけど。


 永井はしばらく黙っていたが、やがて


「………ハハハ、なるほどな」


 眼鏡を押さえながら、意味深に笑いだした。

 そして、ゆっくりとフェンスから後ずさる。


「……ますます気に入ったよ、水園 マナ! それでこそ僕の右腕に相応しいってものだ‼︎ 」


 ……うわ、何か変なスイッチ入れちゃったっぽい。


「僕は諦めない……お前がそのチカラを、どのように利用するつもりなのか、それを踏まえた上で、もしまた考えを変えることがあれば…」


 そこで一拍おいて、再び私に顔を近づけて話す。


「いつでも、生徒会に歓迎するぞ」


 それだけ言って、永井はフェンスで反動をつけて、屋上を去っていった。


 ……何だったんだ。


 何はともあれ、これで解放されたと解釈していいのだろうか。

 しかし、これから会う度にずっと生徒会勧誘の話を蒸し返されるんだろうな……そう考えると、少しだけブルーな気分になる。

 私も帰ろう、そう思って一歩踏み出したその時、ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。


 ……あっ、弁当食べ損ねた。

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