表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
20/36

(3)


「単刀直入に言わせてもらうが……」


 の一言から、一向に喋ろうとせず、無駄に私をじっと見据える永井。

 隣であたふたしながら、心配そうにしている冬架。

 永井の背後で、次第に人数が増えていくギャラリー。


「おい、何の騒ぎだよ? 」


「いやぁ、何か永井が水園に話があるみたいでさ……でもずっと黙ってるんだよ」


「は? 何で次期会長候補が、あんな何の取り柄もなさそうな奴に用があるってんだ? 」

 

 同感です。

 ギャラリーもざわざわと賑わってきている。

 真夏の朝から、この樹林高には妙な緊張感が漂っていた。


「……あの、もうチャイム鳴りそうなんですけど」


 そう言いかけたとき、ようやく永井が、黒縁眼鏡を指でくいっと押し上げ、一言、


「君……」


「コラそこ何やっとるかぁ‼︎ もうHR(ホームルーム)始まるぞ、早く教室入らんか‼︎ 」


 言おうとした時、校門から戻ってくる体育教師の怒鳴り声が。


「やべ、体育教師兼生徒指導の若山だ‼︎ 急がねーとまた絞られるぞ‼︎ 」


 それを聞いた生徒たちは、一斉に逃げるように昇降口へと入っていく。

 その途端、タイミングよくHR五分前の予鈴が鳴った。

 

「永井、久我、水園、お前らもだ。早くしろ」


 若山は私たちをちらっと一瞥してそう言うと、そのまま去っていった。

 話そびれた永井が「くっ…」と不服そうな表情を浮かべ、目を逸らす。

 ……助かった。面倒そうな話を聞かなくて済んだ、生徒指導を受けなくて済んだという、二つの点で。

 私が心の中で安堵していると、永井が再びこちらを向いて一言。


「……まぁ、この話はまた逢う日までのお楽しみ、という事にしておこうかな……では、さらばだ! 」


 あ、結構です。もう関わることないと思うんで。


 それだけ言って、永井も昇降口へと進んでいった。

 その後ろ姿をしばらく見ていたが、まだまだ自信満々、むしろさっきより増したかのように、悠然としていた。


「……マナちゃん、私たちも入ろう? 」


 ずっと隣で一言も話さずにいた冬架が、ようやく口を開く。

 無理もない。あんな変人との会話に平然と割り込めるほどの強靭なメンタルは、彼女には無さそうだから。


「うん、そうだね」


 素っ気ない返事を返す。

 私はまだ、その場を動けずにいた。


 永井の話……何だったんだろ? あんなギリギリで中断されると、逆に気になってしまう。

 何か私にとって重要な話なのか、それとももっと別の何かか……。


 いやいや、何考えてんの私。

 あんな醜悪男、これからもう関わることもないんだから、そんな気にかける必要もないのに。

 大体、今の件のせいで、またみんなから変に注目を浴びてしまった。私はただ目立たないように、平和に学校生活を送りたいだけなのに……。

 何故こんなにも私の理想が、(ことごと)く第三者に崩されていくのだろう……。


「マナちゃーん? 早く、また怒られちゃうよー? 」


 後ろで呼びかける冬架の声に、私はハッとする。

 ……まぁ考えても仕方ない。まずは最低限、アイツに遭遇しないようにしなければ。


 私は慌てて、既に昇降口を抜けようとしている冬架の後を追う。

 焦りのあまり、何かに左足の爪先をガンとぶつけ、ぶつけた"それ"は、鈍い金属音を立てて倒れる。


「……ちょ、冬架さん! 自転車置きっぱなし‼︎ 」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ