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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
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(5)


 昼休み。

 各教室で楽しそうにお喋りをする生徒や、購買部でパンやジュースを買う生徒等で、この校内が一際賑わう時間帯。

 そんな中、長い長い苦痛な授業から解放された私はというと、トイレに行くために廊下を歩いていた。

 時々、反対側から走ってくる生徒たちと、肩が接触しそうになる。

 用を足すのもそうだし、ひとまず心を落ち着けたい、という思いもあった。


 むー……流石に周りが見えなくなるほど考え込んでしまうのはよろしくない。結果またしても注目され、クラス中から悪いイメージが集まってしまったし。

 しつこいようだが、私は目立ちたくないのだ。

 目立たず、それでいて普通の学校生活を送りたい。

 休めばいいだろ、という話になるだろうが、うちは規律には割と厳しい一家ので、仮病など許してくれるはずもない。……まぁ父さんが刑事だからってのも、少なからずあるとは思うけど。


 どうする? やはり拒絶するしかないのか?

 今のところ、唯一のマトモ枠である冬架もいるが、彼女も天然っぽい雰囲気ゆえ、無意識に私にとって、都合の悪いことを引き起こしてしまうかもしれない。……そんな事は無いと信じたいが。

 考えが(まと)まらず、未だ歩きながら考えを巡らせていると


「! ……おっと失礼」


 そんな声と共に、私の前面にトンと感触が走った。

 考え事のあまり、前からくる生徒に気づかず、そのままぶつかってしまったようだ。

 また周囲に注意を払い損ねてしまった。とりあえず謝ろう。


「あ、すみません…私がちゃんと前を見てなーーー」


 その途中で、私の言葉がふと途切れた。

 顔を上げるとそこには、黒縁眼鏡のブリッジを指で押さえ、バカにするようにニヤッと笑う、今朝見たばかりのアイツの姿が。

 

「……おや。まさかまさか、こんなにも早く再開できるなんて思ってなかったよ」


 ……性格0点の会長候補、永井 綜次郎が。


 うわぁ、まさか一日に二回も会うことになるとは。

 まぁ構ってるメリットもないし、無視してさっさとトイレ行こう。

 そう判断して、あたかも何事もなかったかのように、永井の横を通り過ぎようとしたが、


「まぁ待て、僕はちょっとした用事の帰りでな。

 生徒会室にプリントを届けに行ってたんだ」


 左手首をぐっと掴まれる。

 彼はそのまま、聞いてもないことを勝手にベラベラと喋り出した。


「……お前は何をしていた? 水園」


 えー……ちょっと離して欲しいんですけど。流石に鬱陶しい。

 ストーカーに遭いました、って訴えてもいいんですからね。

 でも答えなかったらそれはそれで面倒になりそうだからなー、トイレとだけ答えてさっさと立ち去ろ。


「……いや、ちょっとトイレ行こうとしてただけだけど」


 私が気怠そうに答えると、途端に永井が「ブハッ」と大袈裟に吹き出した。何だろう、凄くぶっ飛ばしたい。


「まぁ、そんな事はどうでもいいんだが」


 おい今の吹き出しは何だったんだ。

 人に質問しといて完全スルーとか、どういうつもりなんだマジで。ガチの嫌な奴じゃん。


 若干キレそうになったが、何とかセーブできた。

 私の手首を掴んでいた腕を眼鏡のフレームに持ってきて、少し前のめりになって、永井はこう言った。


「今朝の事だ。僕から話があると言って、まだ話せてなかったからな。こうして偶然会えた事だし…その続きといこうじゃないか」


 ……あーあ、忘れようとしてた事を。


 今朝、テストの順位を見ていた時にいきなり詰め寄られて、肝心の話は体育教師に邪魔されたやつだっけ。

 まぁ、確かに塵程度には気になってはいたが、自分から彼に会って聞きたい、と思うほどバカじゃない。


「あー結構です、さよなら」


 無論、私の意志は変わらない。

 早くしないと弁当を食べる時間が無くなる。

 軽く会釈をして、くるりと踵を返すが、


「ここじゃ何だから、場所を変えて話すとするか」


 再び腕を掴まれて、そのままグイッと引き寄せられた。

 なるほど、人の話を(ことごと)く無視していくか。上等だ。


 静かに湧き上がる苛立ちを抑えながら、私は成す術なく引っ張られるだけだった。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 そのまま連れてこられたのは……屋上。

 気温も午前中よりは高くなっており、空も雲ひとつ無い快晴となっていた。


 この学校では、屋上が常時開放されている。落下防止のために、高めのフェンスが設置されている。

 こういうちょっとした休み時間には、ここで時間を潰している生徒も大勢いるものだ。

 今はたまたま誰もいないのだが、むしろ助かった。

 こんな変人と一緒にいるところを見られでもしたら、私は必死に弁解の言葉を考えなければならない。

 次期の生徒会長候補という件を含めても、恐らく何事もない、なんて事にはならないだろう。


「さてと……ここなら大丈夫だな」


 ずっと握っていた私の手首が、彼の手から離れ、そのままフェンスの方へ放りやられる。結構強めに握られてたので、正直痛い。


「屋上まで連れてきて…そこまでして話したい事って何なんですか? 」


 ちょっとだけ、怒りを露わにしながら問いかける。


「ああ、期待して待ってな」


 返事はすぐに飛んできた。

 言っておくが、愛の告白とかなら速攻でお断りさせていただく。彼にそんな事は十中八九無いだろうし、そもそも自分の顔面レベルはわきまえている。

 当然、どーでもいいような内容だった場合も、次の言葉を聞く前に退散しよう…ってか今すぐ帰らせてはくれませんかね?


「んじゃ、単刀直入に言わせてもらうが……」


 今朝と同じセリフと共に、右手で私の頰を触れて、左手で後ろのフェンスを掴む永井。

 まさに"壁ドン"ならぬ"フェンスドン"状態だ。

 まぁコイツにこんな状況でやられても、萌え要素の欠片も無いんだけど。


 そこから謎に沈黙が続き、思わず唾を飲みこむ私。

 永井の迫力からか、無意識に後ずさりしてしまう。


 そんな沈黙が破れたのは、フェンスドンされてから約二分後のこと。

 右中指で眼鏡をくいっと引き上げ、ドヤ顔の永井が一言。






「お前…………不思議なチカラの持ち主…だな? 」





 ………さて、帰らせていただきましょうか。


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